Episode1「車椅子の少女」
―それは、突然だった…
その日、俺…原田 伸は、今朝風邪を引いて熱を出した4歳になる弟の夕の病院に付き添っていた。土曜日という休みの日ではあるが、生憎と両親共に仕事があり、休む事は出来ず、仕方なく高校2年生の俺が付き添う事になったのである…。
診察を終え、下の受付で会計の順番を待っている人々が座るベンチには、さっきまで散々嫌がって診察を受けた夕が、今だに泣きじゃくりながら俺の隣に座っていた。
「……ったく、そんなに泣くなよ…。男だろ?」
と、なんとか励まして泣き止ませようとしたが一向に泣き止む気配がない…
よっぽど診察する医師が怖かったのだろうか…?
「………はぁ」
仕方がない…
ここは、夕の好きな林檎ジュースでも買って泣き止ませるか…
まぁ、確実にあるわけではないので、なかったら他ので我慢してもらうしかないが…
と、辺りを見回して自動販売機かコンビニ的な店を探す。辺りをキョロキョロ見回すと、ちょうど出口付近にぽつんと自動販売機が置かれているのを見つけた。
「ちょっと、待ってろよ。すぐ戻ってくっから」
そう言って俺は夕の頭をぽんと軽くなでる。泣き止まない、その赤ら顔は一人になるのが不安だという様に俺を見つめてきた。
「大丈夫だって。飲み物買ってくるだけだから」
絶対に動くなよ?と念を押して俺は席を立つと財布の入った鞄を持って歩き始めた。だが、歩き出して直ぐに俺の足はピタッと止まってしまう…
病院の自動販売機の前で車椅子に乗りパジャマを着た恐らく入院患者であろう少女が飲み物を買うためにボタンを押そうと手を伸ばしている…。だが、伸ばされた細い腕は目的のボタンまで届かず、少女事態、車椅子から落ちそうな感じだった…
「ちょッ!大丈夫か…?」
俺は鞄を床に放り出して駆けていき、倒れそうになる少女を支えた。
「ごめんなさい…、ありがとうございます…」
そう言って俺を見上げた少女に俺は一瞬ドキッとしてしまう…
歳は俺とあまり変わらないくらいだろうか…
柔らかそうな淡く光る長く垂れた黒髪…
綺麗な黒い瞳…
真珠の様に美しい白い肌…
細く、整った顔立ち…
――可憐だ…
――ちょー美形で、ちょー可愛い!!
「あの…どうか…しましたか…?」
少女に見入ってしまいボーッとしていた俺に不安そうに聞いてくる声と顔があった…
「ごっ、ごめん…。何でもないんだ。それより怪我はなかったか?」
「はい、助けて頂いたおかげで倒れずに済みました。有難うございました」
そう言って丁寧に頭を下げてくる少女に俺は笑って言った。
「お礼を言われる程じゃないよ。そういえば、飲み物が欲しかったんだろ?どれが欲しいのか言ってくれれば俺が押すけど?」
「えっ、でも…」
「いいって、何が欲しいの?」
遠慮がちにしている少女に半ば強引ともいえる言葉をかけながら俺は自動販売機の前に立つ。すると、何が可笑しいのか少女はクスッと笑って…
「じゃあ、お茶をお願いします」
と可愛らしい桜色の唇を動かして言ってくる。その仕草にドギマギしながら自動販売機の方に振り返った。
「お、お茶だな?」
震える指を、なんとかボタンにもっていく…。そして、お茶のボタンを押した…
……つもりだった…
押した瞬間、ガタンと音を立てて下に落ちた飲み物を掴みだし少女の前に差し出す。
「はい、お茶」
しかし、少女はキョトンとして…
「あの…それ…林檎ジュースですよね…?」
と困った様な顔をした…。
「えっ!?」
俺は手に持っているペットボトルを見つめて目を見開く…
そこには確かに一目でク〇のキャラクターが入った林檎ジュースと分からせるラベルが貼られた500mmlのペットボトルが収まっていたのだった…
――あぁ、やっちまった…
――まさか、いい所を見せようとしてボタンを押し間違えるなんてバカしてしまうとは…
頭を抱えながら悔やむ俺に対して少女は不思議そうに首を傾げる。
「あの…大丈夫ですか?」
俺は慌てて顔を上げ、手を振ると即座に謝った。
「いや、大丈夫。ってか、悪かったな。すぐ買い直すから…」
俺は再び自動販売機の前に向いて買い直そうとしたが、少女は微笑んで…
「構いません。その林檎ジュースを頂けませんか?」
と手を差し出してきた。
「えっ、でも…」
「いいんです。本当は種類なんて何でもかまわなかったから…」
「そ、そうか…?」
優しく微笑む少女に戸惑いながらも、その折れてしまいそうなくらい細い指にゆっくりと林檎ジュースを置いた。
「………」
「………」
その他何をしたらいいのか分からず沈黙が続き気まずい雰囲気に陥る。
――マズイ…
――気まずい…
――チョー気まずい!
「お、俺もう行くわ。気をつけて戻れよ?」
気まずい雰囲気に耐え兼ねた俺は、そそくさと立ち去ろうとした。
「あ、あの!」
でも、少女の声に俺の足はピタッと止まってしまう。
――あー、ダメなんだよな…俺…
――可愛い子を前にすると立ち止まらずにはいられない…
――これが男の性なのだろうか…
「な、何?」
俺は恐る恐る後ろを振り返った。すると、遠慮がちな美少女の顔が目に映る。
「あの、もし良かったら…名前…教えて貰えませんか…?」
「えッ!?」
名前を聞かれるなんて事を思ってもみなかった俺は何ともみっともない声を上げてしまった…
「駄目…ですか?」
また、悲しそうな顔をする彼女に向かって俺は慌てて違う違うと意思表示し少女に向き直す。
「俺は、原田 伸っていうんだ」
その答えに少女はニコッっと笑って…
「私は円道ひかるっていいます。原田さん、今日は本当にありがとうございました」
と、また礼儀よくお辞儀をした。そんな少女に釣られて俺も不思議と笑顔になる。
「おう、じゃあな!」
そして、手を振って俺は駆け出す。
胸一杯に嬉しさを抱いて…
でも、この時、俺は弟の為の林檎ジュースの事などすっかり忘れていた。
きっと、浮かれていたのだろう。
これから自分に迫りくる困難など知らずに…
こんにちは(゜▽゜)/わんこです!
「異世界王女」の合間を縫っての投稿です。
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