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透明な彼と真っ黒な彼女  作者: 栖川 葵依
第2章 恋のきらめき
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第26話 お誕生日会

「瑠奈!お誕生日おめでとー!!!」


 梨沙がクラッカーを鳴らすと、乾いた破裂音のあとに紙のリボンがひらひらと舞って、光を受けてキラキラと輝いている。

 梨沙の笑顔が太陽みたいに眩しくてあたしは一瞬、何も言えなくなる。


「ありがと〜!びっくりした。いきなりすぎ!」

「これぐらい派手じゃないと誕生日感出ないでしょ!」

「ほんと梨沙ってそういうとこ全力だよね」


 紗月が呆れたように笑いながらテーブルの上にドリンクを並べる。

 氷がカランと鳴る音がして、ストローの先に揺れるハート型のチャームが微かに光る。


「サプライズ成功だね」

「いや、入ってくるタイミング完璧すぎ」


 舞がその隣でクラッカーの紙を拾いながら笑い、藤井くんが手を叩きながら言う。


 峰島くんは後ろのソファに体を預け、苦笑いを浮かべた。


「梨沙、演出派手すぎだって」

「動画撮っとけばよかった〜」

「あとで渡そ」


 佑磨くんは少し離れた奥の席からその光景を見ていた。

 クラッカーの紙くずが肩に落ちても気にせず、ただ静かに笑っていた。


「……良かったな」


 彼の声が音楽の合間にふっと混ざった。


「瑠奈。17歳おめでとう」

「ありがと」


 美桜は小さく拍手をして、柔らかく微笑む。彼女の穏やかな声がBGMの合間を縫うように静かに響く。


 あたしは思わず頬が熱くなる。

 テーブルにはポテトやチキン、カラフルなドリンクが並んでいて、その並びがまるで小さなパーティー会場みたい。


 画面にはHappy Birthday!!の文字が点滅していて、梨沙がこっそり事前に予約してくれてたんだろう。

 リモコンを握る梨沙の指先がちょっと得意げに見えた。


「じゃあまずは恒例の歌ね!」

「トップバッター誰〜?」

「もちろん主役の瑠奈でしょ!」

「えっ、いきなり!?無理無理!」

「いいから歌え〜!」


 マイクを手にした瞬間、笑いが止まらない。


 画面には最近流行りのバラード曲。

 イントロが流れると、梨沙たちが「きゃー!」と盛り上がる。


 舞がリズムに合わせて手拍子をした。

 藤井くんもそれに合わせて、テーブルを軽く叩く。


「動画撮るね〜」

「あ、あたしも」


 美羽が慌ててカメラを向け、柚菜がスマホを横に構えて笑う。まったくこの2人は。後で見せてね。


「音外したら拡散な」


 峰島くんが茶化すようにそう言うと梨沙に肩を叩かれていた。


「うるさい!静かに聴け〜!」


 梨沙の一喝にみんなが笑い、部屋のざわめきが少し落ち着く。

 佑磨くんはソファの背にもたれ、マイクを握るあたしをじっと見ていた。

 視線が合った気がして息が少し詰まる。


 イントロが終わり、声が震えそうになりながらも思い切って歌い始めた。


 最初の一節を歌うと空気が少しだけ静まった。

 友達たちの視線がまっすぐこちらに向けられて、マイクの先にある世界が少しだけ柔らかく見えた。


「……やっぱ瑠奈って声きれいだよね」

「わかる。聴いてると落ち着く〜」


 紗月と梨沙の言葉がくすぐったい。


「最高〜!」

「採点いこ!」


 みんなが騒ぐ声の中、あたしは息を吐いて、マイクをテーブルに置いた。


 スコアは91点。

 画面に出た数字を見て、梨沙が両手を挙げて叫ぶ。


「やるじゃん!」

「さすが主役」

「点数高すぎてズルい」

「そういう峰島くんこそあたしより高いじゃん」


 峰島くんにそう軽口を返しながらも、みんなに褒められてるのがくすぐったくて。だけどそれが嬉しくて。


「動画ちゃんと撮れた」

「変な顔してなかったら見せてね」


 笑いながら言った自分の声が思っていたよりも柔らかくて。


「次、紗月ね!」


 笑い声と音楽が交錯して、テーブルの上のドリンクが光を受けて小さく揺れる。

 隅の方で佑磨くんがコップを片手に静かに微笑んでいた。

 その笑みがふと目に入って、少しだけざわめく。


 紗月がマイクを置いた瞬間、拍手と笑い声が一斉に弾けた。

 カラオケの採点画面には「96点!」の文字。


「はい、優勝〜!!」


 みんなの笑い声が響く中、テーブルの上にはケーキとプレゼントの紙袋が並んでいた。


 ケーキの上のロウソクに火が灯されて、小さな炎がゆらゆら揺れる。

 その光を見ているとほんの一瞬だけ時間が止まったみたいに感じた。


「おめでとう!」という声の中で、あたしだけが少し違う場所に立っているような不思議な感覚。でも、それでも嬉しくてちゃんと笑おうって思った。


「じゃあ改めて、瑠奈〜!お誕生日おめでとーっ!!!」


 梨沙が音頭を取って、紗月達が一斉に拍手する。

 クラッカーの音が弾けて、カラフルなリボンがふわっと宙に舞った。


「ありがと……もうみんな大げさだよ〜!」

「いいの!主役なんだから大げさでちょうどいいのっ!」


 梨沙が紙袋を取り出して、どや顔で差し出す。


「はい!Duorの新作マスカラ〜!超入手困難だったんだからね?」

「えっ、Duor!?これ限定のやつじゃん……!」

「でしょ!泣いて喜んでいいやつ!」

「ありがと……ほんと嬉しい」


 梨沙が得意げにウインクする。

 隣では紗月がアイロンの箱を持って笑っていた。


「私は実用性重視〜。寝癖も一瞬で直せるやつ」

「さすが紗月……朝の救世主だわ」

「でしょー!」

「私は香り付きキャンドル。夜に灯すと落ち着くよ」


 美桜が差し出した箱は淡いピンクの包装紙に包まれていて、リボンを解いた瞬間、ふわっと優しい香りが広がる。


 優しい匂いが部屋に広がって。

 その香りを吸い込んだ瞬間。

 どこか懐かしい気持ちになって。

 少しだけ涙が出そうになった。

 でも、ここでは泣いちゃいけない気がして、あたしは笑って「ありがとう」と言った。


「これ……いい匂い。美桜っぽいね」

「でしょ。気持ちが沈んだ時におすすめ」

「ありがとう、ほんとに」


 美羽はフォトジェニックな見た目のコスメを手渡して笑う。


「リップグロス。ちょっと大人っぽいやつ」

「ありがと〜。可愛い色!」


 柚菜はプレゼントの袋をそっと差し出してきた。


「これ、選ぶの迷ったけど……香水。柑橘っぽいやつが瑠奈っぽいなって思って」

「柚菜ありがと!嬉しい」


 そして最後に男子たちの番。

 峰島くんが無造作に差し出した文房具セットには「シンプル・イズ・ベスト!」の文字が手書きで添えられていた。


 藤井くんはまだ袋を持ったまま、「いや、まだ途中なんだよプレゼント選び……!」と焦っていた。


 そのあと、あたしの前に小さな箱が差し出される。

 渡してきたのは佑磨くん。


「これ……そのあんま特別なもんじゃないけど」

「え、ありがと。開けていい?」

「……いいよ」


 箱を開けると、中には淡いベージュのポーチと小さなヘアアクセサリー。

 リボンの部分にほんのりゴールドが差し込まれていて、光が当たるたびに柔らかくきらめく。


「……かわいい」

「その色、瑠奈っぽいなって思って」


 佑磨くんの声はいつもより少し低くて、くすぐったくなる。


「ありがと。すっごく嬉しい」

「よかった」


 彼が照れたように笑った瞬間、あたしの心の中に小さな音が鳴った気がした。


 手の中のポーチは小さいのに、どうしてこんなに心が満たされるんだろう。

 誰かの優しさをもらうって、こんなにも静かであたたかいものなんだ。


 そのあとも笑い声は止まらなかった。

 けれど、どれだけ笑ってもあのポーチの光だけはずっと焼き付いてた。


 カラオケの余韻を残したまま、梨沙が勢いよくプリクラ機の前に駆け込んだ。


「はいみんなーっ!帰る前にプリ!誕生日の記録残そ!」

「出た!梨沙恒例の締めプリ!」

「でも今日は誕生日スペシャルだし、いいかも」


 光るピンクの背景の前で、女子組がいっせいに並ぶ。

 中央にあたし、右に梨沙と美桜、左に紗月と美羽。


「せーのっ!」の掛け声で、全員がハートポーズを作った。


「はいチーズ!」


 パシャッと光って、画面にHappy Birthday Runa!の文字が踊る。


「次はジャンプいこ!」

「待って、スカート気をつけてよー!」

「3、2、1!」


 跳ねた瞬間、梨沙の髪がふわりと舞って、落書き用の紙吹雪が画面いっぱいに散る。


「やばっ!完璧すぎじゃん!」

「青春感えぐい!」


 一瞬のフラッシュの中で笑ってるみんなの顔がどこまでも眩しくて。

 あたしはその真ん中で、今この瞬間を覚えておきたいって、ふと思った。


 3枚目は梨沙とツーショ。

 ケーキを持った梨沙がろうそくを掲げて、あたしが息を吹く瞬間にパシャとなる。


 画面にピンクのバルーンがふわふわ浮かんで、#BirthdayGirlの落書きが弾む。


「次、男子入ろー!」

「え、俺らも!?」

「当然でしょ〜!友情出演!」


 藤井くんと峰島くん、そして佑磨くんが照れくさそうに前へ出る。

 全員でピースしながらハートサングラスを掛けて、モニター越しに笑いが弾けた。


 5枚目――あたしと佑磨くんが横並び。

 後ろでは梨沙たちがポーズを決めていて、佑磨くんが少しだけ身体を傾けた拍子に肩がかすかに触れた。


 その瞬間、時間が一瞬だけ止まる。

 モニターに映る自分の笑顔が少しだけ赤く見えた。


 ほんの少しだけ熱くなって息を吸うのも忘れる。


 6枚目は男子だけの男子会なうポーズ。

 峰島くんが変顔をして、藤井くんが吹き出す。


「うわ、これ絶対バカっぽいけど最高!」


「#わたしたち最強」って文字が追加されて、画面が賑やかに彩られる。


 最後の2枚は全員で真顔と爆笑ショット。そして――ラストはわちゃわちゃハグ。


 梨沙が勢いよくあたしに抱きつき、紗月と美桜も加わって、全員が一塊になる。


「みんな潰れるって〜!」

「いいから!これが青春なのっ!」


 ピンクの背景に星ラメとクラウンのフレーム。

 画面の下には#るなBD、笑顔最強、青春って感じの文字。


 そのどれもが今日という日のキラキラを閉じ込めていた。

 そして画面の隅で笑う自分を見ながら、あたし。今ちゃんと幸せなんだって、ほんの少しだけ思った。

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