第五十三譚 冒険者組合
“大樹通り”の噴水広場を西に進むと、見えてくるのが冒険者組合。
そこには、数多くの冒険者達が集まっている。
冒険者組合は一階建てで、酒場やら受付やらが混合した場所になっている。
そこの受付スペースの一角に、登録受付がある。
登録といっても、自らの【能力確認】をかざすだけでいいらしい。
さて、ここで重大なお知らせだ。
その大切な魔法具が見当たりません。助けてください。
ちょっと待ってほしい。
俺は確かに持ってたはずなんだ。王都を出る前までは荷物の中に入っていたんだ。
その存在を見失ったのはいつだったか、思い出そうにも思いだせない。
「その小物入れみたいな物には入ってないのかい?」
ジウノスは、俺の腰に下げられた小さい袋を指さす。
そういえばこんな袋貰ってたなぁ……一切使ってなかった気がするんだけど。
「いや、この袋使った憶えないんだよな」
「一応見てみたらどうだい?」
俺は小物入れに手を入れる。
その時、俺の指が何かを捉えた。
「……入ってた」
「……もう少し周りを見ようか」
……大切なものほど近くにあって気が付かないものよね。
まさかこの袋に入ってたなんて……。
使った憶えないんだけど、いつ使ったんだろうな?
「それでは、ここに乗せてくださいねー!」
登録係に言われた通り、目の前にある小さい台座に【能力確認】を乗せた。
台座は急に淡く光輝き、数秒で治まった。
乗せておいた【能力確認】を手に取り、目を通す。
相変わらず職業欄には何も書かれていないが、一番下に変なマークの様なものが新しく刻まれていた。
「はい! これで登録完了でーす! これから頑張ってくださいねー!」
やたらとテンションの高い登録係に見送られながら、俺達は冒険者組合を後にした。
「これで不法入国って言われずに済むよ、おめでとう」
「嫌味か……」
にこやかに言ってくるから余計に腹立つ……。
いや、まさか関所出来てるとか思わないじゃんか、普通。
まったく、誰のせいで関所なんて出来たんだか。
「あ、言ってなかったけど、関所が出来たのって君が原因だよ?」
「まさかの」
「希望とか言われてた人間が魔王と同じようなことし始めたらお互いを信じられなくなるよね」
「……それ俺じゃないんだけどな」
俺が原因だったかー……。
まあ、聖王が誰だか知らないけど、俺の名前使うからこんな事になってんだぞ。
もしかして関所を造らせることが目的……なわけないだろ阿呆か。
でも、俺が負けなければこんな事態にはなってなかった。それは事実だ。
だからと言ってこんな所で立ち止まるわけにはいかない。
事の元凶である俺が責任を取らなくちゃいけないんだ。聖王を倒さないといけないんだ。
「……っし!!」
俺は自分の頬を思い切り叩いた。
気持ちを切り替えるときによくやるあれだ。初めてやったけど中々に痛いものだな。
「急にどうしたんだい!?」
「いや、切り替えただけだ」
「ま、まあいいや。あ――」
これでちょっとは気持ちの整理がついた気がする。
もう一度自分の目的を再確認できたし、結構いいものだ。
「アルヴェリオ」
ジウノスが俺の肩を軽く叩く。
「前、見てみなよ」
笑いを堪えたような喋り方で正面を指さしたジウノス。
俺はその指が示す方向を目で追うと、そこには凄く驚いた表情でこっちを観ていた女性が一人。
「……セレーネ?」
「アル様……自分の頬を叩いてどうされたのですか……?」
なんだろう。セレーネの俺を見る目がいつもと違うんだけど。
これあれかな? 誤解されてるのかな?
「ま、まさかアル様は、痛みに快感を覚え――」
「どっからそんな考え出てくるんだよ!? いや本当に違うぞ!? ちょっと待って引かないで!!」
「アルヴェリオは変態だったのかい……?」
「お前ちょっと黙っててくれる!?」
セレーネの誤解を解くまで、俺はしばらくの時間を使った。
最近、セレーネの俺に対する扱いが悪くなってきた気がします。
□■□■□
「これでセレーネも登録完了だな」
登録受付の所に戻り、セレーネの冒険者登録を終わらせた俺達は組合玄関前で話をしていた。
「これで関所を通れるようになるのですね」
「うん。元々関所を通る為に冒険者になったから、冒険者の階級なんて気にしなくていいからね」
ジウノスに聞いた話だが、冒険者には階級というものが存在するらしい。
登録すると、第六級から始まり、組合や国への貢献度によって第五級、第四級と上がっていく仕組みだとの事。
貢献度は、冒険者組合に届けられる依頼を達成することで貰えるポイントって事だ。
依頼にも階級が定められていて、自分の階級に見合った依頼しか受けられないようになっているらしい。
例えば、第六級の冒険者ならそれより二つ上以上の依頼は受けられず、一つ上の第五級までの依頼しか受けられない。
まあ、結構ありきたりなやつだ。
「けどさ、一応人助けにはなる依頼だってあるかもしれないから、たまには受けようぜ?」
「はい、私もそれが良いと思います」
「僕はどっちでも構わないから、二人に任せるよ」
別に貢献度とかはどうでもいい。
誰か困ってる人がいるなら助けたいってだけだ。
勇者の復活の為にはそれぐらいの事はやってのけなきゃな。
「ところで……」
セレーネは不思議そうにジウノスの顔を見ている。
「そんなに僕の事を見つめてどうしたんだい?」
「その……何故ジオさんは、そのような眼鏡をかけているのでしょうか?」
セレーネが指摘したのは、ジウノスのかけている眼鏡の事。
ただの眼鏡なら問題はない。
そう、ただの眼鏡なら。
「これはね、変装眼鏡だよ!」
ジウノスが自慢げに答える。
しかし、ジウノスがかけているのはどう見ても鼻眼鏡。
日本という国が存在する世界の住人なら、誰もが一度は見た事のあるあれだ。
いわゆるパーティーメガネ。
一度見た事ある人間ならわかる。
そんなのじゃ変装できない。
逆に、こんなので変装できてると思ってるこいつの頭はおかしいと思う。
「は、はあ……」
「セレーネちゃんもかけてみる?」
「セレーネー、やめといたほうが良いぞー」
ほら見ろ、あのセレーネが凄い微妙な顔してるぞ。
それで変装してると思えてんのかこの男みたいな表情してるぞ。
「まあ、これでバレてないんだから凄いよな……」
「二人の頭がおかしいだけじゃないかい?」
「いやお前にだけは言われたくない」
そんなやりとりを交わしながら、俺達は宿に戻っていった。
その日の夜は、久しぶりにゆっくりとした時間を取れ、俺とセレーネはぐっすりと眠りにつくことが出来た。
そして、夜が明けた――




