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魔法理論の授業①




 ぶじにイカルドに二人の医務室行きを伝え、迎えた一限目。


 待望の魔法理論の授業である。


 「クリスティーナさんはもうすでに魔法を習ったことがあるのですよね?」


 ヘレンの記憶によると、この国では一般の魔法の行使や教育は法で禁止されているらしく、王家やそれに匹敵する権力を持つ貴族ら以外は学園に入学するまで習うどころか教本を見ることすら許されていない。


 そのため並外れた光魔法の適性をかわれ伯爵家の養女となったヘレンでも今の今まで魔法のまの字もない人生だった。


 まあそれは法律に敏感で足元をすくわれやすい表社会でのことであって、裏社会や手段を選ばない国民たちはその限りではなく、お構いなしに魔法どころか禁止武器(超危険なやつ)でさえポンポンと飛び交っている。


 「ええ。とはいっても習ったものは護身用の簡単なものなのだけど」


 羨ましいことに流石の公爵家。クリスティーナの実家である公爵家はその法を免除されている限りないうちの一つなのだ。本来は学園での履修が終わったあと日常生活での魔法の使用も規制されるのだが、彼らはそれでさえも免除されている。


 実に羨ましい。


 「凄いですねー!では、私が授業でわからないことがあったら頼らせてもらってもいいですか?」

 「もちろんよ。私でお役に立てるならなんでも聞いてくださいな」

 「ありがとうございます!」


 と会話をしていると教室の前の扉から物腰が柔らかそうな高齢の女教師が入ってきた。


 陸人は前を向き姿勢を正す。陸人自身、自らのテンションが爆上がりしてる自覚はある。なんたって実際に魔法が使えるのだ。ファンタジーだ。アガるなという方が無理があるだろう。


 「新入生の皆さん、はじめまして。私はこれから皆さんが卒業するまで魔法理論を担当させていただくアマンダです。はじめての魔法で興奮していたり緊張していたり不安に思っている人も多いと思うけど、ぜひ肩の力を抜いて正しく安全な知識を身につけていきましょう」


 よろしくねと微笑むアマンダ先生は高齢なのにめちゃくちゃ可愛い。さすが顔面至上主義の乙女ゲームの中の世界。


 (ありゃぁ生徒からまったく嫌われねぇタイプの先生だわ…)


 学校に一人はいる、優しくて可愛くて冗談も言えて、時には厳しく生徒思いに叱ってくれる嫌われる要素0%の先生。ああいうタイプはヤンキーにも偏見なく接してくれる系なので陸人も天馬も大好きだ。たまにお菓子とかくれるし。


 「でも、初日から座って座学をするのはつまらないものね。今日は基本で危険性のない初歩的な魔法を実際にやってみようと思います。教材はしまってくれてけっこうよ」


 その言葉に教室内は一同喜色に染まる。


 いそいそと皆が広げていた教材や筆記具を片付けると、アマンダ先生は微笑み黒板に文字を書きだした。


 今更だが、この世界の文字は日本語で統一されているらしい。西洋風の世界観には多少そぐわない感も否めないが、まあ日本版のゲームであるためなんら不思議はなかった。というか正直ありがたいことこの上ない。


 「まず、今日やるのは、今後皆さんが魔法を使っていく上で、潜在的に何が得意か、向いているかを含めて、自分の適性や能力を知ってもらうことです。この中でもうすでに魔法を使ったことがある生徒も何人かいるはずだから、その子達は知っていると思うけど、魔法にはそれぞれ得意不得意があります。」


 アマンダが魔法の杖のようなものを取り出し、教壇の上で両手を広げ軽く振った。


 「ちなみに私の得意な属性は水と土よ」


 教室内に無数の水の球体が現れ、それが競うように高速でアマンダの周りを渦巻いたかと思うと、教壇がいとも簡単に裂け、大地が飛び出てきた。


 「こんなふうに得意な魔法は、練習すればするほど強力な力を習得することができるけど、不得意な属性はあんまり実力を伸ばすことはできないわ」


 さすがゲームの中の世界と言わざるをえないほど幻想的で超常的な現象に驚きながらも、集中して目を凝らしてみると、アマンダの杖の先にマッチの火ほどの小さな炎が灯っているのが見えた。


 なるほど、適性で起こすことができる現象の規模に大きな差がでるらしい。


 「それでも、私のように水と土に適性がある人は植物との相性が良かったり、他にも楽しいことはたくさんあるし、魔法の可能性はまだまだ無限にあるのよ」


 アマンダのハツラツとした元気な笑みには若さが感じられた。


 天馬も陸人も、少年のように目を輝かせワクワクする。


 「そして今から皆さんにやってもらうのは、こういった自分の適性を知ることです。本来なら適性を知るための初歩魔法も、魔力の存在と感覚を時間をかけて知ってからでないとできないのだけど、最近は便利なものが発明されているからそれを使ってすぐに実践できるのよ」


 そう言ってアマンダが杖を振ると、教室の隅に置かれていた木箱の蓋が開いて、中から無数のキャンディーが生徒たちに向かってふよふよと浮かんで飛んでいった。


 「これは”マメットキャンディ”といって、三年ほど前に魔道具開発学科のマメットさんが開発してくれたものなの。これを舐めると数分のうちに身体の中を流れるマナが常人でも感知可能なレベルまで可視化、発色するのよ。これはとても歴史的な発明で、彼女は現在、若くして魔法連合開発部のトップに近い位置にいるわ」


 説明を聞きながら、生徒たちの大半は自分たちの前に浮いているいかにも怪しげなキャンディを物色し、食べても大丈夫なものなのかと怪訝な顔をする。


 このクラスは身分が高かったり、昔から能力があった者たちがほとんどであるため、潔癖とは言わずとも口に入れるものには最大限注意を払っている者が多いのだろう。


 「安心してちょうだい。材料は、マンドラゴラ、フェニルの葉、コボルトの爪、ラフィンの根、コドラン蜂蜜と聖水よ。いずれもほとんど毒性はないし、あっても聖水が入ってるから有害なものではないわ」


 材料を聞く限り安心できるかは疑問でしかない。


 フェニルとかラフィンとか初耳すぎるが、この世界での聖水は絶対の救いであるという謎方式があるので恐らくは大丈夫なのであろう。と信じたい。


 「さあ、味は美味しいしパクっと食べちゃって。食べずに地道にやる方法もあるけど、最低でも4ヶ月はかかるだろうからあまりオススメはしないわ」


 授業一つ分の過程に四ヶ月もかかっていてはさすがに単位がやばいと思う。


 アマンダの深くておそろしい笑みを見た生徒たちは、次々と飴を咥えていった。


 「もちろんもうすでに魔力の操作を覚えている生徒は、食べても食べなくても自由だからね」


 そう聞いて天馬は口に持っていきかけていたキャンディを離した。


 「…クリスティーナさんはもう魔法を使えるので食べないでいいんですね」

 「ええ、どんな味だったか教えてちょうだいね」

 「…はい」


 陸人は周りにバレない程度に半眼で睨みながら、くっそ羨ましいぜとは表情に出さずに頷き、一思いにキャンディを口に放おった。


 「あ、美味しっ」


 陸人は予想外の美味しさに目を見開き頬をおさえた。


 「あら、どんな味だったの?」

 「えっとですね、なんていうか…チョコ?に近いかんじですかね?甘くて癖もなくて食べやすいです」


 あの材料の内容でどうやったらこんな味が出るのか。甘そうなのはなんとか蜂蜜くらいしかなかったはずなのだが、これを開発したマメット?さんはパティシエにでもなればよかったのにと思う。


 それくらい結構おいしい。


 「クリスティーナさんも食べてみてはどうですか?けっこう美味しいですよ」


 天馬は疑わしげに浮いているキャンディを数秒眺めて、もう一度手に取った。


 「そうね…」


 パクっ。


 「………うま」


 小声だったので良かったが、口調が外見に似つかわしくないありさまになっていた。


 「ですよね!なんかちょっと懐かしい感じもするというか」


 言うなれば、昔ながらの駄菓子屋に置いてありそうな、そんなかんじだ。


 陸人も天馬も駄菓子屋に行ったことはそんなにないので、完全に想像でしかないが。


 しかし、お貴族様たちの舌に合うかは疑問だったが、見てみれば最初とは一転、みんな楽しそうにキャンディを舐めていた。アマンダもそれを満足そうに眺めている。



 「―――…っあ!見てくださいクリスティーナさん!何人か光ってる人がいますよ!」


 陸人はすでにキャンディの効果が現れているらしい生徒を数人見つけ、指をさして興奮しながら天馬に教える。


 「…本当ね」


 天馬もあんなふうに光るのかと目を丸くしている。クリスティーナが魔法を習うときには、このキャンディは使わなかったのだろうか。


 「あれがマナなんですか?」


 その光っている生徒の、肌が露出している喉や手首あたりに青い光の線が見え、幻想的な光景に目を奪われる。


 「そうよ、マナは水脈のように体中に根を張っているの。って言っても、私もあんなふうに見たのははじめてなんだけどね」

 「へ〜〜!」


 そんなふうに話していると、いよいよヘレンとクリスティーナの体も少しづつ発光してきた。




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