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いつもラジオ体操をする中庭に、準備をした。
リツがいつから用意していたのかは解らないけど、道具だけはあって、ノリオたちは全員でそれを設置した。
「よーしこんなもんかなー」
最後の一個を置いて、みんなで確かめる。
直径が10センチくらいの、食べ物の空缶だ。
中庭はいくつか外灯があるだけで、ところどころ暗い。
その中での作業だったけど、明るかったら意味がないから仕方ない。
「よーし、詩央姉呼ぶぞー」
「いいよー」
そして全員で、3階上のベランダに向かって名前を呼んだ。
騒いでるノリオたちの部屋は、まだ電気がついている。
窓を開け放しているのは解っているので、声は届くはずだ。
「しーおーねーえー!」
3回名前を呼ぶと、一体何事だ、と気付いた詩央がベランダから顔を出した。
その後ろから、親たちの顔も見える。
「おし、端から着火だ!」
リツの掛け声で、ノリオたちは小さなチャッカマンで空缶に火を付ける。
缶の中身は、油を浸した布だ。
簡単に火がついて、ノリオたちの足元は一気に明るくなった。
いくつもいくつもつけて行って、それでも地上からは何をしているのか解らないままだろう。
3階のベランダから見ていた詩央の顔で、成功したことが解る。
中庭に、しおねえおめでとう、の文字が明るく光っていた。
暗い夜の中に光る、お祝いの言葉。
それは詩央を何より嬉しそうにさせるものだった。
地上から、詩央が喜んだのが見える。
ノリオたちは、それだけで満足だった。
これ以上の満足感は他にないだろう、と思うくらいだった。
「・・・ありがとう」
ベランダから、風に乗った詩央の声が聞こえた。
どこか泣きそうなものに聞こえるのは、空耳じゃないかもしれない。
ノリオたちはそれを合図に、もうひとつ用意していたものに火を付けた。
「発射準備ー!」
「おっけー!」
「はっしゃあー!」
掛け声とともに、バチバチと導火線に火が灯る。
そして、高い音とともにいくつもの小さな灯が空に昇って、弾けた。
ぱぁーん
一斉に鳴った花火は、星空をさらに明るく照らした。
外の騒ぎに気付いて、他の住人たちもベランダから外を見ていた。
花火を見て、子供たちがみんな喜んでいた。
「成功~!」
と手をたたき合ってるノリオたちに、大きな声がかぶさる。
「――あんたたちっここで打ち上げ花火は禁止されてるでしょー?!」
詩央のいつもの声だった。
「やべっ」
「逃げろ!」
ノリオたちは一斉に駆け出して、大人の見えないところまで走った。
どこにも暗い所なんてない、輝くような笑顔で走り抜けた。
それが、最後の夏休みの始まりだった。
夏休みが始まりました。
終わったけど(笑
時間があれば、次は冬休みとか書きたいです。
時間が・・・