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君は僕の福の神  作者: 悠木 源基


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第15章 『梟の使い』


 レイと話をしているうちに、彼もまた、忙しい両親とは滅多に会えない環境にいることをエルディアは知った。

 しかも弟は腹違いのために、顔を合わせても話もさせてもらえないのだという。そしてその第二夫人はとても恐ろしい女性で、色々と嫌がらせをしてくるらしい。

 

『私も両親には構ってもらえないけれど、第二夫人はいないから虐められることはないし、仲の良い姉もいる。そしてかわいがってくれる使用人達もいる。

 自分は恵まれているのだな』

 

 エルディアは改めてそう思った。それに比べてレイのところは最悪だと思った。

 

「それにしても、レイのところの使用人はなんて酷い人達なのかしら!」

 

 とエルディアは憤った。

 

「そんなに酷いかな?」

 

「酷いわよ、鬼畜よ。

 レイの傷ね、しばらく薬を塗ってさえおけば、そんな傷跡は残らなかったのよ。

 それに、『初めての日』をする子供に何の準備もせず、何の知識も与えないで市井に放り出すなんて信じられないわ。常識がないにもほどがある。(暴漢から身を守ればいいって話じゃないでしょ!)」

 

 エルディアはリュックサックから紙とペンを取り出し、翌日に準備すべき物を書いてレイに手渡した。それと傷薬も。

 

「これあげるわ。古い傷跡にも塗ってみて。多分跡が薄くなると思うから。

 じゃあ私帰るね。お姉様が心配するから」

 

「あのさ、明日また会えないかな。タオルを返したいし、薬のお礼もしたい」

 

「お礼はいらないけど、タオルは返してもらいたいかも。

 分かった。明日の午後二時過ぎ、パレードの馬車がいなくなった頃にまた噴水の前で会おう」

 

 エルディアはそう言うと、手を振ってレイと別れた。

 そして翌日。

 レイが待つ噴水の前へと急いでいたエルディアは、偶然レイを吹き矢で狙っている男を見つけたのだ。

 そして暗殺を阻止して、暗殺者の後を追って行き、そこに停まっていた馬車に乗っていた、ピンクブロンドの髪の女性を見て衝撃を受けたのだ……

 

 

 ✽✽✽

 

 

「君は僕の暗殺を未然に防いでくれただけでなく、犯人の後を追いかけて、僕の命を狙う主犯の正体を教えくれた。

 おかげで僕は敵を知ることができて、対策を練り、今日まで生き抜いてこれたんだよ。

 しかも身を守る道具までリュックサックから取り出してプレゼントしてくれたよね。

 あれのおかげで何度僕は命拾いしたかわからないんだよ。あの時くれた二つの笛は僕のお守りなんだ。いつも持ち歩いてる。ほらっ!」

 

 レイモンド王太子は、礼服のスラックスのポケットから金銀二つの笛を取り出して、その片方の銀色の笛を口に咥えた。それを見たエルディアは慌てて言った。

 

「いくら人間には聞こえないからって、それをここでは吹かないでね」

 

「もちろんそんなことはしないよ。当たり前だろう。これから披露宴だというのに、魔犬達がここに集まってきたら不味いだろう?」

 

「そうよ。もしそんなことになったら、来年の私達の結婚式の時に絶対に復讐されるわ」

 

「それは絶対に御免被りたいね。福の神との結婚式を邪魔されたら堪らないからな。

 そうでなくても、こんなにも待たされているのに……」

 

「ねぇ殿下、前々から聞きたかったんだけど、その福の神って何?」

 

「エル。実は僕はね、あのカーニバルの日に、かわいい(リュックサック)に幸福をたくさん詰め込んだ小さな女神様に逢ったんだよ。

 そして、その袋の中からたくさんの幸福を分けて貰ったんだ。だから、あの日から僕はずっと幸福なんだ。わかる? 

 あの日から君は、ずっと僕の福の神だったんだよ。だからこれからもずっと僕の福の神として側にいておくれ」

 

 王太子は愛しい婚約者のおでこに優しくキスをした。

 十歳の時からすっと思い続けてきた愛する人からのお願いを聞いたエルディアは、片手に持っていた袋をギュッと握りしめながら、

 

「もちろんよ」

 

 と頷いた。そしてまるで花が咲いたように笑った。

 

 

 

 ✽✽✽✽✽✽✽

 

 

 

 そしてさらにもう一年が経った。

 

 国民が待望する、レイモンド王太子とエルディア伯爵令嬢の結婚式が近づいてきたある日のこと、王都のとある出版社に役人がやって来た。

 そしてとある書籍の出版停止を命じた。なんでも国の秘密事項が記載されている、という理由だった。

 

 ところがその出版社の社長は強気でそれを突っぱねた。あの本はあくまでもフィクションで、架空の国の話だと。

 それにも関わらず、もし秘密事項が記載されているからという理由で出版を差し止めようとするならば、この本の話がノンフィクションだった、事実だったと国自ら認めることになりますが、それでもいいんですか!と。

 そう言われてしまえば、役人はすごすごと引き下がるしかなかった。

 そもそもこれだけベストセラーになってしまっているのに、今更回収してなんの意味があるのか不明だと、社長は思った。

 

 そして王太子と伯爵令嬢の世紀の結婚式当日。

 

 

「あの本の影響だな。平民だけでなく貴族達までますます君を『幸福の梟令嬢』『梟の使い』だと信じているよ」

 

 たった今厳かな結婚式を終えたばかりの王太子レイモンドは、王城のバルコニーに立って国民に手を振った。そしてようやく自分の妻となったエルディアに、微笑みながらこう言った。

 すると王太子妃は少しげんなりした顔をして、夫となった王太子を見上げてこう尋ねた。

 

「殿下は何故あの書籍の出版をお認めになったのですか?

 あれ、ほとんど本当のことですよ。つまり我が国の秘密事項じゃないですか」

 

「そうは言っても、どうせ国王が出したあんな箝口令は、とっくに有名無実化していただろう? 

 あの一連の出来事はもうみんなとっくに知られている」

 

「そりゃあそうですけど、何もその事実を壮大なラブロマンスに仕立てなくても……」

 

「庶民はラブロマンスが大好きなのさ。しかもその困難が大きければ大きいほどね。

 

 継母(実際は第二王妃)に命を狙われ続けている、孤独で不運な王子。

 女神はそんな彼に幸せを与えたくて、彼同様に孤独な少女を『梟の使い』としてこの世に送り込んだ。

 王子はその少女に出逢ったことで命を救われ、生きる力を得た。しかし継母の陰謀で二人は別れ別れになってしまう。

 その後王子は、様々な敵と戦いながら、その少女を探す旅に出るが、容易には見つからない。

 

 そんな時、王子は部下の裏切りによって再び命を狙われる。

 そんな彼を救ったのは、またしてもあの時の少女だった。

 少女は王子の身を案じ、姿を変えて少し離れた場所から常に見守っていたのだ。

 ようやく少女に逢えた王子は大いなる力を得て、継母の王妃の罪を暴き出した。

 

 その結果、己の後妻(王妃)や家臣の罪を見逃し、王子だけではなく多くの国民や臣下達を長年苦しめてきた国王は、王子に忠義を誓った臣下達の手によって、王妃と共に遠い最果ての地に幽閉された。

 そして愚王を操り、私利私欲で政を動かしていた家臣達も一掃された。

 その後新たな国王となった悲劇の王子と、王妃となった『梟の使い』であった少女によって、新たな国造りが始まった。

 やがて貧しかった国は少しずつではあるが豊かになっていった。それは梟の使いである王妃が、民に小さな幸福を毎日送り届けたおかげだった。

 そんな王妃を国民は愛した。しかしその愛は、国王の愛には遠く及ばなかった……エンド」

 

「このような場所で、あの本のあらすじを語るのはお止め下さい。ダイジェストだと余計に恥ずかしいです。

 でもこの話って、一種の脅しですよね? 王太子に逆らうとこんな未来が待ってますよと」

 

「いや、この本の企画を練った連中も、最初はそんなつもりは一欠片もなかったみたいだよ。

 ただ未だに、伯爵令嬢ごときが王太子妃になるなんてとんでもない。儂の娘の方が相応しい、とかほざいている輩がいるらしいんだ。

だから懲らしめてやらねばと、あの冷静沈着な側近達ランスとジョンスタットが怒り出してね。

 

 その上それが奥方達(女伯爵とセリーナ)の耳にまで入って、その計画に賛同してしまったんだよ。

 ああ、君の友人ラミレとホーランド達もね。

 

 それにしても、君の姉上にあんな文才があったとは驚きだよ」

 

「姉は子供の頃から夢見がちな少女で、ロマンチックな本ばかり読んで夢想してましたから。

 でも確かにロマンスは多めですが、かなり史実通りで、私はむしろそちらの方に驚きました」

 

「事実は隠蔽してはいけない。もし隠蔽してしまったら、再び同じ過ちが起きるから。そう言っていたらしいよ、君の姉上は」

 

「お姉様が?」

 

「本の印税は、新薬の開発だけでなく、薬害による後遺症に苦しんでいる人や、貧しい子供達の支援に使いたいと言っていたよ。まあ、それを聞いたから出版を許可したんだけどね」

 

 夫からその話を聞いた妻は、子供の頃の姉の姿を思い浮かべた。そしてこう言った。

 

「お姉様は辛い現実を受け入れられず、目を背けて空想の世界に逃げているのだとばかり思っていました。

 でも、違っていたんですね。お姉様は全てをちゃんと受け止めて、反撃できる時が来るまで、ずっとその時期を待っていたんですね。

 それなら妹の私もまだ少し怖いのですが、貴方の『福の神』、そして民のための『梟の使い』になれるように頑張ります」

 

「無理はしないで」

 

「無理などしません。だって、私には殿下や姉夫婦、そして信頼できるたくさんの優秀な友人達が支えてくれますもの」

 

 王太子妃は夫となった王太子に晴れ晴れとした表情でこう告げると、再び国民の方に顔を向けた。そして、まるで女神のような神々しい笑顔を浮かべて、民衆に手を振ったのだった。

 

     ー完ー

 これで完結です。

 最後までお付き合い下さってありがとうございました!


 誤字脱字報告、本当にありがとうございました。助かりました。

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