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八話 お休み

タイトル回収回





 リアが目を覚ました時、太陽が一番高いところにあった。


 ――寝過ごしてしまいました。


 こんなに寝たのは久しぶりだ。いや、最近三日ほど気絶していたからそうでもないかな? でも気絶と眠るのは違うし……。

 そんなとりとめもないことを考える。

 そのとき、部屋の中に白い塊があることに気づいた。


「????」


 昨日は無かったはずだ。クッションだろうかと思ってみていると、それはゆるりと動き出した。


「…………!?」


 大きな犬――いや、狼だ。しかし、普通の狼とは違うような気がする。


「聖獣」


 その身はたしかに浄化の力を纏っている。リアの声にこたえるように狼――聖獣は『がう』と鳴き声をあげた。

 リアを怖がらせないように、聖獣はゆっくりと近づいてくる。


 ――もふもふ。


 リアは聖獣の毛並みをじっとみる。


「もふもふ、したい」

「がう」

「っ、声に出てた」


 聖獣は、触ってもいいとばかりに、リアに近寄って、彼女を見上げた。


「……」


 ゆっくりと、聖獣の頭を撫でる。聖獣は気持ちよさそうに目を細めた。


「かわいい」


 今までこんなに穏やかな感情を抱く時があったのだろうか? そう思った瞬間、ハッとする。


「そうだ、ここにおいてもらうのだから働かなきゃ!」


 リアは部屋を飛び出した。

 昨日の記憶を頼りに、教会の方へ向かう。

 そこでは、神父が村人と何かを話していた。彼の手には卵の入った籠がある。村人から渡されたらしい。


「あの、司祭様」

「ああ、聖女サン。もう起きて大丈夫か」

「寝坊して申し訳ありません。私、あの」


 頭が働かない。


「顔をあげろ」


 司祭の声。


「お前の身体は弱っているんだ。昼まで眠ったくらいで起こらねえよ」


 フィンの言葉に、リアの胸がずきりと痛む。


 ――私の、努力が足りないから


 村人たちが心配そうにこちらを見ていた。


「フィン神父、その子は新しい修道女さんかい?」

「聖女だ。王都で体調を崩したから、しばらく療養させる」

「そうかえ。栄養のあるもん食べさせなきゃなあ。そろそろ、野菜も収穫時だで、たくさん食ってくれ」


 人のいい笑顔で村人たちは去っていった。

 それを見送った司祭――フィン神父は、リアに声をかける。


「聖女サン」


 反射的に怒られると思った。しかし、違った。


「食べられないものは無いか?」

「え?」

「食べられないものは無いか?」


 再度同じ問いを返され、リアは反応に困った。


「食べられないもの」

「質問を変える。食べたいものは?」

「……」

「苦手なものは、無いのか?」

「えーっと」


 漸く質問の意味を理解でき、リアはマルグレーナの名前を思い出しながら答えた。


「食べられないのは、お肉とお砂糖と、甘いもの全般、クリームとチーズに、パンと果物と、それから……えっと」

「随分と偏食だな」

「……」

「まあいい。お前が寝ている間、医者に診せたが、どうやら栄養失調らしい。胃腸の動きが弱っているかもしれないから、まずは消化に良いものをつくることにする」

「はい」


 フィンの言っていることが上手く理解できない。ここ最近、こうやって頭が働かなくなることがあった。


「座って待っていてくれ」

「はい」


 食卓につかせ、フィンはキッチンの方へ消えていった。


 ――あれ、私、何をしているんだっけ? 何をすればいいんだっけ?





 ――にしても、肉に甘いものに果物も駄目とは


 なかなか見ない偏食だとフィンは思う。

 なるべくそれを抜いた食事を作ろうと、食糧庫から野菜を取り出し、一口よりも小さく刻んだ。フィンは食べ応えのあるものが好きなのでいつも少し大きめに切り、食感が残るようにあえて固めになるように火を通すが、今回は体の弱っている聖女に合わせる。


 ――やっべ、名前聞くの忘れた


 そんなことを考えながらも手の動きは迷いがない。


 ――刺激物は避け、薄味。それから卵に火は通し過ぎない方が良い――なら出来上がる少し前に入れた方が良いか


 視界の端に少し固くなったパンが映る。これを入れても良かったのだが、本人はパンが苦手と言っているから仕方ない。


 乳製品は栄養豊富だ。もう少し元気になったら、オニオングラタンスープでも作ってやろうかと思ったが、パンもチーズも苦手なら、やめておいた方が良いだろう。かわりにスパイスを入れた野菜炒めを作ってもいいかもしれない。弱り切った身体にスパイスは毒だが、ある程度元気になった身体には良い気付け薬となる。


 野菜に火が通ったことを確認し、卵を回しいれる。スープの中を卵が泳いでいるのを見ながら、丁度いい硬さより少し前に火を止める。

 適温になるまで少し置く。その間に、もう一つの鍋で沸かしていた湯をポットに入れ、ハーブティーを作る。

 教会の庭で栽培した特性ハーブだ。心を落ち着かせる効果があるという。何より香りがよく、フィンはこれを気に入っていた。


「できたぞ」


 フィンが戻ると、聖女はフィンが調理場へ行ったときと寸分たがわぬ体勢で座っていた。

 フィンができたスープとハーブティーを彼女の前に置くと、不思議そうにこちらを見上げてくる。


「お前の分の飯だ」

「……?」

「胃腸が弱っているらしいから、食べ応えがあるものは出せない。今日はこれと同じスープをすこしずつ、よく噛んでゆっくり食べてくれ」

「あの」

「?」

「これ、全部私が食べていいのですか?」


 彼女の言葉にフィンは首を傾げた。


「お前のために作ったんだ。当たり前だろう」

「……ありがとうございます」


 彼女は丁寧に両手を合わせてから、ゆっくりとスープを飲んだ。


「おいしい」

「それは良かった」


 どこかぼんやりした彼女の、人間らしい表情を初めて見たような気がする。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はフィン。お前は?」

「リア。リア・クラークです」

「クラーク嬢」

「リアと呼び捨てていただいて構いません。私は居候の身です。多分なお気遣いは無用です」


 自己紹介をする際に、軽く礼をする仕草。平民ではまず見ない優雅な動きに、彼女は上流階級の人間であることがよくわかった。


 ――気遣い無用っつったって、この田舎暮らしにいつまで耐えられるのか


 この先を少しだけ心配しながら、フィンは自分で作った昼食を平らげた。







リア:主人公。ブラック企業&クソ義実家(違)での洗脳により判断力が薄れている。頑張り屋なところがあだになっている。美人だが色合いがやや地味な母と、色合いは華やかだが顔が地味な父親のいいとこ取りをしている。姉が二人、兄が一人の末っ子。面食い。


フィン:ヒーロー。長身で美しく繊細そうな見た目に反し、中身はガラが悪いけど気のいい兄ちゃん。着痩せしてるだけで、筋肉はある。料理上手。小柄でくっそ美人な母親と長身ゴリマッチョの父親のいいとこ取りをしている。柔らかい肉よりやや硬めの肉の方が食べ応えがあって好きなタイプ。


聖獣:もふもふ

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