第25話 みんなで勉強会
窓の外では午後の光が街をやわらかく包んでいた。
カフェラテの泡がゆっくり消えていく音さえ聞こえそうなほど穏やかな時間だった。
「うわ〜、もう眠くなってきた〜!」
「開始十五分でそれ言うの梨沙だけだよ」
「だって静かすぎるんだもん〜。誰かなんか喋って!」
「梨沙、集中力なさすぎ」
「いつものことだよね」
あたしの隣では佑磨くんがノートを閉じて、あたしのプリントをちらっと覗き込む。
「……それ公式間違ってるぞ」
「え、うそ!? ちゃんとノート見たのに!」
「sinとcos逆になってる」
「もうややこしいんだもん〜!」
「言い訳すんな。はい、ここをこうすれば解ける」
佑磨くんがシャーペンで軽く指し示す。
その横顔が真剣で、やっぱり大人びて見える。
「……ありがと。佑磨くんってこういうの得意だよね」
「まあ、教えるのは苦手じゃないかな」
「是枝先生〜!私にも教えてくださーい!」
どこからともなく飛んできた美羽の声にみんなが笑う。
その様子にあたしもつられて笑った。
勉強よりもこうして笑ってる時間の方がずっと楽しい。
「ちょっと休憩しよ〜! 頭使いすぎた!」
「まだ一時間も経ってないよ」
「一時間も集中したんだから十分でしょ〜」
柚菜の一言で張り詰めていた空気がゆるむ。
みんなが教科書やノートを閉じ、紙の音が重なっていく。
「じゃあスイーツ頼む?」
「もちろん!」
「陽菜さーん!ケーキ追加で!」
「青春ってほんといいよね。あー、私も彼氏欲しい」
陽菜さんはそう笑いながら、注文を取りに来る。
「青春って言葉を陽菜さんが言うと説得力あるな」
「わかる〜!なんかドラマの先生っぽい」
「先生役って言われる年齢じゃまだないんだけど!」
笑い声が返ってきて、店内の空気がさらに明るくなる。
フォークを手にした美桜がふと思い出したように言った。
「ねぇ、せっかくだし恋バナしよ」
「出た〜!また始まった」
「勉強会がいつの間に恋愛相談会になるやつ」
梨沙が勢いよく手を挙げる。
「はい!私はね〜。ちゃんとツッコミできる人!」
「お前の相手するのめっちゃ苦労するやん」
「うるさ!」
「でも確かにボケっぱなしだと疲れるよね」
藤井くんが頷くと舞が共感して笑った。
自然と順番が回ってきて、視線があたしに集まる。
「瑠奈は?どんな人がタイプ?」
フォークを止めて、ケーキの端をつつく。
甘い香りが立ちのぼって、少しだけ笑った。
「……うーん。分かんないかも」
「え〜!」
「分かる〜。好きなタイプ答えるのって一番難しいよね」
あたしの好きなタイプ……か。
思い返せば、今まで付き合った人たちはみんな優しかった……と思う。
ほんとにそれだけだった気もする。
ーーどの恋も好きっていう感情はそこにはなくて、いつも相手に合わせてた気がする。
ただ告白されて、いい人そうだったから付き合う。ただ今は流されるような恋愛はしたくないと思ってしまう。
フォークの先でケーキを割りながら甘さが少しだけ胸に沁みた。
みんなの笑い声の中でふと窓の外を見た。
青空が眩しいのにまだ少し寒かった。




