Episode5伸の秘密…
ひかるが転校生としてクラスメイトになり洋介とも打ち解け、最初は苦労しながらも少しずつクラスに馴染んできたとある春の放課後……
絶好の運動日和にもかかわらず俺は、一人教室で頬杖をついてぼーっと窓から下のグラウンドを眺めていた。
そこには、体育の授業でマラソンをしている洋介を含めたクラスメイトの男子たちの姿がある。
本来なら授業なので俺もグラウンドに出て他のクラスメイトと共に体育をやるのが当たり前なのだが…
ある理由によって一緒に出来ない俺は、体育の授業が出来ない代わりにと出された課題のプリントを終わらせ、ぼーっと一人教室で机に突っ伏していた…
ひかるはというと見学だけでもと女子のいる体育館でバレーボールの試合を見に行っている。
俺は不意に左脚を触った。
「この足がきちんと動けば、俺も思いっきしやってんのにな…」
と無意識に呟く…
しかし、すぐにはっとして苦笑いした…
「馬鹿だな…俺…。まだ、未練がましい事言ってやがんの…。」
もう、とっくの昔にそんなモノは捨ててきた筈なのに…
どうやら俺は、まだあの楽しかった日々を追いかけてしまっているらしい…
どう足掻いたって変わることのない事実なのに。
でも、クラスメイトの運動している姿を見るとやっぱり、『俺もやりたい』という気持ちが露わになってしまう。
必至に隠しているこの気持ちをあいつに知られてしまう…
本当は、罪悪感で一杯の筈のあいつにまた…あんな顔をさしてしまう…
それだけは……させたくない…
あの日の事は、あいつの責任じゃないのだから…
「いや……本当は、あいつにあんな顔させてんのは俺なのかもな」
「あの…伸…、1人で何を喋ってるんですか…?」
その時、丁度にょっと1人の車椅子に乗った少女が伸の前に現れた。
漆黒のしなやかな髪と同じ色の黒い瞳…
そして、驚くほど綺麗な顔立ちをしている美少女…
それは、女子のバレーボールの試合を見に行っていたはずの遠藤ひかるだった。
いきなり現れたものだから一瞬ビクッと仰け反ってしまう…
「ひ、ひかる…。いつの間にそこにいたんだ?」
「今さっきですけど…」
「そ、そう………」
「………」
その後、俺とひかるの間に沈黙が出来る…
俺は何を話したら良いのか分からずに心の中であたふたしていた…
だが、その事を知ってか知らずか、しばらく何かを考えていたらしいひかるが決心したように顔を上げる…
「あの、伸…」
「な、何だ?」
この後、ひかるは俺にとってあまり答えたくない質問をした。
「あの…伸は、体育はやらないんですか…?」
「そ…それは…」
「どうして、伸は体育やらないんですか?」
そう言ってひかるは、俺に迫ってくる。
「い、いや…あの…」
俺は、思わず後ろに下がろうとしたが椅子が邪魔で下がれない。
その間にもどんどんとひかるは迫ってくる。
とうとう、追い詰められて椅子のバランスを崩した。
「おわっ!?」
ズシンと鈍い音とともに後頭部に衝撃と痛みを感じた。
「いってぇ…」
後頭部を擦りながら起き上がるとそこはさっきまでと違いひかるは目の前におらず青空だった外も夕暮れ色に染まっていた。
「夢だったのか…」
軽く苦笑いしながら外を眺めると部活を終えた学生達が自転車に乗り校門から出ようとしている所だった。
その様子を見つめながら俺は、放課後洋介に連れ去られたひかるの事を思った。
ホームルームが終わってすぐ、部活をほっぽり出してひかるを外に連れ出そうとしていた洋介に対して疑問を持ち追いかけようとした時、何故か麻帆に腕を掴まれ静止させられたのだ。
「何で止めるんだよ。羽柴。」
俺は少し怒りを露わにしたような声で言い振り返った。
当たり前だ。自分の目の前で好きな女の子が、自分の親友によって連れ出されたのだから。
それに、麻帆だって洋介の彼女だ。洋介が他の女の子をわざわざ連れ出したのだから何か疑問を持つのは造作もない事。
普通なら止める必要など微塵も無いはずだった。
だが、その麻帆の様子に俺ははっとして硬直する事になる…
泣いていたのだ…羽柴 麻帆が…
いつも、明るく元気な奴が…
表情こそ髪に隠れて見えないものの彼女の頬に雫が伝った後がくっきりと残っていた。
そして、か細く言う。
「お願い。行かないで…原田…」
「お前…どうして…」
そう言うと、麻帆はギリッと歯を噛み締めた。
「ひかるが…気づいちゃったのよ。あんたが体育の時間にいない事に…」
その言葉にハッとする。
「まさか…あの事をひかるに話そうとしてんのか。あいつは…」
その言葉に麻帆は黙っていた…
だけど、それだけでその事が真実なんだとすぐ理解出来た。
俺は、麻帆の手を振りほどいて教室を出ようとする。
それでも、麻帆は必死で抵抗した。
「駄目!行かないで!」
その事に凄く腹立たしくなった。
声を荒らげて言う。
「だから、何でだよ!何で止めんだよ!お前だってこんな事したら洋介が辛くなるだけだって知ってんだろ!!」
「分かってるよ!実際にはあんたにも話そうとした!だけど…だけど洋介がこれは自分が話さなきゃいけないことなんだって…自分が話さなきゃ何も始まらないんだって…だから、伸には伝えないでくれって…ホントはそう言われてたの。でも、洋介が辛くなるのも嫌で…」
麻帆は必死で自分の洋介を思う気持ちを押しとどめている様だった。
「とにかく、今は行かないで…。きっと直ぐに戻ってくるから…」
俺は、その言葉に何も言えず結局教室に残った。
でも、ずっと心の中に何時までも問いかけていた。
本当はどうしたら良かったのだろうか…
俺にとっては洋介もひかるも大事な人達なのだ。
傷ついて欲しくないに決まっている。
でも、このまま隠していても辛いのは変わらないはずだった。
「もし、さっきの夢みたいにひかるに問い詰められたら俺は答えられるんだろうか…」
そう呟きながら夕焼けの光を浴びた教室で洋介を待ち続けた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
この学校の体育の授業では2年生の女子が体育館でチーム別でバスケットボールの試合をしていた…
ボールが籠に入る度にわぁ!!!と歓声が上がる。
だが、足が動かず体育が出来ない私はそんな歓声を気にもせず格子窓の付いた壁際にひっそりと車椅子に座りながら、その窓から見えるグラウンドをずっと眺めていた…
そして、1人呟く…
「今日もいないな…」
「なになに?ずーっとグラウンドを見つめてどうしたの?あ、もしかしてあの男子の中にひかるの意中の人でもいるの?」
「ひゃ、ひゃい!?」
独りでにぼーっとしていた私は、いきなりの声かけに驚いて舌を咬んでしまった。
振り返れば、いつの間にか授業がおわっていて、生徒達が次々と体育館から出ていっている。その中で何か面白そうな遊びを見つけた子供の様にニヤニヤ笑う羽柴 麻帆が真直でこちらを見つめていた。
「ま、麻帆…いきなりで少しビックリしました」
私がそう言うと麻帆は「ゴメンゴメン。体育が終わったのにずっと窓の外を見つめてるひかるを偶然見つけちゃったからさ」と謝りながらまだニヤニヤした顔で聞いてくる。
「んで?誰なの?誰なの?」
「何がですか?」
「ひかるの好きな人だよ。」
「は、はい……?私の好きな人…?」
「そうそう。グラウンドの男子軍をずーっと見てるし、あの中にひかるの好きな人がいるんでしょ?」
どうやら、彼女は何か勘違いしているらしかった。
慌てて手を振って否定する。
「ご、誤解です!私、好きな人なんていませんし……」
「え、好きな人いないの?」
「は、はい…」
その言葉に……麻帆は少し苦笑いしていた……
「何か原田が急に可哀想な気がしてきた…」
「え……?」
「ううん、何でもない。それより、好きな人がいるんじゃないなら何でグラウンドの男子達を見てたの?」
「え。そ、それは…その……」
私は、言おうかどうか迷った。
これは、もしかしたらお節介な事になってしまうかもしれないと思ったから…
でも……どうしても、この事が気になって仕方なかった。
「あの、麻帆」
「ん?」
「麻帆は、私達が体育をしている時、伸が何処にいるか知ってますか?」
その質問をした瞬間、麻帆が少し固まったような気がしたのは気のせいだったのだろうか…
「え…?」
「そ、その、実は、転校してきてから私1度も伸が体育の授業に参加してる所を見たことがなくて。だから、お節介だとは思ったんですけど気になって」
私が、そう言うと麻帆は一瞬黙ってしまった……。
それを見て私はハッとする。
「ご、ごめんなさい!そもそも男子と女子に別れて体育をしてるのに分かるわけないですよね。変な事を聞いてしまってごめんなさい。さっきの事は忘れて……」
「ねぇ……ひかる……」
「はい?」
「ううん、何でもない。ひかる。教室帰ろ?」
麻帆が笑顔でニッコリと微笑む。
でも、何故だろう…
その笑顔は、とても辛そうに見えた。
「そうですね……」
でも、私は麻帆の言葉に素直に頷いた…
今、麻帆に聞いたとしても素直に教えてくれるとは思えなかったしこんな悲しげな顔をしている麻帆に問い詰めるような真似はしたくなかったから。
――――
「麻帆は、私達が体育をしている時、伸が何処にいるか知ってますか?」
「え…?」
ひかるにそう聞かれた時、麻帆は何も答えられなかった。
勿論、体育の時間の伸の居場所は知っている。
だけど、それを素直に答えられはしない。
何故なら、それを答えてしまったら洋介にとって、伸にとっても今ある関係を壊しかねない事態になってしまうかもしれないから。
だとしたら、今はこのまま黙っていた方がお互いに良いに決まっていた。
だが、その思いと同時に「これで良いのだろうか?」という迷いもあった。
今は黙っていて済むとしても、いつかはひかるにバレてしまうだろう。現に伸が体育の授業に出ていないことにひかるはもう気づいていた。例えこのままひかるに黙っていたとしてもひかるが真実を知るのは時間の問題だった。
それに、さっきひかるは「好きな人はいない」と言っていながらも伸の事を気にかけている……
―もしかしたら、ひかるはもう…伸の事を……
「ねぇ……ひかる……」
「はい?」
ひかるは、麻帆が言いたいことが推測出来ずにキョトンと丸っこい黒の瞳を麻帆に向ける。
その顔を見た瞬間……麻帆の決意は固まった。
「ううん、何でもない。ひかる。教室帰ろ?」
「そうですね……」
ひかるは少し腑に落ちない顔をしていたが、やがて素直に車椅子を動かして体育館の外に出ていこうとした。
麻帆もその後に続こうとして歩きだそうとして…足が止まってしまう。
それに気づいたひかるが心配そうに振り返ってきた。
「麻帆、どうしたんですか?教室に戻りましょう?」
「ごめん。私、ちょっと用があるから悪いんだけど先に行っててもらってもいい?新しくひかる専用に出来たエレベーターで待っててもらえればすぐに行くから」
「え、ええ。いいですけど……。麻帆、何かあったんですか?」
「ううん、何でもないの。ホントにちょっと寄るところがあるだけだから。1人にさせてごめんね。」
「そうですか。分かりました。それじゃ、先に行ってますね」
「うん。気をつけてね」
麻帆がそう言うと、ひかるは「ありがとうございます」と微笑んで再び車椅子を動かして体育館を出ていった。
その後ろ姿に麻帆は小さな声で、
「勇気の無い弱虫な私でごめんね…ひかる…洋介…原田…」
と悲しそうに呟いた。
――――
あれから、数時間たった放課後……
皆がワイワイと部活に向かったり、帰り支度をしている中で急に洋介が小さな声で話し掛けてきた。
「ねぇ、ひかるちゃん。これから時間ある?」
「ありますけど……一体、どうしたんですか?」
「良かった!ひかるちゃん、急で悪いんだけどこれから僕と一緒に来てくれない?」
「え、ど、どういう事ですか!?何でいきなり…。それに、志乃田さん、部活は?」
「まぁまぁ。僕の事は大丈夫だから、それよりもこっちの方が大事なの」
「こっちの方が大事?」
「そうそう。君にとっても僕にとってもね。」
「それは、一体どういう……」
「いいから、僕に付いてきてよ」
洋介は、ひかるの話の途中でひかるの膝の上にひかるの鞄を置いて車椅子の手押しハンドルを掴むとそのまま動かして何処かへ連れ出してしまった。
「あ、あの!まだ、何処に行くかも知らないんですけど!」
ひかるが、悲鳴じみた声を教室中に響かせても洋介は一向に止まる気配はなかった。
やがて、着いた場所は学校からしばらく真っ直ぐ来た所にある交差点…
車も人も行き交う普通の道路だった。
「あ、あの…。志乃田さん、ここって」
ひかるが、聞こうとすると洋介は口を開ける。
「ねぇ、ひかるちゃん。ひかるちゃんは知ってる?ここで起きた交通事故の事」
「交通事故?」
「ひかるちゃんは、僕達と同じ学年だから同い年だよね。つまりは、ひかるちゃんが中学生だった時に起こった交通事故って事になるのかな。」
自分が、中学生の時にあった事故…
そう聞くと、自分の事の様に感じた。
でも、実際には自分じゃない…
「いえ、実は私、最近こちらに来たばかりなので知りませんでした」
「そっか。」
洋介はそう呟くと真剣な表情で、話した。
「ここの交通事故ね。実は被害者は伸なんだよ。そして、僕は加害者の1人」
「え…?」
洋介の話を聞いた途端、唖然としながらも洋介を見つめた。
だが、道路を見つめているその真剣な表情には冗談を言っているようには見えなかった。
いきなりの事に混乱しながらも聞く。
「あ、あのちょっと待ってください。一体どういう事なんですか?話の意味が全く理解できないのですが…」
洋介は、苦笑しながらこちらの方を向いた。
「そうだよね。いきなりこんな事を聞かされても分かんないよね」
でも…と呟く。
「君にはきちんと知る権利があると僕は思う…。ううん、君には知っておいてほしいんだ。これから、伸と関わるつもりでいるのなら…」
「……」
ひかるは、しばらく考えていた。
どう考えても良い話ではないし、この話を聞けば伸の辛い過去に触れてしまう事になる。
その過去に私は触れて良いのだろうか…
それで、もし…伸との関係が壊れてしまうとしたら…
知らない方がいい…
でも…私は…
ひかるは決意を固め顔を上げた。
「あの…志乃田さん…」
「うん」
「教えてください。伸に何があったのか。志乃田さんが知ってる伸を私も知りたいです」
優しいけど悲しそうな笑顔を向けている洋介に対して、ひかるは真っ直ぐ目を向けはっきりとそう言った。
皆様、お久しぶりです。わんこです( ̄▽ ̄)
この度、久しぶりにこの物語の最新話を投稿させていただくことが出来ました。
良かったら、コメントお願い致します。
では、短い後書きではありますが失礼します!
see you!




