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第五十八譚 第一回作戦会議

 獣人たちの住む大陸――ビストリム大陸。

 その南西に位置するのが、ビストリム大陸最大の街にして、最も武闘に流通しているといわれる国――ビストラテア。


 ビストラテア領の南、そこには小さな町が在る。

 その町は少々田舎で裕福ではなかったが、町人達は皆笑って暮らしていた。


 そんな村に、とある家族が住んでいた。

 人間の家族。獣人たちにとっては凄く珍しい事だった。


 そもそも、ビストリム大陸に他種族が移り住んでくること自体珍しいのに、さらには田舎の村に居住するなんてもっと珍しい事だった。

 彼ら人間族の家族が移住してきた当初は、少しぎこちない感じではあったが、一人の少女のおかげですぐに打ち解ける事が出来た。


 明るく元気で無邪気な少女の姿に、村人たちは癒されていた。


 その少女は、幼いながらも刃物の扱いが非常に上手く、その腕前は大人たちが危ないと思わない程。


 少女は年を重ねる事に刃物の扱いが上達していき、齢十三の頃にはビストラテアで開かれている武闘大会で入賞する程に強くなっていた。

 

 そんな少女にも夢があった。

 

 その夢は、いつか世界を旅して弱い者を助ける事。


 少女の名は、ナファセロ・ムルファス。

 後に、勇者の仲間として名を馳せて散った女戦士である。





□――――王都トゥルニカ:宿屋の一室【アルヴェリオside】






「アンタも知ってるでしょ? アタシの――ナファセロの住んでた町」


 アザレアが真剣な表情で口を開く。


 彼女が住んでいたのはビストラテア近くの小さな町。

 きっとアザレアは、そこに住んでいる家族が心配なんだろう。


 だって、俺がナファセロを仲間に加えた時から死ぬまで一切村へは帰らなかった。

 今、家族がどうしているのか気になるのは仕方がない事だ。


「わかった、いいぞ」

「……え?」


 俺の口から出た言葉に、アザレアは口を開けて驚いていた。


「寄りたいんだろ? 行ってくりゃいいさ。俺達も一緒に行ってやるから」

「いや、でもアンタ……聖王は――」

「少しぐらい大丈夫だろ。だからお前は気にせずに行ってこい」


 アザレアの気持ちもよくわかる。

 俺だってリヴェリアの家族の事を心配していない訳じゃない。会えるなら会いたい。


 でも、それはきっと今じゃない――いや、何時までもだな。

 俺はきっと会っちゃいけない。


 その分、アザレアには会ってほしい。

 歴史に名を残していないアザレアなら、きっと大丈夫だ。


「皆もそれでいいよな?」

「はい。私は構いません」

「僕も構わないよ、どのみちビストラテアには寄る事になるからね」

「アンタ達……」


 俺達の言葉を聞いたアザレアは、俯いて黙る。

 ブツブツと呪文を唱えるように何かを呟いているが、よく聞き取れない。


「……が……と」

「何だって?」


 俺が聞き返すと、アザレアは顔を上げて大声で叫ぶ。


「ありがとって言ったのよ!! 悪い!?」


 そう叫んだアザレアはそっぽを向いた。

 相変わらずアザレア節が炸裂してるみたいだ。実に懐かしい。


「っと……船でビストラテアまで向かって、そこで数日滞在してから炭鉱族の国に船で渡るって事でいいか?」


 俺が確認を取ると、皆はそれぞれ頷く。


「よし、じゃあこれで作戦会議は終わりだ」

「あの……」


 セレーネが小さく手を上げる。

 何か言いたい事があるらしいけど、どうにも言いづらそうにしている。


「どうした?」

「その……決まった後で申し訳ないのですが……」

「言いたい事があるなら今のうちに言ってくれ。その方がこっちも楽だ」

「……聖王の居場所なのですが、元々魔王がいた場所にいる……とかはないのですか?」


 俺の身体に衝撃が走る。

 アザレアとジオも、驚愕の表情を浮かべていた。


 少しの間、部屋は静寂に包まれる。

 その静寂の中、セレーネ以外の三人は同時に言葉を発した。


『その発想はなかった』

「え、えぇ……」


 完全に盲点。

 そうだ、考えてみれば魔王を倒したのは聖王なんだ。

 だとすると、そのまま魔王城に残っているのが正しいんじゃないか?


 俺達は少し考えすぎていたんだ。そう、単純な話なんだ。

 居場所を探す必要なんて元々なかった。

 聖王は俺達の知っている場所にいたんだ。


「よし、魔王城を目指そう」

「……そうだね、絶対とは言えないけど情報が無い以上、可能性の高いところに向かった方がいいね」


 ジオの言う通りだ。

 未だに有力な情報が得られてないんだから、可能性のある場所に行った方が効率的だ。

 その途中で情報が得られたら万々歳だし、きっと聖王は魔王城にいる。


「でも、魔王城に行くなら魔界に行かなくちゃいけないのよね? また集めないといけない(・・・・・・・・・)んじゃないの?」

「集める……ですか?」


 アザレアの言葉にセレーネが首を傾げる。


「魔界に行くにはね、三つの道具が必要なのよ」

「その三つが無いと魔界には行けないんだよ」


 セレーネの疑問に、アザレアとジオが答える。

 二人が話した通り、魔界に行くためには三つの道具がいる。

 一つは指輪、もう一つは耳飾り、もう一つが首飾り。


 これらはそれぞれ三つの神殿に護られている。

 翡翠の神殿。瑠璃の神殿。真紅の神殿。

 この三つだ。


「しかし、五十年前に一度それを使っているのであれば、そのまま魔界に行けるのではないのですか?」

「それがね、厄介な事にその道具は一度使用すると元の場所に戻ってしまうんだよ」

「そう、だから魔界に行くにはもう一度神殿を攻略しないといけないのよ」


 おや?

 なんだろう、このとてつもない違和感は。


 至って何も問題はない会話のはずなんだが、何か少し違和感を感じる。

 うん、きっとあれだ。多分間違ってないと思う。


「ちょっと待って、え? セレーネ凄く自然に話してるけど二人の話ちゃんと聞いてた?」

「ああ、その事については問題ありません。既にアザレアさんに事情を聞いていますので」

「あ、聞いてたのね。じゃなくて! 俺聞いてなかったよ!? せめて話したなら話したって言ってくれお願いします!」


 こうして、俺達の第一回作戦会議は終了した。

 今後の予定も決まった事だし、明日から行動し始めよう。


 何事も早く始めた方が楽だしな。

 まずは翡翠の神殿。その後に船でビストラテアに渡る。

 また明日から忙しくなりそうだ。

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