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第9章 断罪

 話の中盤ですが断罪劇が始まります。悪い人達はそれぞれきちんとざまぁされますが、それほど残酷なシーンはないと思います。


 レイモンド王太子が、長年探し続けてきた初恋のご令嬢をついに見つけた。そしてようやくその想い人に愛の告白をした……

 

 そんな微笑ましいエピソードが世間に流れ始めたと思ったら、それから間を空けずに、今度は王太子がその初恋の相手である伯爵令嬢と婚約した……という発表がなされた。

 そのスピードの早さに皆驚きながらも、王城のみならず、国民の間にもほんわかムードが広がった。

 ところがその半年後、幸せな雰囲気に包まれていたその王城に、今度は突如激震が走った。

 

 ✽

 

 というのも第二王妃が流行り病で急死し、その喪が明けないというのに、第二王子が学院卒業と同時に、第二王妃の実家である隣国の女王の元に婿入りすることが決定したからだ。

 その隣国の女王とは亡き第二王妃の姪だった第一王女で、最近即位したばかりだった。

 

 あんな不出来な第二王子を王配などにしていいのか、と隣国の事情を知らない者達は思った。

 しかし、隣国の王室は長年の失策で貴族や国民からの支持を無くし、国政は貴族の合議の元で動かされていて、王政は既に形骸化していた。

 そして暴君だった前国王は、奇しくも隣国へ嫁いだ末の妹と同じ流行り病で、彼女よりも半月ほど前に亡くなっていた。その上、後継者だった嫡男は遊学中にそのまま亡命してしまい、国に残されのは第一王女と子爵家出身の後ろ盾のない王妃だけだった。

 

 それ故に隣国では、なまじ優秀な王配などは今さら必要とされていなかったのだ。そしておそらく女王夫妻は、将来子には恵まれないだろうと噂された。


 ✽

 

 そして第二王妃が亡くなった後も、ライディン王国には様々な大きな動きがあった。

 いくつかの家が取り潰され、数十人の国の要人や官僚が処罰されて刑に服した。その罪状が明らかにされた者もいれば不明のままの者もいた。

 一見すると理不尽にも思える対処だったが、異議を唱える者はいなかった。

 重い処罰を受けた者達が何をしたのか、ほとんどの者達にはおおよその察しがついていたからだった。

 

 ✽

 

 一年近く前に王立学園の王族用の部屋で、王太子に毒を盛ったのは王太子の側近の一人だったポール=ハミルトンという男だった。

 エルディアが差し出した解毒剤と聖水を飲ませないようにと妨害した男だった。

 その男は侯爵夫人だった母親が執事と浮気をしてできた子供だった。侯爵夫人はそれを夫にばらすと第二王妃派の者に脅されたのだ。

 そしてその母親に懇願されて、息子は不本意ながらもあの犯罪に手を染めたようだった。

 

 その男には多少同情の余地があるようにも思えたが、所詮彼も己の保身のために、王太子を暗殺しようとしたのだ。温情をかけるわけにはいかなかった。

 母親は処刑され、息子は労働付きの終身刑に処された。

 父親のハミルトン侯爵は全く知らないことだったので罪には問われることはなかったが、監督不行きの罪を自ら負って貴族籍から抜けて平民となった。

 商才のある人物なので、なんとか生き抜いていけるだろう。

 それに次男は優秀な少年だったので、平民になってもそのまま学園に残った。彼なら家を再興できるかも知れないと彼を知る者達は思った。

 

 ✽

 

 そしてそれほど話題にはならなかったが、陛下の側近として長らく仕えていた高級官吏が、定年を待たずに引退し、伯爵位も嫡男に譲って隠居生活に入った。

 直属の部下が王太子殺人未遂という大罪を犯したために引責辞任となったのだ。(その部下とは隠れ第二王妃派の者だった)

 

 その元高級官僚の私生活をよく知っている一部の者達は、いくら広い屋敷とはいえ、日がな一日妻三人と過ごすのは辛いだろうと同情した。領地を持たない宮廷貴族では逃げ場所もないしと。

 そしてたまに夜の社交場で彼の愚痴を聞かされては、ああ、自分達は妻を一人にしておいて良かったと心底思ったらしい。

 

 己の失態で職を追われたその男は、妻達だけでなく十人もいる子供達の誰からも相手にされなかった。

 顔を合わせただけで、子供達からはまるで凍り付くような冷たい視線を投げつけられた。

 しかしそれは自業自得だった。かつては男も子供達にそんな視線を向けていたのだから。

 

 ✽

 

 それから、ガードナー侯爵家のセリーナに野菜ジュースをかけたあの令嬢は、あの事件の二か月後には既に退学になり、修道院へ入れられていた。それは当時学園でも大騒ぎになっていた。

 何でも彼女は元第二王子エドウィンの幼馴染で、本当に彼を好きだったらしい。それ故にエドウィンがセリーナとの婚約を望んだことにショックを受け、嫉妬心でやったことらしい。

 

 エルディアは彼女にだけは少々同情した。彼女もまた侯爵令嬢であり、学園に入学できるほどの才女だったのに、あの不良債権なんかを好きになったせいで、あんな愚かなことをしでかしたのだから。

 

『恋とは盲目というのは本当よね。

 自分だって王太子を思い続けて、まるでストーカーのようにこの学園に入学してきたのだから、人のことは言えないわ』

 

 今では何故か王太子の婚約者となったエルディアは心の中でそう呟き、彼女ならいずれしっかりと反省して、社会復帰できるでしょ、と思った。

 

 ✽

 

 そしてその他のご令嬢方はどうなったのかというと、半分は謹慎処分、残りの半分は退学どころか貴族の身分と財産を没収されて国外追放となり、処分にかなりの差がつく結果となった。

 

 というのも、軽い処分で済んだ令嬢達は、ただ単に例の侯爵令嬢の嘘を鵜呑みにしていただけだったからだ。

 その令嬢達は、セリーナがあの侯爵令嬢から第二王子を奪った悪役令嬢なのだと本当に信じ込んでいたのだ。

 だから彼女達は悪びれることもなく、自分達は正義だとばかりに、ある意味堂々とセリーナを取り囲んで嫌味を言っていたのだ。

 真実を知らされた令嬢達は泣きながらセリーナに謝罪し、許しを得ると、彼女に対する生涯に渡る忠誠を誓ったようだ。

 もっとも、セリーナはそれを酷く迷惑がっていたのだが。

 

 ✽

 

 ところが、もう半分の令嬢達は第二王妃の命で、意図的にレイモンド王太子とセリーナを陥れようとした。

 

『第二王子のエドウィンとガードナー侯爵家のセリーナは元々は愛し合っていたのだが、そこに第一王子レイモンドが割り込んでセリーナに無理矢理関係を迫った。

 そしてレイモンドは卑怯な手を使ってセリーナを手に入れて王太子の地位を確実にした。

 ところが弟に対する嫌がらせと王太子の地位のためにセリーナを奪ったものの、一度関係を持つとレイモンドはすぐに彼女に飽きてあっさりと捨ててしまった。

 

 セリーナはエドウィンと寄りを戻したがったが、さすがに相手にされなかったために、仕方なくレイモンドに縋りつき、無理矢理に生徒会役員になった。そして今もレイモンドに付きまとっている。

 そして二人の王子に相手にされない恨みでセリーナは悪役令嬢となり、例の侯爵令嬢を始めとする、彼らに近付く女性達を陰で虐めている。

 そのせいでレイモンドは王太子になっても、未だに正式な婚約者が決まらない。しかしそれは王太子の自業自得である』

 

 こんな悪意ある嘘を態と流布していたのだった。

 読んで下さってありがとうございました!

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