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第三十譚 王子の狙い


「ま、もう死んじゃったんだけど」


 そう言ってどこか遠くを見つめるアザレアは、どこか悲し気だった。


「アザレア。もうその話はやめよう」


 王子も王子で、俯きながら発せられたその言葉には悲しみが込められているかのように静かだった。


「……で、何の話してたんだっけ?」

「アル様……!」


 セレーネは何か文句を言いたそうに俺の事を見ているが気にしない。

 ここで情けの言葉をかけろって言うのか? 同情しろって言うのか?


 否。俺には無理だ。

 例え、勇者が肯定する存在だとしても、俺にはできない。


 だって、こいつらの気持ちが痛い程わかるから。


 仲間を失くした痛みは簡単に癒せるものじゃない。

 俺だって、セレーネの前では平静を保ってるけど、そういうのを考えて辛くなる時がある。


 それは同情や情けの言葉をかけられたからって癒えるものじゃない。

 むしろ逆効果だ。

 お前なんかに何がわかる、と逆ギレされるのがオチだ。


 だったら、それに触れないで話を戻すのが得策だろう。

 

「……いや、うん。ありがとう。君は聞かないでくれるんだね」

「まあ、俺も同じようなものだからな」

「……アル様……」

「さて、えっと……そう、大草原の話だったね」


 王子は自分を落ち着かせるように、一呼吸置いて話しを進める。


「調査を始めた僕達は、異変が本物だって確かめられたんだけど、まだ大草原には行ってないんだよ」


 そう話す王子の顔は、とてもにこやかだった。

 

 俺は知っている。

 こういう顔をするような奴にろくな奴はいないって事を。


「だから一緒に大草原へ行ってほしんだけど、どうかな?」

「……要するに、一緒に来なければ助けないって事か?」


 王子はにこやかなまま黙る。

 オッケイ察した。


 言わずもがなってやつだろう?


「マジですか……」

「着いていくしかなさそうですね……。どうしますか?」

「……そうだなぁ。とりあえず――」


 俺は目の前に立つ王子を横目で見る。


「どうして俺達なんだ?」

「それは君達が強かったから――」

「それ、嘘だよな。だってお前……最初から俺達狙いだったんだろ?」


 俺がそう問いかると、王子は驚いたようにこちらを見つめる。


「……どうしてそう思うんだい?」

「お前、最初の攻撃本気でやっただろ? あんなの不法入国者にやるか普通?」


 俺はずっと、それが疑問だった。

 たかが不法入国にあそこまでする必要はあるのか、と。殺す必要はないんじゃないのか、と。


 あれはまるで、俺だから避けられると思ってやったような感じだった。

 俺ならば避けるだろうと知っていたかのような。


「それに、本気で殺そうとする奴の殺気はあんなもんじゃない。明らかに試してたよな?」


 確かに、王子の殺気は凄い。そこらの兵なんか比べ物にならないくらいには強い。


 だけど、本気の殺気じゃなかった。

 本気で殺しに来る奴の殺気は、狂気や憎悪、怒りに怨念等が強く感じられるんだが、この王子からはそれが感じられなかったんだ。


 まあ、これは全部俺の憶測にしかすぎないけどな。


「で? どうなんだ?」

「……お見事。流石は“再誕の勇者”だね」


 王子は小さく拍手しながら、一歩、二歩と牢屋の中を歩いた。


「やはりアル様が勇者であると知っていたのですね……」

「まあね。トゥルニカを一人で救った英雄の話は風の噂で聞いているよ」

「……だから邪魔者無しで話せるよう挑発したってわけか」

「うん、そうだよ。そして、断れないであろう状況を作ったってわけさ」


 全部こいつの手のひらの上で転がされてたって事か。

 この王子……結構なやり手だな。


「……えっ? そうなの?」

「お仲間同士で話通じ合ってないみたいだけど大丈夫ですかね?」


 先程まで黙っていたアザレアは驚きの声を上げて、王子に問いかける。

 本当にこいつは何のためにここに居るんだ。話し合いの場にこんなバカみたいなやついらないだろ……。

 ……まあ、美少女って事で目の保養にはなるけども。


「……さて! じゃあ返事を聞きたいんだけどどうかな?」

「あっ、こいつスルーしやがった」


 本当に大丈夫なのかこの二人……。

 正直こんな奴らと一緒に行きたくないんだけど……。


 それにだ。よくよく考えてみたら、この二人って一応王族な訳だろう?

 もし、この二人の身に何かあったら……俺達危ないんじゃないか? いや、絶対やばいやつだ。


「断ってもいいけど、その場合はしばらくここで暮らしてもらうことになるよ?」

「……セレーネ?」

「ここは素直に従いましょう……。危険かもしれませんが、出れないよりは良いと思いますので……」


 俺はため息を吐きながら覚悟を決め、首を小さく縦に振った。


「わかったよ。やるしかないんだろ?」

「契約成立だね」


 そう言って、王子は満足そうに頷いた。


「それじゃあ自己紹介を……僕の名前は『グラジオラス・フェル・フィオレンティア』。それで、こっちが妹の『アザレア・フェル・フィオレンティア』だよ」

「アザレアよ。よろしく」


 二人は軽く会釈をし、自己紹介を済ませた。


「俺は『アルヴェリオ・エンデミアン』だ」

「私は『セレーネ・ルビン・リリールニス』です。よろしくお願いしますね」


 俺達も軽く挨拶をし、会釈をする。


「僕の事は……そうだなぁ。うん、気軽にジオと呼んでくれて構わないよ。よろしく。勇者アルヴェリオ君、セレーネちゃん」

「ちゃ……? は、はい、こちらこそ」

「その勇者ってのやめてくれ……。それに呼び捨てでいいぞ」


 勇者って呼んでくれるのは嬉しいんだけど、まだ俺の名前が広まってないのに勇者って呼ぶとリヴェリアの方だと勘違いされる可能性が高いんだ。


 そんな中、またしても奴が驚きの声を上げた。


「えっ? アンタって勇者なの?」

「もうお前ちょっと黙っててくれる?」


 先が不安でしかない。






□■□■□






 葉と葉の間から差し込む木漏れ日。

 涼しく、気持ちの良い風。澄んだ空気。


「堪りませんなぁ!」

「ど、どうしたのですか? 急に大声を出して……」

「牢獄から出れた時の感動を超える感動はまさにこの瞬間なのさ!」


 セレーネは少しだけ首を捻る。

 ふっ……。どうやらセレーネにはまだ早すぎたようだな。勉強が足らぬわ……。


「さ、それじゃあ行こうか」


 王子――もといジオの先導で、俺達は“エルフィリム大草原”へと向かって歩き出した。

 


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