第四十九譚 古き友たちは語り合う
「あれ? アザレアにアルヴェリオ。随分と遅かったね、セレーネちゃんはそこで寝ちゃってるよ」
俺がナファセロと語り合ってから数時間。宴の音も聞こえなくなった後に、ジオの元に戻ってきた。
「まあ、ちょっと色々あってな」
俺はナファセロをちらりと見る。
彼女と視線が合わさり、ナファセロは小さく頷く。
「うん? 何やらいい雰囲気だね。もしかしてそういう――」
「グラジオラス」
ジオが悪戯な笑みを浮かべながら発していた言葉をナファセロが遮った。
ナファセロと語り合った時、俺は聞いたんだ。
思い出話に現在の話。
途切れることなく続いた会話の中で、彼女は言った。
彼女の話したことはにわかには信じられない事だった。
だって、今の状況ですら信じられてないのにそんな事まで言われたら余計に信じられなくなる。
でも、真実なんだろう。
彼女の話したことは全て本当の事で、本物のナファセロじゃなきゃ知らないことだって知っていた。
だから、あれも本当の事だ。
「どうしたんだい? そんなに真剣な顔して」
「ジオ、話があるんだ」
俺はジオの真正面に立ち、向かい合う形で座った。
「ごめんね、僕にそっちの気はないん――」
「五十五年前」
俺が発した言葉に、ジオは目を丸くする。
「俺達が初めて会ったのが五十五年前だよな」
「な、君は何を言って……」
「お前との出会いは最悪だったよな。俺とキーラが野党退治をしていた時に出会った野党がお前で、追い詰めても必ず逃げられてた」
ジオは口を開けたまま言葉も発せずに、驚いたような表情で話を聞いている。
「何度もそうやってるうちに仲良くなって、ようやく捕まえた時は二人して笑いあったっけな」
「き、君は……まさか……」
「それからなぜかお前まで着いて来るようになったよな」
「り、リヴェリア……?」
「五十年ぶりだな――ジウノス……」
俺達は何も言わずに握手を交わす。
言わずとも互いの気持ちが伝わっているかのようにスムーズな動きだった。
込み上げてくる感情を抑え、しばらくの間無言で握手を交わし続けた。
その光景を見ていたナファセロは、静かに涙を流していたと後にジウノスは言った。
□■□■□
無言の握手からしばらくして、俺達は三人で語り合った。
ナファセロとはもう既に語り合っていたが、そんな事も忘れて語り合った。
「――そうそう、あの時はビックリしたよね」
「流石のアタシも驚いたわ。リヴァが一人で突っ込んでいったんだもの」
「あの時は無我夢中だったんだよ……」
俺達は思い出話に浸っていた。
初めて会った時の話、炎竜と戦った時の話、雪山で遭難した話、魔王城の話など。
話題は尽きる事無く、俺達三人は大いに盛り上がった。
「……懐かしいなぁ、こんな話してると昔を思い出すよ」
ジオが空を見上げながら呟く。
「そうね……。あの頃が懐かしい……」
「……ナファセロ? 三人でいるときぐらいアザレア口調は止めてもいいよ?」
「そうだぞ、俺と話してた時は昔の乱暴な口調だったのに」
俺がそう言うと、ナファセロは顔を赤らめてわなわなし始める。
「う、うるさいわね! こっちの方に慣れちゃったのよ!!」
「いや、俺と話してた時は自然だ――」
「うるっさい! 死ね!!」
「もごお!?」
俺が話してる途中、ナファセロの手で口を塞がれる。
その光景を見ていたジウノスはクスっと静かに笑った。
「そういう事か。やっぱり仲が良いね、二人は」
「良くないわよ!!」
ナファセロの言葉に少しだけ傷ついたぞ……。
仲良くないってお前……照れ隠しなんだろ、そうなんだろ?
口を塞いでいた手を退かし、俺は地面に倒れ込む。
本当に懐かしい。こうやって馬鹿やってたのが随分と昔に感じる。
おかしいな、転生したのは最近なのに。
たった五年の旅だったけど、今考えれば凄く楽しかったな。
勿論、失敗の方が多かったし、あの頃は楽しいとか思ったりはしてなかったな。
笑っていた時も、機械のように何も考えずに笑っていたんだろう。
負の感情の方が多かった。いや、そういった感情しか感じなかったのかもしれない。
元々の人生を失敗してるから、こっちでは頑張らなきゃ、成功しなきゃみたいに自分の事を追い込んで、変に空回りしてた。
ポジティブな発言も、皆の為ではなく自分に言い聞かせる為。自分を正当化しようとしてただけだったんだな。
そんな俺が勇者と呼ばれてたなんて恥ずかしいな。
でも、だから今はこうやって心の底から笑う事が出来る。
あの時の失敗や過ちがあるから、今を精一杯生きようと、後悔しないようにって思えるんだ。
「お、リヴェリアが感傷に浸ってるね」
「違うって。考え事してたんだよ」
俺は体を起こし、胡坐をかいた。
「そういえば、お前らお互いのこと知ったのっていつなんだ?」
ふと疑問に思ったことを口に出す。
それを聞いた二人は、苦笑しながら答えてくれた。
「僕は転生してから三年後なんだけど……」
「……アタシは転生してすぐよ」
「へえ、ナファセロは随分と早いんだな」
転生してすぐって事は、生まれた瞬間って事か。
ナファセロの能力が触れた相手に対して発揮するものだから、その時ってどんな感じだったんだろうか。
「あの時のナファセロの顔は凄かったよ。なんせ――」
「ねえ兄様ぁ、お腹空いてない? アタシ特製の炎魔法食べる?」
「……いや、遠慮しておこうかな」
少し気になる感じではあるけど、まあいいか。
これからはきっと、五十年前の続きを話せると思うから。
□――――エルフィリム:五十年前
エルフィリムの医療施設。
その中で、新たな生命が誕生しようとしていた。
「女王陛下! もう少しですからね! 頑張ってください!」
「え、ええ……!」
女王を囲むように、医療施設の人員が緊張の色を見せながら作業している。
回復魔法をかけ続ける者。安心させるように話しかける者。
それぞれが、汗を流しながら作業に没頭していた。
それからしばらくして、施設内に産声が響いた。
玉のようにかわいい双子の赤ん坊。男の子と女の子だ。
新たな生命が、エルフィリムに誕生したのだ。
双子は互いに向き合い、女の子の手が男の子に当たる。
その瞬間、驚くべき事に女の子は目を見開き、男の子を見た。
男の子もその視線に気づき、赤ん坊なら絶対にありえないような表情で驚いている。
女の子は、まるでこの世のものではないのではないかと思うぐらいに目を見開いていた。
男の子は、この時の様子を後にこう語った。
目を覚まして初めて見る光景がそれだとトラウマだよね、と。




