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第四十一譚 聖王を潰す男、その名はアルヴェリオ


 木々の間から奴等を覗く。


 聖王軍の本隊はゆっくりとエルフィリム向けて進軍している。

 俺達にはまだ気づいていないらしく、敵の将と思われる奴らは談笑中。


「まさか向こうも道中に襲われるなんて考えてもないんだろうな」

「そりゃあそうだよ。お客さんは完全に勝ったと思ってるからね」


 その危機感のなさが命取りになるんだよ。

 油断している時の奇襲程恐ろしいものはない。それは俺がよく理解している。


 かつて、町を襲っていた魔物の群れを追い詰めて撃退したことがある。

 撃退したことに安心し、魔物の後を追わなかった俺達は、その日の夜中に襲われたんだ。

 町は大混乱し、俺達も苦戦を強いられた。


 今となってはいい思い出だけど、あの時の恐怖は今も忘れない。

 

「うむ。ではここから軍を二つに分ける。それぞれに分かれたら北と南から一気に叩くぞ」


 敵将の一人が、周りの将達に声を掛ける。

 その将の指示通り、各将達は北と南で分かれ始める。


「……ジオ。二つに分かれるっていうけどどうするよ? ここで作戦実行するか?」

「いや、駄目だよ。もし成功したとしても、君の魔力量じゃあこの数は厳しいよね? だから僕等も北と南に分かれよう」

「それで大丈夫なのか? 俺にはアレ(・・)があるけどお前はどうするんだよ?」

「実を言うとね、僕はまだ戦闘してないから気力が有り余ってるのさ。だから心配しなくていいよ」


 そういえばこいつの装備、一切汚れてないな。

 なるほど、それならある程度は大丈夫か。


「必ず成功させて、そっちに行く。それまで耐えろよ」


 俺は真剣な表情でジオに声をかける。

 その言葉を聞いたジオは、何も心配はいらないと言いたそうな表情で笑って見せた。


「うん。わかったよ」


 聖王軍が軍を分け終えた頃に、俺達は北と南にそれぞれ移動しようと立ち上がる。


 俺はジオに背を向け、北へ歩き出そうとする。

 その時、後ろから声を掛けられた。


「アルヴェリオ」


 振り返ると、俺の目の前に手が出されていた。


「必ず無事に会おうね」


 俺はジオに向き直り、その手を軽く握った。

 

「当たり前だ。ちゃんと美女を紹介してもらうからな」


 俺達は互いに握っていた手を離し、同時に背を向き歩き始める。

 

 必ず俺達でどうにかしてみせる。

 そんな思いが、握手を通じて流れ込んできたような気がした。






□■□■□






 エルフィリム領の北側には、大草原までとは言わないが、森の中に少しだけ開けた草原地帯がある。

 北軍の奴らはそこを拠点にしようとしているのか、そこに向かって進軍していた。


 俺は北軍の横に付いて後を追っている。


 こっちには将と思われる奴が三人。残りの兵士は三万もいかないぐらいだろう。

 それにしても、本当に緊張感のない奴らだ。

 さっきと変わらず未だに談笑してる。随分とおしゃべり好きな魔物なんだな。


 あの人間らしい体格からしてアンデッド種か?

 完全武装もしているしナイト系なんだろう。

 アンデッド種の中にはおしゃべりな魔物もいるって話だしな。


 ただ、一つ不安なのはアンデッド種にアレ(・・)が通用するかだな。

 試してみないとわからないが、少しだけ不安になってきた。


「さて、我々はここを拠点に妖精共を叩く。準備を始めろ」


 そうこうしている内に草原地帯に出た北軍は、推測通りにここを拠点とするらしい。


「まあ、拠点など置かずとも一斉攻撃をすれば全滅させられると思うがな! がははッ!」

「そう言うな。妖精(ハエ)共が可哀想ではないか」


 敵将たちは妖精族を罵っては笑い、随分と余裕らしい。


 そろそろ頃合いだろう。

 教えてやる。油断がどれほど恐ろしいか。


 俺は木々の間から姿を現し、奴ら向かって歩き始めた。

 敵将の一人が俺の存在に気づき、声を上げた。


「む? 貴様、何者だ」


 その言葉で、周りの奴らも俺の存在に気づく。


「人間の……男? 人がここで何をしている?」


 プライドの高そうな将が問いかけてくる。

 俺はそれを無視し、歩き続ける。


 すると、その将は俺に近づいてきた。


「おい、聞いているのか? 止まれ。何者だと聞いている」


 俺の喉元に槍を突き出した将は、威圧的な声を発してきた。


「すみません、道に迷ったみたいで」

「迷う? ここは妖精族の領地だ。なぜ人が迷う?」

「冒険者をやっているのですが、依頼を達成できず気付いたらここにいまして……」


 俺は困ったような表情で将に説明する。


「……ならば依頼内容を教えろ。我々が協力してやる」


 仮面の中から怪しむような眼で俺を睨む将。

 俺は笑顔で奴にお礼を言った。


「ありがとうございます! その依頼内容なんですがね――」


 俺は隠れて練っていた魔力を半径一メートルの範囲に放出する。

 目に見えない魔法陣が俺のを中心に展開され、その陣の中には将も足を踏み入れていた。


「お前ら聖王軍の討伐だ」

「ッ!! きさ――!」

「“苦痛ペイン”」


 将の目の前に手を出し、魔力を送り込む。

 その瞬間、将は叫び声を上げながら倒れ込み、仮面の下から泡を吹き出し始めた。


「な……っ!?」

「オーガスタス卿!?」 


 辺りがざわつき始める。

 

 俺は下に転がる将を無視し、残りの奴ら目掛けて歩き出す。

 

「オーガスタス卿に何をしたァ!!」

「戦闘準備! 奴を殺せ!!」


 敵将が号令をかけると同時に、奴らの後ろに控えていた兵士達が俺に向かってくる。

 

「この魔法はな、魔法陣の中にいるモノに対して正常な効果を発揮する」


 向かってくる兵士達に次々と魔法を唱えていく。

 魔法をかけられた兵士は、先程の将と同じように叫び声を上げながら倒れていった。


「魔法にかかったモノは、実際には(・・・・)受けていない恐怖や(・・・・・・・・・)苦痛・・を受けて死に絶える」


 俺の魔法を目の当たりにした兵士達は、怯えているのか後ずさりをし始める。


「まったく、皮肉なもんだよ。“勇者”なんて呼ばれる奴がこんな魔法を使えるなんてな」


 兵士達の中から、化け物だの悪魔だのと叫ぶ声が聞こえてくる。

 確かにその通りだ。

 こんな魔法、昔の奴は何を考えてたんだか。


 でも、こんな魔法だからこそ、今の状況を打破できる。

 聖王軍を倒すことが出来る。


「運が悪ければ死に、良くても精神が崩壊するらしいぜ」

「きっ、貴様! 何者なんだ!」

「俺の名前はアルヴェリオ。“再誕の勇者”にして――」


 自分が何者か、なんて俺にはわからない。

 三度目の人生だからな。どれが本当の自分だか知らない。


 でも、ただ一つ言える事は、今の俺は“アルヴェリオ”であいつらは倒すべき敵。

 そして――


「聖王を潰す男だ!」


 勇者として生きた男だという事。

 いや、これじゃあ二つか。


 なんにせよ、今はそれだけでいい。

 今はただ、自分が後悔しない生き方をするだけだ。


「さあ、続きを始めようぜ。誰からでもいいからかかって来い!」


 俺は聖王軍の奴らの方向かって手を出し、人際指を向けて啖呵を切った。

 

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