50話 前夜
「よし、荷造り終わり」
明日はついに修学旅行。
荷造りを数日前からダラダラやっていたけど、ようやく終わった。
積み重ねで終わらせたというより、結局今日、荷造りの構想を全部とっかえて、1からやり直してしまった。
お土産を買って帰れる用に、スーツケースの中の3分の1は隙間をあけておく。
行くときは丁寧に衣類を入れる分、スペースができるけど、帰りは雑にいれがちで荷物をすべて入れられなくなる、みたいな話があるし。
念のためトランプとUNOを持っていくか。
でも一緒に行く相手がなぁ。
・・・・・・・
慶太君たちとトランプをやる絵は全く浮かばないけど、変なバイアスがあって楽しめなかったらそれはそれで、僕が悪いよな。
夏希はやはり心配なのか今日、やんわり欠席するのも一つの手だと一度伝えられたが、何というかここで休んだら負けな気がする。
「彼らのせいで修学旅行を休んだ」という汚点が一生人生に付きまとう気がして。
こうやってポジティブに考えられるようになったのは夏希のおかげだ。
夏希にそう伝えると、少し嬉しそうにしながらも、やはり最後まで少し心配そうだった。
夏希は面倒見が良いと思っていたけど、実はかなり心配性なんじゃないかと思ってきた。
これも新しく見れた一面かな。
僕がそれだけ心配をかけているだけかもしれないけど。はは。
時計を見ると、もう寝る時間直前。
晩御飯を食べてからずっと自室にこもり切りだったし、凛花がいる居間に行くことにする。
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凛花は洗濯物を畳み終えたようで、ふわっと僕が座っているソファの横に腰かけた。
長い髪から、香水なども付けていないだろうに、華のような匂いがする。
「お疲れ様。いつもありがとう。でも僕も自分の分は自分でたたむよ」
「お気遣いありがとうございます。ですが私が好きでしているんです。兄さんのお手を煩わせません」
何というか財布だけ出す振りをして、食事を奢ってもらう、みたいなやりとりになってしまった。
凛花は最近、洗濯を念入りにするようになった気がする。
元々こうだったのが、僕が目についているだけなのかな?
部活で墨はつかないようかなり気を付けてるけど、知らない部分でついていたりするのだろうか。
「明日から修学旅行ですね」
「うん、2泊3日。寂しい?」
「はい、兄さんも私と会えなくて寂しいですか?」
こういう凛花の返答の仕方は、何か新鮮な感じがした。
「勿論。お土産買ってくるからね」
「楽しみにしています。私の事、決して忘れないでください」
凛花がお互いの二の腕が当たるくらい、くっついて座る。
「はは、うん。当たり前だよ」
頭を撫でる。
そうすると凛花は、頭を僕の肩に預けた。
「私もついていきましょうか?」
「え?」
頭を僕の肩に預けて喋るので、凛花の綺麗な声が耳元でした。
「それか、体調不良になれば、行かなくても済みますよ。学校へのご連絡が気まずいという事であれば、私が代理で行います」
「・・・・」
本当に寂しいのだろう。
それこそ、部活では揉めたけど、基本学校行事などでサボりを推奨された事は無いので少し驚いてしまう。
「凛花は甘えん坊だな」
「はい、甘えている未熟者です」
両腕で僕の片腕に巻き付いてくる。
凛花の身体の形が分かるくらい、片腕に身体が密着していた。
最近凛花のボディタッチが少し激しくなった気がする。
僕が彼女を作ったり、兄離れを提案したりで不安なんだろうな。
兄離れとは、ほど遠いように思えるかもしれないが、部活と彼女を許してくれたのだから、多少はトレードオフだと思って何も言わない。
あと、何というか、昔は凛花は細いなという印象だったが、すっかり女性らしい身体つきになったなと失礼な事を、ここまで身体が密着していると考えてしまう。
「兄さん?」
バレたか。
「ん?何でもないよ」
・・・実は少しだけ身体がビクッとしたのを我慢していた。恐怖で。
前に凛花を怒らせてケガをしてから、身体が条件反射で凛花に怖がる事が、しばしばあった。
当然だが、心はそんな事はない。
あれは、僕が悪いからああなった訳で、凛花は悪くないから。
「兄さんはここに帰ってきますし、今後もきっとこういう事はあるはずですから、我慢いたします」
「今後?修学旅行はもうないから大丈夫だよ。次は凛花が修学旅行の時かな」
「・・・待つのが得意になるように努力しています」
「努力なら十分してるじゃん。この前の高校受験の模擬試験も学年一位だったんでしょ?」
「はい。私は私の幸せのために、山を登っています」
「山?」
何の話をしているんだ?
凛花にそんな趣味あったっけ?
「・・・・兄さんは以前おっしゃられた事があります。人生には山があり、谷があると」
「え、あー・・・・」
昔そんな話をした事がある気がする。
人生は山があり谷がある。
だから、自分から山に登れば、残りは谷が来るはずだから努力するんだと偉そうに講釈を垂れていたような。
はは、当時僕は中学生だったかな。
今思うとすごい偉そうだ。
どの口で言ってるんだか。
「兄さんにとって、今は山ですか?谷ですか?」
凛花が僕の肩に預けていた頭を持ち上げて意味深な事を聞いてくる。
「山か谷かって、うーん・・・・山に登れていると思う。前進しているから」
うん、間違いなく山を登れているはずだ。
夏希と付き合って、クラスでもはっきり主張できるようになって嫌がらせも減って、凛花の負担がなくなるように、兄離れの提案もできて、了承もしてもらって。
変化は確実にある。
良い方向に。
「そうですか」
凛花はまた僕の肩に頭を預けた。
どうして、その質問をしたのかはあえて聞かなかった。
「では、私も僭越ながらに兄さんに負けないよう登り続けます。谷に進むと、必ず罰が待っていると、これまでの人生という経験から私も学びましたから」
そう、耳元で言われた。
その「罰」という言葉に、身体だけではなく心も一瞬、どうしようもなく震えてしまったのは、なぜだろうか。




