【53】ゴブリン・リベリオン②
――禁書庫地下室、タドコロ・イズミ幽閉地点前。
ゴブリン・リベリオン開始から、おおよそ十分後。
投獄されたイズミにも、侵入者の報告が届いていた。
「イルガス―……」
◇
――まったく、本当に。あなたって人は。
「侵入者だ! 見張り塔の奴らは何をしている!」
「そっ、それが……全統、通信が途絶えていて!」
――どれだけ僕たちに迷惑をかければ気が済むのやら。
「なんだこいつら、本当にゴブリンか!?」
「尋常じゃない……! 特にあの男二人!」
「おいおいジヲォン殿、なんだか俺たち噂されているぞ?」
「戦闘中にお喋りとは、なんとも肝の座った奴らだことよ」
前衛はブラッド、ジヲォンの二枚壁だ。
これで突破できないようではな!
「イルガス、相手の前衛が崩れてる今のうちに!」
「ああ、さっさと行っちまおうぜ!」
「まあ待て。レイ、ゲイブ。ここは慎重に行こう。
どこに殿下が幽閉されているかわからないからな」
総崩れとなった戦闘兵――魔法使いたちを前に、
僕は鞘から剣を引き抜き、言った。
「トータウス駐屯魔法兵団諸君、私はゴブリン連隊参謀、
イルガスだ。イズミ殿下の不在を、預かりし者である!」
すると名乗った肩書に、魔法使いたちは恐縮するように
身を引いていく。
「ここに集いしゴブリン兵たちは、我らが王を奪還せんとする
同士! その中でも中枢を担う、精鋭兵の集まりだ。諸君らに、
敵う相手でないことは理解できたはずだ。おとなしく、殿下の
居場所を吐いてもらおうか!」
そこで僕は、レイに合図する。
頷いたレイは魔力をため、目の前の魔法使いたちに放つ。
「(思念電波共有―……範囲、禁書庫全体!)」
地下牢へとつながる大きな通路に、緑色の閃光がほとばしる。
やがて僕の脳に――目の前にいる活動可能な魔法使い、その
全員の思考が、僕の脳に投影される。
レイ・フォン・トライヒルデ――権能名――『時空の歌姫』
――なぜ僕とレイが、二人で『参謀』という座についているか。
今からお見せしよう。僕らの権能は、相性がバツグンにいい。
『な、なんだこれ!?』
『脳が……スースーする!?』
思念をジャックされたら、脳みそを裸にされるも同然。
そういう感想がでてくるのも、当然だろう。
だが、僕は嫌がらせがしたいわけじゃない。
レイが、思念を通じて全魔法使い、そしてそれらと
思念を共有した僕に、話しかける。
「(無駄な抵抗をしなければ、危害は加えない。
吐け。そうすれば、多大な血を見なくてすむぞ)」
『はっ! はったりを』
『貴様たち魔族を、誰が信じるか。絶対に居場所は吐かん!』
思いのほか、魔法使いは結託しているように思える。
殿下を、二度と外へ出さまいと必死だ。
彼らにも、仕える主がいるからだろう。
ふふっ――でもなあ、いるんだよ。必ず。
――忠誠を誓いきれない、哀れな雛鳥が。
『――見つけた』
滝のように流れていく情報の中で、
一人だけ、負の思念を送るやつがいる。
イルガス・フォン・ホープ。権能名――《聡明叡知》
僕の権能は膨大な情報の中から、一粒の砂金をつまみ出す。
どんなに人の思念が流れてきても、その中から裏切り者を見つけ出す。
それが僕の権能―……生きた裏切り者発見機、それが、僕なのである。
すべての情報を飲み込めるほどの脳を持たなければ、
決して完成しえない絶技である。僕の取り柄はこんなもの。
だが、ゲイブは。
こんなものじゃあないぞ。
「――ゲイブ、七時の方向前から四列目」
「りょーかい……そいつを引き裂けばいいんだな!?」
「(思念、解除!)」
レイが共有を解除し、脳がふっと軽くなった。
そして、ゲイブが指定した人物の前に躍り出る。
「ひっ……!」
その早すぎるフットワークを前に、思わず
青年の魔法使いはたじろいだ。
尻もちをつく。そこに、ゲイブの爪が容赦なく
突き立てられ―……。喉仏を赤いしずくが滴る。
「お前、忠誠が足りてないってよ。残念だったな」
青年の首を掴み、くるっと振り返ったゲイブは、
そのままその他大勢に向かて叫んだ。
「このまま居場所を吐かなきゃあ、
こいつの首を根本から魔力でへし折るぞおらぁぁぁぁ!」
ゲイブ・ザッハーク――権能名――《絶対意思》
「う、おああああ!?」
咆哮は波動となり、衝撃となって、その他を吹き飛ばした。
権能を発動したゲイブは、その魔力が何十倍にも跳ね上がる。
咆哮は魔力をまとった波動となり、体に流れる血潮はマナと
なって、全てを蹂躙する破壊神となる――…が。
今回は、少し抑えてもらった。
「その程度でいい、ゲイブ。青年を見ろ」
かわいそうに、失禁までして怯えてゲイブを
見上げている。
「ああッ? んっだよつまんねえなあ……。
――んで?」
薙刀で瞳をえぐるような、ゲイブの鋭い眼光に。
ついにその恐怖に折れた青年は、場所を吐いた。
「……情報の提供、感謝する」
形があるかどうかも釈然としない忠誠よりも、
己の命を優先する。
それも、人間として当然の采配だろう。
僕は、彼の生き方を否定しない。
結果的に、殿下の居場所も
わかったのだし―……。
「あとは、残敵掃討だな……。バカ二人組、やれ!」
「イルガスゥ! 儂らの説明だけ雑すぎやしないか」
「そうだぞイルガス殿! せめて肉壁特攻兵と呼んでくれ!」
「どっちも変わらないだろ! 急げ、殿下はすぐ目前だぞ!」
横薙ぎになって倒れる魔法使いを飛び越えて、
僕らは地下牢へ向かって歩を進める。
敵を屠りながら、ブラッドが言った。
「まったく……手間のかかる上司だな!」
「二人揃ってな!」
槍を振り回しながら、ジヲォンが同調した。
……はて、二人?
イズミ殿下お一人ではなく?
まったく、誰のことやら。
ふぃー……平成が終わりますねぇ。
令和は何年続くんでしょうか。私はいつまで執筆を続けているんでしょうか。
学校はよく、「十年後の自分は何をしているか」とか書かせますけど、
今の私たちにとって十年って年月は人生の大半なのでありまして……。
そんなの分からないですよねぇ。
ほんと、人生分からないことばっかで、嫌になりそうですよ、ハイ。
つまり何が言いたいかっていうと、この作品を読んでくださっている
諸氏全員に、生きた年月は違えど、平成の間、おつかれさまでしたと、
そう言いたいのです。
どうせ私が中年になるときに、また元号が変わります。
そのときに胸を張ってこの時代を生き抜いたと、そう言える
生き方をしたいと思います。
平成31年、4月30日、終わらない宿題を目の前にこさえながら―……。




