因果応報
朝、八時。
ランチの仕込みの為に店に向かっていたヨシエの足が止まった。
店先の路上にイヤな物を見つけたからだ。
ゲロであった。
店に入り、掃除用具を取ってくると片付け始める。
ヨシエは息を止めながら顔をしかめて掃除するのであった。
処理を終えた彼女は店に入ると厨房に立ちランチの仕込みを始めた。
時間がない。汚物の後始末に時間を取られたからだ。
十一時には店を開けなければならない。
急がなければならない、集中しなければいけないのに、つい隣の居酒屋の店主の事を考えていた。
ヨシエは下戸である。
二十代の頃、会社勤めで営業部に配属された時は苦労した。
接待の場で、しつこく酒を勧めて来る顧客に悩まされた。
酔っ払って卑猥な事を言ったり説教をする顧客の姿は醜態としか思えなかった。
だからこの店を開いた時から酒は提供していない。
酔っ払いに悩まされるのは、まっびらごめんなのである。
それなのに何度も、こんな目にあわされている。
そして彼女の頭を悩ますのは酔っ払いだけではなかった、居酒屋の店主もだった。
ヨシエの店は午後九時で閉めるが居酒屋は午後十一時まで営業している。
十一時過ぎに居酒屋の店主が帰る時に、ヨシエの店先に汚物があるのを見つけたはずである。
この辺りで酒を提供しているのは隣の居酒屋だけだ。
居酒屋の客の置き土産である事は明白なのに、素知らぬ顔をして帰ってしまう。
ヨシエは店主の顔を思い浮かべてはイライラを募らせるのであった。
そして翌日。
「あっ」
前日と同様、汚物を見つけたヨシエは掃除を済ませると慌てて仕込みに取りかかった。
ヨシエの中に沸々と怒りが込み上げてくる。
今日こそ、隣に怒鳴りこんでやる
そう、腹を決めた時だった。
あるアイデアが頭に浮かんだ。
午前零時近く、居酒屋の店主は鍵を閉めると店を後にした。
それから十分後、暗かったヨシエの店に灯りがともった。
ヨシエは昼のうちに買っておいたピールを冷蔵庫から出すとカウンターに座り飲み始めた。
相変わらずマズイわね
そう思いながら飲み進む。
普段、酒を口にしないので、もう酔いが回って来た。
でも、それだけでは目的は果たせない、彼女は二本目のピールを開けた。
そして三本目が空になろうかという時、急にソレはやって来た。
ヨシエは慌てて店から出ると隣の店先にぶちまけた。
ゲエ〜
吐いて気分が良くなった彼女は自分の店に戻った。
顔を洗い冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。
少し罪悪感を感じながら水を飲んだ。
しかし頭を振りながら思った。
いいえ、私が悪いんじゃないわ、あの男が悪いのよ、因果応報よ
彼女は呟いた。
「これからは泣き寝入りはしないわ、毎回、仕返ししてやるわ」
ヨシエは愉快だった、愉快でたまらなかった。
翌日。
店で倒れているヨシエが見つかった。
死因は……急性アルコール中毒であった。




