28話 立ち話
「斉藤さん。お久しぶりです」
先に声をかけたのは凛花。
会った時点で茜と目があっていたが、普段学校で口を効かないの分、
僕はすぐに挨拶の言葉が出てこなかった。
「おはよ、凛夜と一緒なんだ。相変わらずだね」
「はい、至らない身ですが二人で共同して生活させていただいております。斉藤さんも、いつでも遊びにいらしてください」
凛花は相変わらず礼儀正しいなぁ。
「相変わらず丁寧だね凛花ちゃんは」
チラッと茜から目線を送られる。
凛花が私服で歩いている理由を聞かれているのか、助け舟を求められているのかはわからないが、兎に角何か言えという事だろうか。
「今日は凛花の学校が休みで一度実家に帰るから駅まで送ってるんだ」
う〜ん。
にしても同級生に家族といる姿を見られるというのは恥ずかしい。
しかも見られたのが茜だし。
「兄さんとは2年の今でも同じクラスなんですよね?」
「うん、よく知ってるね凛夜から聞いたの?」
「はい」
茜の話なんか家で殆どしないし、話したとしても多分だいぶ前だと思う。
凛花は一度言った事や会った人の事を絶対忘れない。
僕が忘れているのに、僕の小学生の時のクラスメイトの名前を言い当てた事があった。
何でも僕の卒業アルバムを一緒に見た時に全員の名前を覚えたとの事だ。
「いつも兄さんがお世話になっているので当然です。いつか挨拶したいと考えていました」
ぺこりと凛花がお辞儀をする。
凛花は自分のことを協調性がないとか言うけど、僕は全然そうは思わない。
久々にあった歳上にここまできちんと挨拶できる高校一年生が何人いるだろう。
「ううん、お世話だなんて。凛花ちゃんは実家に帰るんだね。いつまで?」
お世話か・・・・
学校では口も効かない所か、僕にも聞こえるくらい陰口を言われているけどね。
まぁ知らず知らずのうちにみんなに不快な思いをさせてるみたいな、
僕に原因がある可能性も十分にあるけども。
「私は家族に用があって一度帰ります。と言っても今日の夜には帰りますが」
頼むから何故日帰りなのかの理由は言わないで欲しい。
僕の生活能力の低さを茜にばらさないでくれ。
「そうなんだ。凛花ちゃんって、この近くの高校通ってるから凛夜の家にいるんだよね?凄いね、あそこ名門で有名な所なのに」
「斉藤さんの通われてる高校も賢いで有名ではないですか」
凛花が微笑みながら言う。
家族ながら上品で、老若男女誰が見ても好意を抱いてしまうような柔らかい表情。
まぁ家で僕に向かってするような表情ではないけど。
何が違うのかと言われると、具体的には言えないが家での凛花にはもっと暖かみを感じる。
ただ、僕にこの表情を向けられる事が全くない訳ではない。
大体怒っている時はこんな感じで笑っているからね。
ついこの前の部活の時とかもそうだった。
「賢いだって凛夜」
「凛花と比べられてもね」
不思議な感じ。
最近は殆ど茜とコミュニケーションは取らないのに、凛花を通してだと昔に戻ったように会話ができる。
でも流れている空気感は家で凛花と過ごしている時間や、高校一年まで茜と過ごしている時間とも違った。
例えるなら、う〜ん・・・・
試験の問題用紙が配られて裏側にしたまま待っている時のようなそんな空気感。
ピリピリしている訳ではないけど若干の緊張感がある。
シンプルにお互いがまだ親しくないからこその空気感なのかもしれない。
茜と凛花って何やかんや顔を合わせたのは2、3回のはずだし。
「兄さんは賢いですよ。私の知らない事を沢山教えてくれます。とても尊敬しお慕い申しております」
僕の方をまっすぐ見て凛花が言う。
う、茜がいるこのタイミングで甘えてくるのか。
凛花は僕を過大に評価している節があるが、それを外で大ぴらにして言うのはやめてほしい。
恥ずかしいのでこの流れは早急に軌道変更したい。
「はは、相変わらず大袈裟だな凛花は。そ、それより茜と凛花は久々だよね。茜、凛花は高校生になってぐっと大人っぽくなったと思わない?」
「そうだね。背は私より引くけど年上みたい」
ばったり会った時はどうなるかと思ったが、
思ったよりも平和な会話がされていて良かった。
まさか僕にキツく当たるように凛花にも接するかもと思ったが、それは杞憂だったようだ。
「私はお化粧も苦手ですし、まだまだ未熟者です。斉藤さんはお化粧をされているようですので今度ご指導していただければ嬉しいです」
凛花は自分を人見知りというが、僕なんかよりよっぽど社交的だよな。
僕が知り合って間もない年上相手にここまでコミュニケーション取れる自身がないし。
「私も人に教えられるほど上手くはないかなぁ。ていうか凛花ちゃん大人っぽいんだから化粧したら老けちゃうんじゃない?」
ん?