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【50】投獄生活


今日、学校でこんなことがありました。


先生「〇〇くんは、生まれ変わったら何になりたいですか?」

私「そうですねぇ……。異世界に転生して、勇者にでもなりますかね(笑)」

先生「なにそれ。どういう意味なんですか? 世界に転生? は?(真顔)」


異世界ジョークが通じない……だと!?



私は―……捕まったのか。


「トータウスの牢獄へ、ようこそ」


とりあえず、状態を確認しよう。


隔離された個室、左右には苔むしたレンガの壁。

窓枠はなく、鉄格子の柵だけが背景にあった。

ユキミヤは、檻の外側で私を見つめている。

一番厄介なのは、両手首を縛るこの手錠だ。

変な光を放って、蛇みたいに長い鎖を有している。

ちょ、ちょっと待って。乙女的にピンチだよこれ。


「あ、安心しろ。毎日下の方の面倒を見る侍従がいるからよ」


「そこが安心できないんだよぉ! 

せめてもうちょっと配慮してよ!」


囚われの身といえどこちとら花のJKだぞ!


ゴブリンの女だからってバカにしてんのか!?


「はは、勘弁してくれよ。その手錠解いたら、

脱走されちまうだろうが。気持ちは分かるが、堪忍だ」


へらへらと笑いながら、手をあげて降参のポーズ。


野郎、ここから出たらぶっころ……ごほん。ぶん殴ってやる!


「レベルキャンセラーだ。その手錠をつけてる限り、あんたの

レベル上限MAXの力はないも同然。そうすりゃこっちも安心だ」


この手錠の変な光は阻害魔法か……。

あんた勇者のくせにビビりやがって。


「――なあ、気持ちは分かる。分かるけど……、

そんな目で見ないでくれよ。

おじさん、傷ついちゃうぜ」


おじさんは急にしおらしい瞳と声音になり、

許しを乞うような視線を投げかけてくる。


……こんな人が、本当に。


この世界に名を馳せる『西の勇者』その人なのか。

『北の魔王』である私を下した、憤怒の男なのか。


あの時振り下ろされた剣の鋭さを、

滲んでいた怒気の重みを忘れない。


それが今は、微塵も感じられない。

ただの、髭を生やした不潔な中年の男性だ。

おまけに好物なんであろうポテチの油で口元は

濡れ、さらに不潔感を漂わせている。


……なんか、日本にいたころの私に似てる。


ただ、毎日を無暗に生きることを心のどこかで

悔やんでいる。そんな、誰かに助けを求める目だ。


西の勇者――ユキミヤ・リョウヘイ。

その本心が、私には分からない。


「俺にはな、イズミちゃん。夢があるんだよ」


かと思うと、目を合わせ、男は急に語りだした。


「俺は、日本で絵描きだった。売れない絵師で、

絵本とか漫画とか書いては、それをネットにアップしたり

コミケで販売したり、まあそこそこに食ってたよ」


売れないなりにな、と苦笑いで一旦言葉を区切ると。

――鎮痛な面持ちで続きを話した。


「俺の夢はな。俺の書いた絵本で、

子供たちに笑ってもらうことだった。

笑ってもらいたい。楽しい気持ちでいてほしい。

せめて、児童の間だけは、世界は楽しいことで

溢れているんだって、何も疑わずに生きてほしいじゃねえか。

俺は、その手伝いを―……。笑顔をこの手で、作りたかった」


下げた視線は、手のひらに向けられていた。


過去に過ぎ去った夢を握りつぶすように、

もう思い出さないと誇示するように、

ユキミヤは手のひらをぐっと握った。


「あと……、あと少しだったんだ。

俺がガキの頃に通ってた幼稚園で、俺の作品が紹介される。

奇跡みたいな機会が巡ってきた、そんな矢先に……っ……」


やがてそのドライアイに、透明の雫が伝っていく。


「転生、させられた。この地獄に……」


鉄格子の外で、男はえんえんと泣いていた。

大のおとなが、男が、女の子の前で嗚咽を漏らしながら。


己の弱さを、敗れた夢を、その場で吐露しながら……。


「この世界は地獄だ。人だとか魔族だとか言うやつが、

民族の違いとかを理由にかんたんに殺し合いをする」


歯を食いしばりながら、自称勇者は続ける。


「イズミちゃんの先代様に、隠居を強制するくらいの

重症を負わせるのに、百人は死んだ。ぜんぶ俺の部下。

異世界で傭兵になって、初めて心を開いた部下たちを、

ゴブリン共はなんどもなんども混紡で殴ったんだよ」


泣き止んで、呆然とする私に向けた視線は。

過去への諦めと、憤怒で彩られていた。


「――だから、許せなかった。この世界が。

人が簡単に死ぬ世界が、怖くて仕方がない。

確かあんたは言ったな、想像で乗り切ると。

――想像はダメだ。夢や信頼は、ダメだよ。

人をだめにしちまう。希望を与えてしまう。

そんな淡い希望が、人の夢が、

かんたんに散る世界だからだ」


泣き止んで立ち上がったユキミヤは、

踵を返して最後に言った。


「だから俺が――『西の勇者』が変えるんだ。

イズミちゃん。俺があんたを、この悪夢から

覚まさしてやる。大丈夫だ、おれは知ってる。

――もう一度、日本に帰る方法を。だから、

そこでゆっくり、静かに過ごしていてくれ」


聞き逃せない、ことを言った。

「待って」と手を伸ばす前に、

その男は外の世界へと消えた。


「……なんなんだよ」


一方的に私情を話して、

話したら解説もなくバイバイなんて許せない。


それに、こんな所にいたら、昔と変わらない。


「……よし」


必ず、ここから抜け出してやる。

そう。さながらショー○ャンクのように!



『異世界転生』って、我々以外には通じない専門用語なのでしょうか?

ここに来てくれる方はこんな無茶ぶりな設定でも理解してくれるのに、

見識の幅が違うんですね……現実ってものをまた一つ知ってしまった。

ああ、大人になりたくない。けど高校は早く卒業したい。ああ、矛盾。


結論。

なろうの同士諸氏、異世界ジョークってのは通じない人のほうが多い。


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