【92】出撃
二週間ぶりでございます、どうもSinonです。
やっとこさ東に行く準備が整いました。
こっからまた書くペースを戻して
いこうかと思います……(^o^)
「イズミ様、賢者様。出立の準備が完了しました」
たおやかに頭を下げて現状報告するノイリーの
後ろには、毛色の豊富な馬たちが何頭も
用意されていた。私はその中から白色を。
ショウコさんは黒色の毛の子を選んだ。
「ではイズミさん。ご自分の兵士たちと
南の兵士たちに激励をお願いできますか」
「え? 私ですか」
「ええ。だってイズミさん最近セリフ
少ないじゃないですか。私ばっかり
喋っていたら、疲れちゃうしねっ」
珍しくタメ口になって声をはずませる
ショウコさんに、あはは……と、私は苦笑いで皆の
前に登壇する。
イルガス、ゲイブ、ジヲォン、レイ、ブラッド……。
ここまで私についてきてくれた家臣が、
新しく加わった南の兵士たちが、
その全員が、私を見上げていた。
……なんていうか、壮観だなあ。
私いままで、こんなにも多くの人の
注目浴びたことってあったかなあ。
いや、ないな。だって引きこもってたし。
特技とか、趣味とかもゲーム以外特に
なかったから、朝礼とかで表彰された
試しすらない。
――だから今、こうして私が浴びている注目は、
私がこれまで築きあげてきた功績へのご褒美だ。
「みんな、注目!」
こんな機会だ、めいっぱい目立ってやる!
「私たちはこれから、『紫の傷跡』の保有者
ユキミヤ・エマの保護に向かう! 向かうは
東の城塞イーズシダー! 途中、草原やダンジョン
などで人やモンスターとの様々な戦闘が予想される。
――んでも、皆さん! とにかく頑張りましょう!
この遠征を健康的に生き抜いた者には、なんと!?」
「「「「なんと?」」」」
「来るべき『異世界人類ニート化計画』に向けて、
いち早く有給をとる機会を与えたまえま〜すっ!」
「「「??????」」」
「はっはーん! 皆さん「何言ってるんだこの娘」みたいな
目をしていますねぇ!?でもご安心を!全国の女子高生はね、
テンションが上がると皆声が大きくなるんです! 安心して
ください、私だけじゃありませんから! あっちの世界の
女子高生、みんなこんな感じですから! ということで、
異世界人類ニート化計画の概要を説明しますとー……」
と、要点をかいつまんで私が考案した『異世界人類ニート化計画(以下、乙)』を説明した。
この世界の人類は、キズル村を発端として働きすぎているということ。
東西南北での抗争や戦争が絶えないことから、この世界に在住する
人類のみんなに不安や激情になりえる懸念の種が芽生えていること。
それを解消できるのが、私の考案した乙であるということ。
――一旦、すべての人類の職や責務から開放させ、自然の
形に戻させたのちにもう一度人類と魔族たちの再生物語を
再開する。
今回、この遠征に参加し見事帰還した者たちには、その間に
有給をとることを特別に認める……という、私がこの大陸の
覇者になった暁のお話である、ということ。
しかし、私の家臣たちは私が『北の魔王』以上の
存在になることを疑っていないらしい。
東西南北、すべての人類と魔族を統合し、
力によって全人類を支配し――管理する。
悪の『魔王』にふさわしい、私らしい目標だ。
「――かれこれしかじかなので、私が大陸の
覇権を握った暁には、あなたたちに計画の
真髄までもを享受することを誓います。
なので皆さん、頑張ってくださいね!」
……ポカーンとする、南と北の兵士たち。
あれかな、私特有の早口に圧倒されちゃった感じかな?
うーん。ヲタクに話は難しい。
「私からのお話は以上です。
それではみなさん――」
しかし、そんな弛緩した空気もつかの間。
私が右腕を振り上げると、兵士も、ゴブリンも、
みんなが息を潜め、私の次の言葉を待っている。
「出撃ですっ」
「……なるほど。それで俺たちも、東への旅路に同行しろ、と」
「無理にとは言わねえ。だが、あんたらはそうとう腕の立つ
冒険者と見た。いてくれれば、心強い。俺は、こいつの
子守もしなけりゃいけねえからな……」
俺は、東に行くまでのおおざっぱな理由を説明した。
――ガーの卵がどこから来たのか探るため、
――そして、俺らゴブリンにとって欠かせない『人間化』の薬の調達するため。
そのために俺はガーを連れて、東の草原を目指しているのだと。
するとメイドっ娘のマルマが、口を開いて。
「それってゴブリンのお兄さんの力がないからでしょ?
あんたたち魔族って、基本的に人間を見下してるくせに、
こういうときだけ人に頼るの? それってどうなのよ?
人として」
「……俺は人じゃねえ。人のみなりをしてても
立派な魔族の「ゴブリン」だ。だから、余裕で
手の平を返したりする」
たしかに、俺は弱い。
ブラッドが幹部メンバーに選出されているのだって、
単なる実力だ。俺には、それがなかった。
それだけの話だったんだ。
だから、認めるところから始めよう。
そして、必ず東の草原へたどり着いて。
ガーの出自をはっきりさせてやるんだ。
じゃないとこいつだって、居場所が
なくて困っちまうだろ。
こいつは殿下のペットであって、
一匹のれっきとしたドラゴンだ。
帰る場所くらい、あったっていいだろうが。
「……たっくよお。断る理由がねえから、
困っちまうのはこっちの方だぜ」
グルドが相変わらず老けたため息とともに言う。
「……力を貸してくれんのか」
「あんたを負傷させたのも、思い返せば俺たちだ。
その傷のぶん、活躍させてもらう。いいよな?
マルマの嬢ちゃん」
「……まあ、久しぶりにバカ兄貴にも合っておきたい
ところだし? ……そう考えれば、なにも利益がない
わけじゃないし。まあ、ついて行ってあげてもいいよ」
焚き火のなかで、暖かく燃えるふたつの微笑が
俺を眺めていた。
「――…ゴブリンを代表して、あんたらに感謝する」
「ガー、ガ〜!」
ガーの嬉しそうな声が、遠くの月まで届いた気がした。




