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黄金の大地  作者: k0uk1s1n
12/22

夏休み

「そんなもんはあるわけがない、働け。」

水を張った田んぼに映る本田が言う。幻聴に指摘されなくても分かっている。小学校時代が懐かしい。

摩耶「ソロソロあの季節だなー。(遠い目)」

木陰で休む隊員達は高い空を仰ぐ。入道雲だ、一雨来るのかもしれない。

西尾「水着大会かぁ。」

本田「そんな(素晴しい)大会があるのか!?」

ちょっと食いつき気味で本田は西尾に迫った。

西尾「お、おう。アンドロイドは泳げないから、せめて、雰囲気だけでもーって大佐殿が考案した企画だ。」

スケベオヤジの狭山大佐に感謝だ。

摩耶「隊長のスケベ。」


スケベは世界を平和にする。本田はまた一つ悟りを開いた。

玉「まぁ、我々も水着なんて着ないですから。楽しみとも言えなくもないですが?」

綾「兵長もみたいんですか?」

二人ともプロポーションがいいから絶対に似合う。

どれだけ頭の中で着せ替えをしただろう。

綾「むむむむ、エッチな顔です……」

本田は箸を止めて、伸びた鼻の下を戻した。

綾はシャツの胸元を隠す。アンドロイドだから合法のハズ。

玉「こらこら、綾のファンクラブの方もいるんですから。」玉が口元を押さえてホホホと笑う。

うーん、かわいい。


あれ?いつの間にか自分の中で玉に対する感情に気がつく。

こんなに、好きなのか?アンドロイドを?

本田「反出生主義だからかな?まぁ、流れとは言え、演技とは言え、(キスも)したしなぁ。」

個室のベッド、天井を見ながら自問自答する。


水着大会当日、この日はいつもゴチャゴチャとコンテナやら物資が置いてあるハンガーを片付けてファッションショーみたいな台座が設けられている。

伊勢「まぁ、大佐の頼みだし、わけーのも楽しみにしてるからなぁ。」

戦前の左翼やフェミが見たら電凸、抗議デモをやっていただろう。

『司会進行は、狭山がお送りします。』

会場が盛り上がる。

本田「俺もカメラ、いいの買おうかな?」

西尾「えー、スマホので十分じゃねーの?」

夢のないことを言うゴリラだ。

最初に登場したのはピンクのビキニ姿の玉だ。

玉「惚れました?」これは幻聴だろうか?

笑顔で手を振る彼女に本田は見とれていた。

次は水泳水着の綾が出てきた。うーん、合法って素晴しい。会場のファンクラブの連中から野太い歓声が上がる。

次はフリフリのビキニの摩耶だ。

?なんか、どよめきが前の二人と違うような?

西尾「摩耶は男の娘型だからなぁ……」横に座っている西尾が答え合わせをしてくれた。際どい。

その他の水着姿のアンドロイドたちが登場したが、

始終、本田は玉から目が離せなかった。


摩耶「楽しんでくれた?隊長?」

うん、なんか新しい世界の扉が開いてしまった。

多様性というやつだろうか?

西尾「次は祭りもあるんだぜ?」

本田「ここ(ハンガー)で?」

西尾「いや?今度は敷地全部使う。神輿まで出て近くの稲荷神社まで担いでいくんだ。地元回帰主義?なんかの団体が毎年、企画してるやつ。」

本田「ということは?」

伊勢「浴衣も拝めるぜ?」

マジか。決めた。俺はここに骨を埋める。

本田はウッキウキで兵員輸送車に乗り込んでいった。


祭りは結構、本格的だった。

地元民の高齢者や一般人なんかもきている。

本田「へぇ、出店いっぱいあるなぁ。」

玉達と受付をする。玉はピンク地のたくさんの金魚をあしらった浴衣、綾も赤地のきらびやかな浴衣姿だ。よく似合っている。……ピンクが好きなのか?

綾「……こちらに署名を。」

玉「はい、こちらが食券になります。」

一通り、バスツアーの観光客の受付が終わると個人客はほとんど居なかった。

そりゃそうか、わざわざ地元に帰らなくても、都会でもこの時期、祭りをやってる。

玉「兵長はこれから誰かと一緒に回られるんですか?」

本田「いや、特に決まってないんだ。」

本田&玉「「あの!」」二人とも同時だった。

しばらくの沈黙の後、本田が先に切り出した。

本田「よかったら俺と回ってくれませんか?」

玉「あの、その……はい。」

二人は照れ隠しする。

本田は玉と二人で出店を見て回った。

夜、提灯の揺らめく灯りに照らされる玉の輪郭は、

いつもより艶やかに見える。

玉「あ、晃一さん、お好み焼きがあります。食べましょう。」

ん?まぁ、いいか、呼び方なんて。

玉「私はわたあめ!」

わたあめならたしかに砂糖だし、アンドロイドでも食べれるのか?

玉「晃一さん、ここなら空いてますよ。」

食べ物を扱う出店の横に並べられた席に座る。

本田「そういえば、なんで玉は俺の食べてるところに来るんだ?」

前から思ってた、疑問を投げかけてみる。明らかに、玉はドキッとしている。

玉「と、とりあえず、食べ終わってからにしましょう。」

その時、歓声と同時に神輿が出てきた。出店の横を通り、敷地内をぐるっと一周する。

玉「あ、外に出ますよ!我らも行きましょう!」

食べ終えた本田は玉に手を取られて敷地の外に出た。

二人は遠くから駐屯地の明かりを眺めていた。

玉「……私が貴方の食べるのを見てる理由。知りたいですか?」

本田「気になるよ。」

玉「そうですよね……」

少しの沈黙の後。

玉「実は、貴方が食べてると、私も味がわかるんです。不思議ですよね?」

本田はてっきり自分のことが好かれているものと思ってたので落胆した。

玉「あー、違うんです、晃一さんの事が好き、なのも、あったり、します。」言っちゃった。そんな感じに両手で顔を覆う。

確かに不思議な話ではある。そんな事は今は横においておこう。

本田「俺も玉が好きだ。よかったら、お付き合いしてくれませんか?」

玉「はい。」

アンドロイドと人で恋愛とか、どうかしてるのかもしれないが、二人は真剣だった。

決めた。禁煙しよう。それで、できた金で、

この子と一緒にいろんなところに出かけよう、そして、いろんなモノを一緒に食べよう。

本田は人生の目標ができた。

二人は互いに心が通いあっているかのように、

引き寄せられるようにキスをした。


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