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11話 ツンデレ王子

「ハイハイ。それは悪かったですね」


「ちょっと! 今、軽くあしらったよね!? 仮にも僕はこの国の第二王子だよ? 敬意が足りなさすぎる!」


「滅相もない! シャルロ様のこともきちんとお慕いしておりますよ」


 エルシオ様には遠く及ばないけれども、貴方も一応前世から応援していた攻略対象の内の一人ですので。


「含みのある言い方だね。どうせ『エルシオ様には適わないけど』とか、ろくでもないことでも考えてるんでしょ」


「何で分かったんですか!? シャルロ様はエスパーだったのですね!」


「っ! ちょっとは否定しなよね。ホントにムカつく。はぁ……僕には、あの堅物兄様のどこがそんなに魅力的なのかさっぱり分からないよ。あっ、『エルシオ様を否定する言葉は、たとえシャルロ様であろうとも許しません!』って言うのは禁止ね。聞き飽きたよ」


 すごい。


 私の思考回路を完全に把握なさっている。


 初めてお会いした日に『想像していたよりも可愛くない』と理不尽に罵られたあの日から早十二年。このような軽口を叩き合い続けてきた成果があらわれている。


「シャルロ様は、よく私のことをご存知でいらっしゃる。これも私への愛ゆえでしょうか」


「は、はあっ!? だ、だだだだれが、色気も可愛げもないネリのことなんて――」


「ああっ! どうでも良い話をしてたら、折角の焼きたてのスコーンが冷めちゃったじゃないですか!」


 シャルロ様は私に急かされるや、急に憮然とした顔つきになった。


「ネリの馬鹿!!」


 子供同然の捨て台詞を残し、スタスタと去っていってしまった。


 まぁ、談話室に回りこんでくるためだろう。


 つい数分前までの彼とは、まるで別人。


 第二王子シャルロ様は、先ほどまでの女性とのやり取りが証明している通りに、この国では悪名高いタラシ王子だ。


 けれども、実は、それは世を忍ぶ仮初の姿といえる。


 何を隠そう、その真の姿は、王道をまっしぐらに爆走するツンデレキャラだからだ。


 この一見不可解な現象について、前世自他共に認める『ときめき★王国物語』ヲタクであったこの私が解説しよう。


 ゲームでも、シャルロは『自分に落とせない女性などこの世に存在するはずがない』と本気で思いこんでいるような人物だ。


 彼には、女性をたらしこむ天性の才能がある。


 類まれなる美貌。女性が望む通りの甘い言葉。ときめく仕草。紳士的なエスコートetc。


 それら全てを誰に教わるでもなく自然とこなしてしまった彼。


 女性を口説くことにかけては向かうところ敵なしだったシャルロ。


 そんな彼の前に、ティアというヒロインが現れる。


 自分の夢に向かってひたむきに走っていた彼女は、彼の甘い言葉に心揺らされない。


 シャルロにとって、彼女との出逢いは衝撃そのものだった。


『この女は、自分のアイデンティティとも呼べる大事なものを脅かしかねない危険な存在である』


 自分に落とせない女性なんぞこの世にいるわけがない。

 証明しなければ。


 ムキになった彼は、中々振り向いてくれないティアに対してどんどん余裕がなくなっいく。


 ある意味、今までまともな恋をしてこなかった分、彼の本気(マジ)の恋愛偏差値は恐らく小学生レベル。


 本命の好きな女子に対してはやたらと冷たくあたり、中々素直になれない男子っていたよね。彼は、その典型のような人なのだ。


 その王道をゆくツンデレぶりが、一部の乙女ゲーマーからは絶大な支持を得たのだ。


 この世界のシャルロ様もまた、ゲームの彼と全く同じような思考回路を持っていた。


 彼にとって『何があろうとエルシオ様一筋です!』という強い意志を持った私は、ある意味、理解の域を超えている存在なのだろう。


 まぁ、恋心云々ではなく、不可解な珍獣に対しての戸惑いのようなものだろうけど。


 庭園の方から回りこんできたシャルロ様は、談話室に入ってくるやいなや、長い足を組んで優雅に椅子に腰掛けた。


「それにしても……ネリ、なんだかいつにも増してニヤニヤしていない? 気持ち悪いよ」


 彼の言う通り、たしかに今日の私は浮き立っていた。

 だって明日は、長年、待ち焦がれていた大事な日だから。


「ええ。だって明日は、あのティア=ファーニセス様が王城にやってくる日ですよ!」

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