顔合わせ③
「…そうだ、それで一個聞きたい事あるんだけどさ、二人は”憑依者専用ショップ”って何か知ってるか?そのイベントの報酬でそこのコイン貰ったんだけど」
聞くべきだったことを思い出して陸人が尋ねると、瑞希が机に身を乗り出すようにして立ち上がった。
「それなら僕知ってますよ!」
役に立てる情報を早速渡せる、と嬉しそうに満面の笑顔で頷いた瑞希に、陸人も天馬も「マジで!?」と驚いて目を見開く。ダメ元くらいの気持ちで聞いたのだが、まさか本当に情報をゲットできるとは。
「ショップは学園の中にあるんスよ。僕もたまたま見つけたんスけど、毎日決まった時間帯に、あの食堂の自動販売機が変な光を放ってて、僕以外には光が見えてないみたいだったんで、不思議で覗いてみたら、憑依者専用ショップって書かれてました」
「……マジか?」
そんな近くに、それも分かりにくいところにあったとは。たまたま発見した瑞希はすごい。
「商品のラインナップも凄くって。…いろんな魔石とか、日本の食品、日用品とかが沢山ありました。僕は手持ちのコインが微々たるもんだったんで、ガムひとつしか買えなかったんスけどね」
でも美味しかったっス!と笑う瑞希が知恵の神に見えてくる。
「いやあ、ありがてぇ~。さっそくまた今度行ってみるわ。その時間帯っていつ頃?」
「夕方の七の鐘が鳴ってから20分間くらいっスかね。放課後なんで他の生徒もいなくて、けっこう穴場なんスよ」
親指を立てて笑う瑞希に頷いていると、丁度図書塔の閉館時間を知らせる音楽が流れてくる。
外も薄らと暗くなってきており、そろそろ寮の門限の時間も近づいてきた。懐から時計を取り出して時間を確認した天馬が、一同を見回して口を開く。
「…もう寮の閉門時間も近いから、今日はここで解散にするか。…できれば、二人とは今後も定期的にこうやって集まれると有り難いんだが」
解散の流れになったので、陸人と瑞希がせっせと残りの紅茶やお菓子を平らげる。ちなみに寮の閉門時間に間に合わなかったら減点だ。
「勿論っスよ~!」
「こちらとしても有難い話だな」
似た境遇に直面している仲間として、十分に上手くやっていけそうなメンバーで、今日は安心を手に入れることができた、と成果は上々だ。
予想以上にちゃんとした情報を仕入れることもできたし、二人は立場も性格もバラバラなので面白く、手っ取り早くコンタクトを取ることを選んで正解だったと満足する。
「あ、俺たち、普段はちゃんと猫かぶって、素材のままお嬢様キャラやってんだけど、外で見かけてもそこツッコむのは無しな」
人差し指を口元にやって、眉をキュッと寄せて念を押す陸人に、尚親が苦笑して、瑞希が大きく頷く。
普段の猫被り中は勿論、陸人達は生きるために、職人のように真剣に演技をしているが、二人からツッコミを受けてしまったなら、そこでスイッチが切れてしまう可能性が非常に高い。恐らくしっかり恥ずか死ぬ。
「わかった。対応は気をつけよう」
「了解っス!いや~、お二人のご令嬢っぷりを見るの、楽しみっスね~」
じゃあ帰るかー、とそれぞれが腰を浮かし、茶器を片付けるなり、カーテンを閉めるなりして退出の準備をしている時、ふと、そわそわしていた瑞希が、いっちゃえ!という感じで陸人と天馬に質問を投げかけた。
「…あのぅ、お二人に質問よろしいでしょうか? 野暮は承知なんですが、好奇心に負けてしまい…」
何やらモジモジ、ワクワクと鼻息荒く、期待を込めたような表情で視線を彷徨わせている不審な瑞希に、二人はそろって首を傾げる。
「ん?」
「何だ?改まって」
瑞希の視線がそろっと二人の手元に向かった。
「僕の眼球がバグってなければ、その指輪、おそろいに見えるんスけど、…もしやお二人はそういったご関係で?」
陸人と天馬は顔を見合わせた。確かに二人の指には、作中ではヒロインと悪役令嬢が揃いで着けるはずもない、緻密な銀細工のリングが輝いている。
しかし次の瞬間ブフッと噴き出して、腹を抱えて笑いだした陸人と、困ったような仏頂面で指輪を触る天馬の反応を見て、瑞希は目を瞬かせてから、思っていた反応と違うと明らかに落胆した。
「あー、これ?…っ、アハハ、ペアリングかと思った?」
「あれぇ?違うんスかー?」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら、なおも笑い続ける陸人が説明する。
「これな、魔道具だよ。クリスティーナの家お抱えの魔工具士に作ってもらってな。通信機能があって、位置情報の共有もできんの。たしかに機能はカップル向けかもなぁ」
今思えば、指輪をプレゼントされるのはロマンチックなシチュエーションだったな、と気づいて爆笑しながら天馬の肩を小突く。
「魔道具っスか!ファンタジーの定番っスね~」
「だよな!やっぱ魔道具ってかっけぇから、次は炎が出る剣とか、何でも入る袋とか、未来が視える眼鏡とか、浪漫重視のやつを作ってもらう魂胆!」
ニパニパと笑って希望を述べる陸人に、「魔法は何でもありじゃないぞ」という天馬からのツッコミが入るが、夢を見させてくれるのが魔法なのだ。そしてそれを可能にするクリスティーナの家の財力も揃っているのだから、希望を並べるくらいはしたい。せっかくの異世界だもの。
「魔道具欲しいんだったら、二人の分もこれ作ってもらうか?」
指輪を嵌めた指を上げて見せ、陸人が気を利かせたつもりで提案するが、瑞希は一瞬迷う素振りを見せて、しかし微妙な雰囲気の笑顔で首を横に振った。
「…いえー、流石にこのメンツでペアリングは色々とアレなんで、遠慮しとくっス」
確かにそうだな、とその場の四人は揃って微妙な表情を浮かべて頷いた。




