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12/25

11本目

※設定を変更したため書き直しました。申し訳ありません。


 休日二日間の巡回を無事に終え、学園での生活に戻った。いつものように厳しい訓練を終え寮に戻ると、俺の部屋番号の郵便受けに一通の手紙が入っていた。シンプルな白い封筒の真ん中には、青いインクで〝アレックス・ロンバート〟としっかり宛名が書かれている。


 封筒を裏返してみるが、差出人の名前はない。変わりに、どこかの家の紋章が入った印が捺してあった。部屋に入って早速中身を読んでみる。




 **************


 アレックス・ロンバート様


 突然のお手紙お許し下さい。

 サラ・クラークについてお話があります。

 つきましては明日の夕方少々お時間を頂きたく存じます。

 迎えの者をやりますので、学園の裏門にてお待ち下さい。


 キーラ・トンプソン


 **************




 〝キーラ・トンプソン〟という名前に聞き覚えはないが、サラ嬢の名前が書いてあることでおおよその予想は出来た。彼女はおそらく、こないだ正門の前でサラ嬢と話をしていたあの女性だろう。トンプソンといえば侯爵家だったはずだが……あの家に娘はいないはず。数年前に爵位を息子夫婦に譲ったと聞いたから、彼女は年齢的にトンプソン夫人だろうか。いや、高位貴族の夫人が俺に何の用があるというのだ。


 まさかあの時の無礼を咎められるのだろうか。裁判か? いや、いくらなんでもそれはないだろう。一握の不安を抱えながら、俺は明日に備えて瞳を閉じた。



 *



 全ての授業を終えた放課後。言われた通り裏門に立っていると迎えの馬車がやって来た。目立たないよう飾りや紋章のないシンプルな馬車だ。それに乗り込み、揺らされること数分。上品な外観のカフェに辿り着くと、エプロンを付けた女性店員に個室に案内された。この店はおそらく貴族御用達、密談や商談などに使われる場所なのだろう。こんな所に呼び出すなんて、一体どんな話があるのやら……。


 案内された個室に入ると、藍色のドレスを着た美しい女性が座っていた。彼女は立ち上がると、俺に向かって挨拶をする。


「アレックス・ロンバート伯爵令息。本日はお時間を頂きありがとうございます。わたくし、キーラ・トンプソンと申します。ジョージ・トンプソン侯爵の妻で、サラ・クラークの叔母です」


 そう言って、侯爵夫人は美しい所作で礼をする。俺も慌てて自己紹介をし、頭を下げた。あの様子からサラ嬢と何か関係がありそうだとは思っていたが、まさか叔母だったとは……。彼女はプラチナブロンドの髪に青紫色の瞳をしていて、パッと見たところサラ嬢とはあまり似ていない。


 案内してくれた店員さんに椅子を引かれ、俺は侯爵夫人と向かい合わせで座った。店員さんは金縁の白いカップに入った紅茶を置くと、礼をして静かに部屋を出て行った。残されたのは俺と侯爵夫人、そして彼女の侍女の三人だけだ。


「そんなに硬くならないでね。わたくしは今日、侯爵夫人としてではなくサラの叔母として会ってるんだから」


 クスリと笑って侯爵夫人は続ける。


「突然手紙が届いて驚いたでしょう? 先日お会いした時サラが貴方の名前を呼んでいたから……学園宛にその名前で手紙を送れば確実に届くと思ったの。ごめんなさいね」

「いえ。確かに驚きましたが大丈夫です」


 なるほど。俺の名前を知ったのはそういう理由か。ようやく一つの疑問が解消された。


「早速本題に入るけれど。今日貴方を呼んだのはサラの話をするためです」

「はい」


 俺の背筋が一気に伸びる。


「まず確認したいのだけれど、貴方はサラと付き合ってるのかしら?」

「……は?」


 今の俺の顔に効果音をつけるならおそらくポカン、がピッタリだろう。まさかそんな事を聞かれるとは完全に予想外だった。もしかして、俺がサラ嬢にふさわしい男かどうかを見極めるために呼ばれたのか? いやそんなわけないだろう。しっかりしろ、俺。


「どうなの?」


 答えを促す彼女の顔が思いのほか真剣だったので、これは親戚特有のお節介や興味本位で聞いているわけではないのだと理解した。俺は、バカなことを考えていた自分を恥じた。だからこちらもしっかりとした態度で返答をする。


「いえ、俺とサラ嬢はそういった仲ではありません」

「…………そう。付き合ってないの……」


 彼女の落胆した様子に何もしてないのに悪いことをした気持ちになった。質問の意図がつかめない。しかし、彼女は立ち直ったのか再び口を開いた。


「でも、あの時サラを連れ出したってことは二人の仲は良いのよね? お友達なのよね?」


 どこか必死な様子に疑問を抱きつつ、俺は少し迷ってから「まぁ、よく話はさせてもらってます」とだけ返した。


「そうなの。まぁ、友達でも十分だわ」


 ……そう言われてみると、俺とサラ嬢の関係とは何なのだろう。知人というには知りすぎているし、かと言って友達というほど深くもない。強いて言うなら迷惑な力を共有する良き理解者、と言ったところだろうか。うーん……腑に落ちない。知り合い以上友人以下の方が合ってるか?


「ところで、何故俺とサラ嬢が恋人同士だと思ったのですか?」

「そうねぇ、サラの表情かしら」

「表情?」

「ええ。あの時、貴方が来て安心してたから。よほど信頼してるんだなって思ったの。だから恋人かと思ったんだけれど……それは今後に期待ね」


 サラ嬢が聞いたら不機嫌になりそうなその言葉に、俺は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。


「あの、侯爵夫人」

「キーラでいいわ。呼びにくいでしょう?」

「では、キーラ様」

「何?」

「キーラ様は、その、サラ嬢とは……」


 俺の言いたいことがわかったのか、キーラ様は悲しげに笑った。


「……ええ。残念だけど仲良くはないわ。あの子、うちの一族を嫌ってるから」

「……そうなんですか」

「学園に入ってから一度も帰省していないし、手紙の返事もない。訪ねて来ても避けられちゃって。今回も話すら出来なかったわ。まぁ……自業自得なんだけどね」


 キーラ様は俺の目を真っ直ぐ見つめる。大きな猫目はサラ嬢そっくりだった。



「貴方は、運命の赤い糸って信じる?」



 その質問に、俺ははっと息を呑んだ。


「その反応…………もしかして知ってるのかしら?」


 何が、とは聞かなくてもわかった。そうか。親族ということはもしかしたらキーラ様にも見えているのかもしれない。


「キーラ様も見えるのですか?」


 質問に答えなくてもこの一言で通じたのだろう。キーラ様は目を見開いたあと、小さく首を横に振った。


「いいえ、わたくしには見えないわ。見えるのはサラだけよ」

「そう……ですか」

「ええ。そうね……物心つく頃には既に見えてたんじゃないかしら」


 キーラ様は俺を観察するようにまじまじと見つめる。居心地が悪くて視線が泳いだ。


「ああ、ごめんなさいね。貴方が赤い糸について知ってるなんて驚いちゃって。だって、サラが他の人に自分の力を話すなんて信じられないんだもの」

「いえ、俺が知ってるのは偶々なんです。その……なんというか」


 俺は暫く迷ってから、小さな声で言った。


「……俺も見えるんです。運命の赤い糸」

「えっ?」


 驚くのも無理はない。俺だっていまだに信じられないが、見えるものは見えるのだ。今だって、キーラ様の小指に結ばれた糸が見えているのだから。


「俺の場合、ある日起きたら突然見えるようになってたんです。しかもごく最近の話で」

「……そうだったの。それは大変だったでしょう?」

「はい。突然だったので最初は非常に焦りました。でも、サラ嬢に色々教えてもらってなんとか落ち着いたというか……」

「なんだか運命的ね。そうね……。サラも貴方みたいな人がいれば心強いでしょうね」


 キーラ様は眉尻を下げて笑う。


「サラ、友達いないでしょう? 学園でも孤立してるんじゃない?」

「それは…………」


 こういう時、なんて言うのが正解なのだろうか。はいそうですよ、と正直に言ってしまった方がいいのか、嘘にならない程度に脚色を加えながら言った方がいいのか。口ごもってしまった俺の様子を見かねて、キーラ様は謝罪した。


「ごめんなさい、答えにくかったわよね。でも……あの子があんな風に人を遠ざけるようになってしまったのはわたくし達のせいなの」


 ふうとひとつ息を吐き出すと、キーラ様は俺の目をしっかりと見た。

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