第三十三譚 エルフィリム包囲網
□――――フェアリーレイク:エルフィリム前【グラジオラスside】
「これは……どういう事なんだい……?」
僕は目の前の光景に、自分の目を疑った。
森から出た僕達が目にしたのは、東西南北全方角から押し寄せる魔物達の姿。
エルフィリムは魔物達によって包囲されていた。
唯一の通行手段である橋の前では、エルフィリムの兵士達が必死で戦っていた。
橋の入り口を取り囲むように横陣を敷いて戦っている彼等の様子を見ると、疲弊しているように思えた。
「アザレア! セレーネちゃんを連れて橋を渡るんだ、いいね!?」
「アンタはどうするのよ!?」
「僕は君達を援護しながら橋を渡って、母様に話をしてくるよ!」
一刻も早く母様にあの事を伝えなくては……。
まさかこんな事が起こるなんて考えてもいなかった。
大草原には三万を余裕に超える魔物達。
エルフィリムを囲むように全方角から押し寄せる魔物達。
聖王……君は本気で妖精族を潰すつもりなのかい……?
「僕が突っ込んだら、君達も後を追ってきてほしいんだけど、大丈夫かい!?」
僕が尋ねると、二人は小さく頷く。
でも、セレーネちゃんだけは少し不安そう……というよりは、元気がない。
やっぱりアルヴェリオの事が気になっているんだろう。
エルフィリムにこれだけの魔物達が集まっているとなると、向こうももっと……。
いや、大丈夫だよ。きっと。
彼なら大丈夫さ。
だって彼は――僕の古い友人に、そっくりだから。
「さあ! 一気に橋まで走るんだ!」
僕達は、橋目掛けて魔物の群れに突っ込んでいく。
後ろに着いて来ている彼女達の道を作るために、目の前にいる魔物を片っ端から斬っていく。
短剣で、首筋、胸、腱等を斬り、動きを止める。
ゴブリン種はそれだけで充分。
オーク種にリザードマン種には、それに加えて手足を斬り落としていく。
幸か不幸か、この場に八皇竜の様な上位種の魔物は見当たらない。
ガーゴイル種などの空を飛ぶ魔物に関しては、大樹から遠距離魔法で応戦してくれている味方がいるから問題はないはず。
だが、斬っても斬っても前に進めない。
数が多すぎるんだ……!
このままだと、橋に辿り着く前に体力が切れる……。
それだけは何としてでも防ぎたい。
「二人共! 僕が合図したら迷わず橋まで走るんだ!」
できればもう少し温存しておきたかったんだけど、そうも言ってられないみたいだしね。
やるしかないって事なんだろう。
「ジオさん……? 一体何を……」
「いいから黙って準備してなさい」
僕は腕を前に伸ばし、全神経を集中させる。
正面に魔力を溜め、言葉を発する。
「今だ! “爆風《ブラスト》”!」
その言葉と共に、正面に溜めた魔力を一気に放出させる。
放出された魔力は、爆風となってあたりの魔物達を吹き飛ばす。
その隙に、彼女達を走らせる。
この魔法は乱発できないため、一回一回大事に使わなければいけない。
風属性の中級魔法ではあるけど、僕の職業は魔法を使うには不向き。極力魔法の使用は控えたいのだ。
だけど、今の一撃で充分。
まだ魔物達の数は全然減ったように思えないけど、僕達は橋近くまですんなりと進むことが出来た。
「お、王子! ご無事でしたか!」
一人の老妖精族が、僕に声をかける。
「アドニス! これは一体どういう状況なんだい!?」
彼はアドニス。
エルフィリムの守り神と呼ばれる、妖精族の英雄だ。
「昨晩、急に魔物達が四方から攻めてきましてな……。何とか返り討ちにしてやりたいのですが数が多く……」
「入れ替わりでって事かい……。僕は母様に急ぎの報告がある! それが終わったらすぐに戻ってくるから、それまでは持ちこたえているんだよ!」
「無論、あんな汚らわしい奴等をこのエルフィリムには一歩たりとも入れさせやしませんぞ!」
アドニスは、攻撃ではなく守りに特化してる。
そのため、こういった守りの戦いにおいて、エルフィリム中で右に出るものはいない。
彼が守るという事は、絶対防御と同じようなものなのだ。
「頼んだよ!」
「王子もお気をつけて!」
僕が戻るまで耐えていてくれ、アドニス。
そうすれば、僕が奴等を蹴散すから。
アドニス達に守りを任せ、僕達は急いで橋を渡る。
「アザレアはセレーネちゃんを救護施設まで連れて行ってあげて!」
「わかったわ、さ、時間がないからさっさと行くわよ!」
「……わかりました」
「それが終わったら、アザレア。後は頼んだよ」
僕は真剣な眼差しで、アザレアを見つめる。
彼女は、僕の言いたい事を瞬時に察したらしく、小さく頷いてみせた。
「ここからは別行動になるけど、絶対に生きてまた会うよ」
僕達は悪に屈するわけにはいかないんだ。
死んでいった仲間の為にも、この国の為にも。
「それじゃあ、行動開始といこう」
アルヴェリオ。君が救おうとした彼女の命は僕が守る。
だけど、僕には彼女の体は守れても、心を守る事はできない。
だから、早く帰ってくるんだ。
魔物達なんかに負けるな、アルヴェリオ――
□■□■□
アザレア達と別れてから数分、僕は大樹の中を必死に上っていた。
外から聞こえてくる戦いの音は、止む気配がない。
一刻も早く誰かが止めなければ、死傷者が増えてしまう。
『グラジオラス? セレーネを無事に送り届けたわよ』
通信魔法を使い、僕に話しかけてきたのはアザレア。
話を聞くに、どうやら救護施設に着いたらしい。
「わかった。引き続き頼むよ」
『……久しぶりに燃えそうね』
「本当に燃えちゃ駄目だからね?」
『わかってるわよ、それじゃ』
そう言って、通信魔法が切られる。
セレーネちゃんも無事に、安全な救護施設に着いたし、アザレアも戦場に向かっている最中だろう。
後は僕だけだ。
早く話を終わらせて、急いで援護に行かないと……。
僕は、大樹の中を上る足を少しだけ速めた。




