【87】覚醒の勇者
すみません^_^ これで決着つくと思ってたんですけど
もう一話かかります。
エマが泣いている。
この世界で出会った、大切な人が泣いている。
その涙を止めたいのに、伸ばす手は痣だらけで
醜いものに成り果てている。
大丈夫だと抱きしめてあげたくても、
体が痛みで言うことを聞いてくれない。
痛み、悲しみ、憎しみ、痛み、痛み痛み。
痛覚だけが俺の思考を支配している。
暗闇にも似た痛みが俺を飲み込もうと、
どんどん俺に近づいてくる。
分かってる。これに飲み込まれたら、
その先に待っているのはきっと死だ。
心地がいいだろうと、思ってしまう。
ここでの暮らしは息が詰まる。
でも、闇の中にはきっと吸い込みきれない
ほどの空気と、思考する必要のない未来が
待っている。
――そっちへ行きたいな。
遠慮するな、こっちへ来いよ。
――そこは、良いところかい。
ああ、とっても良いところだ。
暗闇の奥に、もうひとりの自分がいる。
こっちへ来いと、手招きをしている。
言葉を用いて、深淵へと誘ってくる。
ここから、しばらく俺はもうひとりの
俺としゃべり続けた。
――そっちには、誰がいる。
誰もいない。
でも、心配するな。
思い出せ。俺はずっと、
俺の周りの人間に苦しめられてきたんだ。
思い出せ、穂刈誠太。
俺の周りの人間は、誰もがいい人だった。
だから、こんなにも苦しめられたんだろ。
――確かに……。
人とは呪縛だ。
人とは、鎖だ。
人とは怨嗟だ。
そして他人とは、
己にとっての悪だ。
自ら決断した決定を阻み、
自由に生きることを阻害する。
赤の他人も、親しい人間も、しょせんは『他人』という
枠組みにしか入り切らない。
自分を、一番に考えろよ。誠太。
他人の目なんて気にするな。
己が信じた道を貫くと誓え。
そこに、本当の平和と幸福がある。
自分の不幸せは不幸となるが――他人の
不幸せはただの『事象』にしかなれない。
選べよ、穂刈誠太。
”勇者の重荷”という不幸を一生背負うか、
他人を見放し楽になるのか。
選べ――時間はない。
◇
すっと、意識が戻ってくる
感覚がした。
目の前には、今にも脳天に
到達しそうな剣のきらめき。
選べ――時間はない。
ああ、そうだな……。
俺は、もうすぐ死ぬ。
だからすぐに選ばなくてはいけない。
俺は、選んだ。
「―――はあ?」
リョウヘイの剣が脳天に飛来する直前、
俺はとっさに腕で剣を受け止めた。
がっちりと受け止めたから、手の甲を貫通する
ようなことはなかった。ただ、ギリギリの
状態で肉を維持する筋肉繊維から比喩にも
ならないほどの流血が溢れ出している。
「往生際が悪いぞ……なんの真似だ」
リョウヘイが問いかける。
俺はそれに、不敵な笑みを作って。
「――勇者ごっこだよ。泣いている
女の子を、助けるためのね」
俺は、勇者になることを選んだ。




