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俺は教会で祈りを捧げていた。
前と同じ手順を踏み、しっかりと亀の神様に向かって祈りを捧げていた。
その理由は至ってシンプルで、クリーフさんと仲良くなるためだ
どうにも苦手だった教師のポルック。
それに比べると、クリーフさんはとても話しやすく、何か友だちのような関係性になれる気がしたのだ。
ユキは祈りを捧げ終えると、教会の荘厳なまでの芸術を見ていた。
天井に描かれているそれは見る者全てを圧倒する。
圧倒されながらも、これからどうやって話をしようか考えていた。
もはやこの宗教に入信してしまおうか、とも思っていた。
「あの、この宗教って入ったら何かやらないといけないこととかあったりするんですか?」
「『入ったら』?今、『入ったら』と仰いましたか?」
「え?いや、そうですね。何か言葉の間違いでもありましたか?」
「貴方は神様に支えられているのです。なので、宗教に入るも何もありません。もうすでに、もはや貴方が生きているということ、さらに言えば生まれてきたということ、それだけで、貴方は神様を信じなければならないのです」
「な、なるほど。そういえば、そうでしたね……」
信仰心はガチみたいだ。
軽い気持ちで触れていい人でもないような気がしてきた。
どうしても、前の世界の常識を持ってしまっている俺は、この世界に馴染み切れない。どこかに違和感を覚えてしまって、その先に進むことができない。
でも、もしかしたらこの人は面白い人かもしれない。
少なくとも、俺がこの世界で出会った人の中では一番面白い人だ。
そういうのは非常に魅力的だった。
どうせなら単なる友人じゃなくて、面白い友人の方がいい。
ユキは決めた。
どうにかしてクリーフと仲良くなることを決めた。
年齢差からして、恋人になることは絶対にあり得ない。
なので、とりあえずは友人を探しているのだった。
当然のように、同年代の女子を恋愛的に好きになることもない。
仲良くなるって何をしたらいいんだろうか。
とりあえず、もうちょっと話をしてみよう。
俺はクリーフさんのことをなんにも知らない。
知ったら知ったで仲良くできなくなるかもしれないが、とりあえず話をしないことには何も始まらない。
「クリーフさんはどうしてシスターになったんですか?」
「私ですか?私は、神様にお仕えしたいと思ったので、この職業を選んだのです」
「何かきっかけのようなものがあったりとかは?」
「きっかけはあります。私は、みんなに馴染めていなかったのです。が、ここの神様に祈りを捧げてから、不思議なほどに友だちも増え、恋人もでき、結婚もすることができたのです。お金持ちにもなれましたよ?」
詐欺広告みたいなことを言い出している。
こうなると、「みんなに馴染めていなかった」というのも、俺をこの宗教にガッツリ関わらせるための嘘かもしれない。
それでもいい。
それでもいいから、もう少しだけクリーフさんの話を聞いてみることにしよう。
「やっぱり神様の力は偉大ですね」
「わかっていただけましたか?」
「そうですね。俺の夢は神様に会いに行くことなので、神様のことは非常に気になっています」
「『神様に会いに行く』。もしもそんなことが可能ならば、私も会ってみたいです。が、どうしても神様とは簡単に触れられるものではありませんからね」
「どうやったら会えると思いますか?神様に?」
「それはもう。滝の下に向かうしかないでしょうね?どうやってそこまで向かうのかはわかりませんが」
滝の下にはどうやって行ったらいいのか。
向こうからしたら俺は、子どもにしか見えてないのだろう。
それでも、そういう夢を見てしまった以上は仕方がない。
この世界の果て、その下には確かに何かがある。
それが亀なのかは知らないが、何かがあるのは確かだろう。
俺は列になっている席の一番前の場所に座った。そうすると、自然とクリーフさんも横に座る。何かを話すとしたら今がチャンスだ。
とも思ったが、そもそも仲良くなるためには何を話せばいいのか。
そんなに簡単に仲良くなることができるわけがない。
今回で、つまりは一回で仲良くなることを考えるよりも、何回かここに通う中で親しくなることを考えた方がよさそうだ。
とはいえとはいえ、それとはまた別に意思表示のようなものがあってもいいだろう。が、ここでそれをするということは、神様を信じることを表明することになるのだろうか。
何か面倒なことに手を突っ込んでしまったような感覚にもなった。面倒だ。
「これから、何度かここに来ることがあると思います。その時はまた一緒にお祈りを捧げてくれますか?」
「もちろんですとも。私は、神様を大切に思ってくれる人が一人でも増えてくれたら、それはそれでいいのです」
「そうですか」
そんなことを言ったクリーフさんの表情はどこまでも晴れやかだった。
狂信的であるということと、狂っているということは違うのかもしれない。
それでも、どこかに違和感を覚えてしまう俺だった。
今はこの違和感ごと楽しむしかない。




