1話目「前日の飲み会」
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評価を頂けると今後の励みになります、よろしくお願いします。
全10話、前後を目安に完結予定です。
今回は夏のホラー2026「音」をテーマにしたホラーを書かせていただきました。
視覚的な恐怖ではなく、聞こえてはいけない音、聞こえてしまった音がもたらす恐怖を中心に据えています。
奈良県の山奥、かつて鉱山で栄え、そして呪われたように廃村となった集落を舞台に、主人公・大塚北斗の視点で物語は進みます。
一人称視点のため、主人公が知り得ない情報は基本的に描写されませんが、時折過去の回想や伝聞という形で背景を補足していきます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
それでは、1話目「前日の飲み会」、どうぞ。
俺、大塚北斗は今年で32になる。独身、彼女なし、趣味は山登りとキャンプ。
そんな俺と同じように、独身で似たような趣味を持つ同期・同僚が3人いる。
小林啓太。俺と同期入社で、営業部のエース。何でもテキパキこなすが、ややせっかちなところがある。
水口裕太郎。慎重派で、皆が突っ走ろうとするとブレーキ役を買って出るタイプ。心配性とも言う。
白浜誠。俺たちより2つ下の後輩だが、なぜか一番羽振りがよく、思いつきで行動するタイプ。今回の騒動の元凶。
4人で月に一度は近場の低山に登ったり、たまにキャンプに行ったりする仲だ。
今回もいつも通りのメンバーで、いつも通りキャンプに行くだけ――のはずだった。
――少し前の飲み会での回想――
いつもの居酒屋、いつもの奥の座敷。生ビールで乾杯したあと、誠が急にニヤニヤしながらリュックからA3の紙を取り出した。
「実はな、皆に報告があるんやけど」
「なんや改まって」
「俺、キャンプ場作るぞ」
一瞬、座敷が静まり返った。それから啓太が吹き出した。
「は? キャンプ場て、お前が? 何をバカな事を」
「いや、真面目な話やって」
誠は構わず、テーブルの上に地図を広げた。現代の地図だ。そしてなぜか、その隣にもう一枚、色あせた古地図まで広げた。
「ふっふっふ、これが買った土地や!」
誠はドヤ顔で言った。
「買った……って、もう買ったんか?」
「せや。既に契約済み。登記も済んどる」
既に購入していたことに皆が驚くが、誠は気にせず話し出す。
「買ったのはこの山一体で」と言って、現代の地図の上に赤ペンで丸を付ける。場所は奈良県と和歌山の県境辺りだ。
「で、この辺りが同じ場所で」古地図の一部も同じ様に、赤ペンで丸を付ける。
「それがどうした?」古地図を持ってきた意味が判らなくて、啓太が聞いた。
「ふっふっふ、ここを見てくれ」誠がペンで○を付けた。
地図では「つるはしを簡略化した形」の記号が載っている。
「鉱山の記号か?」との質問に「そうだ」と誠は嬉しそうに言った。
「へ~」「何の鉱山?」
「おっ! ちょっと興味出てきたね」ニタニタした顔で言った。
腹の立つ顔だが、鉱山は少し興味ある。
「でも、何の鉱山かは知らんねん、奈良って昔は色んな鉱山あったから、行って調べてみんと」
「えっ、まだ行ってないんか? 行ってないのに買ったんか」
「その方が面白いやろ、この場所は天川の近くやし、もしかしたらレインボーガーネットの鉱床かも」
「レインボーガーネットって、あの珍しい?」
「そう、そう、まさにそれ、ロマンと夢があるやろ」
「お前らだけ話進んでるけど、俺も啓太にも解るように話せ」
黙って聞いていた裕太郎が言って、啓太が頷く。
まあ、レインボーガーネットっと聞いて俺は知ってるけど、あとの二人は知らないようなので説明した。
「世界でも2か所しか採掘場所が無い珍しい鉱物で、その一カ所が天川村付近で採掘されてたんや」
「採掘されてたってことは、今はされてないんか?」
「そう、だから今では天川産レインボーガーネットは高額で取引されてる」
「それって、もしかしたら凄くない」
「ふっふっふ、解ったかね」
誠は満面の笑みで、古地図を頭上に掲げて言った。
「もし金、ゴールドが出たら会社辞めるわ」と誠が言いだしたが、
「奈良で金はでないよ」と俺が突っ込んだら、誠は「知ってる」と笑ってた。
「けど誠、山って言うても私有地なんか? 国有林とかちゃうんか」
心配性の裕太郎が聞く。
「そこはちゃんと調べたって。地権者から直接買うたし、法務局でも確認済みや」
「なんかお前、そういうとこだけ妙にちゃんとしてるよな」
啓太が呆れたように言うと、誠は「餅は餅屋やで」と胸を張った。
それから、ゴールデンウィークに行く事に決まり、今である。
***
当日、俺たちは啓太の車で早朝に出発した。
高速を降りて下道に入ると、景色は一気に山深くなっていく。
「なあ誠、その古地図、どこで手に入れたん?」
運転席の啓太が聞くと、誠は助手席で得意げに答えた。
「地権者のじいさんが、土地の権利書と一緒にくれてん。『昔の絵図やけど、記念にどうぞ』って」
「記念て。ただの古い紙やろ」
「その古い紙に、鉱山の記号が描いてあったんやから、大発見や」
道の駅黒滝に着いた。
道の駅黒滝は奈良県でも人気がある道の駅で、登山家に人気のモンベルが支店を出してる場所でもある。
トイレを済ませ、ここで軽く朝食を食べる事にした。
俺は猪汁とおにぎりを食べ、皆は名物のこんにゃくや五平餅などを食べた。
「なあ、この辺の地名見てみ」
裕太郎がスマホの地図を見ながら言った。
「黒滝、天川、十津川……なんか、山深い地名ばっかりやな」
「そらそうやろ、山ん中やもん」
啓太が笑うが、裕太郎はどこか腑に落ちない顔をしていた。
道の駅黒滝までの国道は走り易い道だったが、この先は国道でも酷道と呼ばれる道で、
目的地はさらに奥地で県道、林道を走っていく。
林道と言っても、今は林業も廃れてるので、廃道い近い状態の道を行く。
「山岳地図では、この林道の先に分岐が有るはず」
普通の地図では載ってない道なので、スマホの山岳地図でナビをする誠が言った。
それから直ぐ林道の途中に分岐と言うか、山の入口が有った。
入口の左右の木に、古びたロープか一本張って有って入口を塞いでいる。
「なんやあれ、ロープ?」
「立入禁止とかちゃうか」
裕太郎が窓から覗き込んで言う。
「気にせんでええって。俺が切ってくるわ」
啓太はそう言ってナイフを持って、車から降りて行った。
周りの杉は枝打ちもされず、ずっと放置されてる感じだ。
この辺りは昔から林業が盛んで、良質な木材の産地だった。
運搬方法が、伐り出した丸太を筏に組み、北山川を通じて紀伊の港町・新宮まで流送したらしい。
しばらくすると、ロープを切って啓太が戻ってきた。
入口より先の道は、昔は車の通れる道だったと思われるが、今は草が生え、陥没、落石が見受けられる。
俺たちは車を入口を入って直ぐの場所に車を止めて、歩きで目的地に行く事になった。
車からキャンプ道具などの荷物を取り出してると、ふと先程ロープを張ってあった場所に目が行った。
見ると、ロープを結んでた片方の杉の根本に小さな祠と石碑がある。
「誠、あそこに祠と石碑が有るぞ」
俺が指さす方を誠が近付き、石碑を見る。
「ん~と、明治36年・・あとは読めんわ」
「なにを祀ってるんやろうな」
「山の神?」
「確かに、登山してたら山の神ってめっちゃ多いもんなぁ」
「ま、気にせんでも良いんちゃう、皆の用意も出来たし、行こか」
誠の切ったロープはロープではなくしめ縄であった。
昔は紙垂しが付いていて、「結界」、何かを封じていた事を4人は知らない。
4人は荷物を持ち、目的地に歩いて行った。
この時の俺たちは、まだ何も知らなかった。
1話目、ここまでお読みいただきありがとうございました。
今回は物語の導入として、主人公たち4人の人物紹介と、事の発端となった土地購入の経緯を中心に描きました。
まだ怪異らしい怪異は登場していませんが、随所に「不穏な種」を仕込んであります。古地図、しめ縄、石碑……これらが後の展開にどう繋がっていくか、楽しみにしていただければと思います。
特に、啓太が何気なく切ってしまった「しめ縄」。これが物語全体の引き金になっていきます。
何気ない日常の一コマの中に、取り返しのつかない選択が紛れ込んでいる――そんな怖さを、これから少しずつ描いていきたいと思います。
次話からは、いよいよ現地の廃村跡に到着し、不穏な空気が本格的に立ち込め始めます。
最後まで書き切りますので、良ければ2話目もお付き合いください。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




