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鉄塊チートの異世界ジャーニー  作者: くえお
第一部  鉄の勇者のサバイバル
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第5話 『スキルって良いよね』

浜辺の岩陰に隠れつつ、本を必死で読む俺。周囲は波の音と風の音だけ。遠くから獣の遠吠えが時折聞こえる。

警戒を怠らず、汗をかきながら、必死に本に縋り付く。


日差しは真上から差し、肌を焦がしてくる。真夏の気候だ。暑い。


汗をぬぐいつつ、知識の本でさっきの記述で気になった”心象スキル”を調べてみる。


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心象スキル

 経験や行動を通じて、強く願う事で変化するスキル体系。魔術系のスキルに多い。特に物質化を伴う事象の再現は、個人の知識や経験が反映されるため、イメージにより形状が大きく異なる。例えば同じアイスジャベリンでも、複数発動するもの、巨大なつららが発動するもの、早いもの、極端に硬いものと言ったように、個人間での差異、また同一人物であっても年代や心身状態により異なることが確認されている。

心象スキルはスキルの成長のみならず関連する事象をより観察し、より接する事で、パワーが増すと言われている。

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他にもいくつか調べてみる。


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スキル分類

 スキルは、劣等レッサー通常コモン希少レア伝説級レジェンダリー神話級ミシックの5段階。 そして、全く異なる体系の独自オリジナルがある。

 一番多い発現スキルはコモン。コモンを基準に、それぞれ一つ位が異なるごとに確率的に1/100前後の倍率になるとされる研究がある。スキルはほぼ全員が持つが、レアスキルは1万人に1人、レジェンダリーは100万人に一人、ミシックともなれば1億人に1人という確率である。

オリジナルスキルは、1万人に1人くらいの確率で現れるが、当たり外れが大きく、体系化されないため、研究もあまり発達していない。そのため、オリジナルスキルホルダーは、独力でスキルの成長を試す必要があるとされる。

レッサーのスキルは逆に少なく、1/1000人程度に発現する。レッサーとスキルレス(スキル非保有者)は、差別の対象になることが多い。スキルレスの割合もレッサーと同様、コモンの1/1000人程度。

スキルは大きく区別して、単独スキルか総合スキルかに分かれる。例えば身体強化は単独で発動するスキルである。効果が単一の種類でそれ以外は用途がない。総合はいくつかのアーツを使え、それぞれが単一スキルのような働きをする。例えば水魔法には攻撃魔法と、身体強化魔法があるため、表記は総合 魔補となる。表記される分類略語については聖:聖属性効果 魔:魔法効果 死:死属性効果 武:武力効果 補:補助強化弱体効果 特:それ以外の効果 の6つに分類される。

ちなみに身体強化は、単一 武 と表記される。

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アーツ

 スキルに属する単体スキルの総称。水魔法に対するアイスジャベリンがこれに相当する。総合スキルの場合複数のアーツを習得し、それらアーツの種類により分類がなされる。

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錬成

土属性魔法や金属加工魔法で発現するアーツ。金属を熱することなく常温のまま形を変えることができる。一般的に錬成できる金属の量は、魔力量に比例するとされる。また魔法的に希少な金属になるほど、錬成が難しいとされる。なお、鉄の錬成が基本とされ、鉄の錬成ができれば一般的な錬成士として認められるのがこの世界の常識である。

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立て続けに調べ、大体は理解できた。

なるほど、スキルのことが少しわかった。

俺は、鉄に特化した錬成を行えるようで、精錬と錬成を使えばスキルが強くなるようだ。

身体特化も鍛える方が良いと女神が手紙で言っていたな。


ならばまずは意識しよう。生き残るためにスキルは必須。

身体強化は常時使えるように鍛え上げる。

鉄を錬成し武器にする。

そこから始めよう。


俺は早速息巻いて、身体強化スキルを全力で発動した!


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!ゼエゼエ、ぜえええ!!!


 一定時間、連続して身体強化を行うと、息ができないほど苦しくなってきた!!


最初はみなぎる力を感じてスクワットとジョギングを繰り返していたが、突然電池が切れたように、まるで全身を筋肉痛で覆われるような苦しさが襲ってきた。


俺は浜辺でうずくまり、必死の思いで岩陰に隠れた。うずくまりえづく。吐きそうだ。


これが身体強化切れか・・・。


あ、あと、なんかMP的なものを消費している気がする。精神的にものすごく疲れていた。

やる気が突然なくなって、胃が痛くなってきた。ネガティブな思考がちらついて、死にたくなるまではいかないが、死に別れた子供のこと、日本のこと、地球のこと、死んだ嫁のこと、会社のことなど後ろ向きの感情が襲ってきた。

あ、これあかんやつや、と思い、吐き気を我慢しつつ横になることにした。


幸い岩場は安全なようだ。

大失敗した。これほど急激に疲れるとは・・・。やばい、意識を保てない。

ちょっとウトウトした・・・。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あづうううううう!!!!

首筋に激痛を感じて飛び起きた。


首筋を反射的に払う。手に硬いものが当たり、大慌てでそれを投げ捨てた。

周囲を見渡すとカニのハサミを持ったような黒いフナムシが俺の周りに集まっていた。

こいつが噛んだのか? 首筋から血が止まらない。

怒りよりも恐怖に駆られ、咄嗟に鉄の塊を持って、フナムシどもに叩きつけた。ブチという音を立ててフナムシが潰れる。

日が沈みかけ、真っ赤に染まった空のもと、狂ったようにフナムシを潰す。


っふううう


深く息をついた時には、手と鉄の塊は血まみれだった。フナムシの血なのか、自分の血なのかは、鈍った感覚では分からなかった。


何度か大きく呼吸をして気持ちを落ち着ける。


冷静になって改めて考えてみると、ものすごくお腹が減っていた。

おそらく身体強化による魔力切れの影響だろう。あとは若返った体の影響か。


とにかくも、異世界で食い物をどうするのか。あてがない。


フナムシを見て、つい「食えるかも」と思ってしまった。

すんごく腹が減っている。身体強化の悪影響を再度確認した。


見た目に躊躇する。黒い甲殻類。でかいダンゴムシのような見た目。足がうじゃうじゃしている。

毒があるかもしれない。変な寄生虫がいるかもしれない。


ひとまず「知識の書で」調べよう。まずはそれからだ。


食欲と理性の狭間で葛藤しつつ、俺は立ち上がり、波打ち際で屈んだ。

血まみれの手、そして鉄を一旦海水で洗い流した。

岩場に戻り、本を手に取り、フナムシと言った。


しかし俺の期待とは裏腹に、本を開いても白紙のまま・・・。

思い出した。

そういえば物の名前が「鑑定」でわかるとか手紙に書いてあったな。


どうやって鑑定を使うかわからないものの、とりあえず、目を凝らして、フナムシを凝視してみた。


そして「鑑定」と頭の中で念じたら、おお、成功した。

空中に文字が浮かんだ。日本語だ。カタカナである。


”アンジムニス・カニカスタス”


名前がなげえ・・・。


気を取り直し、その名前を唱えページを開いたら、今度は、ちゃんと記載が新しく浮かび上がっていた。


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アンジムニスカニカスタス


甲殻類 通称クロフナムシ 食用可 危険度G

磯部に生息する雑食の生物。死体などを食べる。戦闘力はほぼ無いが、大量に襲ってくれば気持ち悪い。硬い爪を持ち、それ以外はソフトシェルで覆われている。

異世界人に言わせると、シャコのような味がするらしい。

生でも食べることができるが、見た目はグロい。茹でると赤くなる。

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やっぱフナムシじゃねえか。食用可とはっきり書いてある!

腹が減っていた俺は、夢中でむしゃぶりついた。


食べながら、体の中からMPが戻る感触がした。


こいつ!!!

MPポーションだわ!!!


こうして、食糧問題は(見た目以外は)少し解決した。フナムシ食べてれば、最悪飢え死にはなさそうだ。よかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


日が陰り、あたりがどんどん暗くなっていく。


空を見上げてみる。空がうっすらと赤く染まり始めていた。太陽が水平線に落ちていっている。地球と同じように自転していることが分かる。

だが、空にはうっすらとかげる月が2つ見えた。やや赤みがかった大きめの月と、それよりやや小さい青い月。月が二つ並んで浮かんでいる。どちらも満月に近い形だった。


やはり異世界の空だ。

大地であるこの惑星は、地球と同じような動きをしているのだろうか。自転はしているだろうが、公転までは分からない。

影が長くなりつつあり、日が赤く陰ってきた。


さてどうしたものか。夜が迫っている。

俺は選択に迫られている。

岩場は安全なものの、ここで寝ればまたフナムシに齧られるだろうし、今は安全なだけで、夜になれば、さらなる危険も増す可能性がある。しばらく忘れていたが、さっきのトカゲもまた追いかけてくるかもしれない。砂場に来ないという理由は思いつかない。それにさっき見た巨大な鎧みたいな魚が飛び出してきたらどうしようか。シャチがアザラシを食べるように、浜辺に突っ込んで来ないという保証はない。


さてどうしたものか。だが、移動するにも心許ない・・・。


そうだ!

せっかくMPも回復したようだから、まずは武器をなんとかしよう。

身体強化に浮かれている場合じゃなかった。


武器だ、武器を作ろう! 錬成を使え。女神に鉄をもらったじゃないか。

俺にはスキルがあり、鉄が加工できるって知識の書にも書いてあった!


居ても立っても居られず、あぐらをかいて鉄を目の前に抱えて念じてみる。


ぬおおお!!と唸ると、気のせいか鉄が熱を帯びてきたような気がした。


溶ける、というイメージが突然湧いてきた。

すると、まるで鉄が水銀のようになって砂に流れ出てしまった。

うわっ!!!!と思った瞬間、手から離れた鉄はまるでミルククラウンのような形で固まった。

加減ができず水銀のように溶けてしまったのだ。


ふう、と深呼吸。


改めて固まった鉄を手にして集中する。昔のことを思い出す。

父親の鉄工所を手伝いだして、すでに20年以上。

鉄に関してはなんでも知っていると自負してきた。純度や硬度、産地による違いなど、鉄に対する造詣は深い。

日本では、熱で溶かした鉄を鋳型に流し込み加工する鋳鉄を生業としてきた。

その経験の全てをつぎ込んで、今、鉄を操ることに集中する。


これは大袈裟でもなく、生き死にが賭かった作業である。失敗すれば生きていくことはできない。


集中集中!


やがて周りの音も聞こえなくなって、うるさかった波の音も、森の木ズレの音も、風の音も、最後には自分の鼓動も聞こえなくなって、鉄が自在に動きだした。

同時に精錬も施すように念じる。俺の念じた通りに、鉄の色が変わっていく。

不純物が取り除かれ、鉄が銀色に輝き出す。銀色の塊が緩やかに溶け出した。


ここから慎重に・・・。


十分な柔らかさで、十分な硬さで。柔らかい粘土くらいの固さ。

イメージは日本刀、イメージは日本刀、硬くしなやかな刀。


頭の中で繰り返すと、鉄がぐにゃりと波打って、次第に細く、長く、切っ先を細く、尖っていく。

先鋭化が足りない!!

もっと鋭く。昔、手にした日本刀を思い出して、その鋭さを。

激しく集中したら、最後に刀が光った気がして、仕上がりを知った。


ふうぅ・・・。大きく息をついて、手の中の刀を空に翳して見る。

青黒く鈍く光る刀身。束も鉄製の一つこしらえ、握り手は適度な小ささの凹凸が滑り止めになっている。イメージ通りの細かな仕上がりだ。


やはり、俺の天性なのだろう。鉄が手に馴染む。


立ち上がり、上段から刀を振ってみた。ずしりとくる重さ。これならば、骨も断ち切れるだろう。

長さ60センチ。適度な長さ。

森では自在に振るえない長さだが、木の幹は無理でも、枝くらいなら打ち払えそうだ。


たとえ刃こぼれしても、錬成を使えば自分で直せるから平気というのが良い。

乱暴に使っても心配ない。うむ。良い武器を手に入れた。

(鉄の量が足りないので)鞘はないけれど。いつか作ろう。


冗談に構えて、何度か振る。

ビュンビュンと風を切る音。


刀を振っていると、無敵になった気がしたが、そんなことは多分無いぜえ・・思い直してちょっと反省。


いかんぞいかん、調子に乗っては。まだ何も好転していない。


武器があるだけで、ここまで余裕が出るとは。うなずき、自戒する。


反省の気持ちが思い浮かぶと、自ずと落ち着いてきた。


日が沈み、周りはどんどん暗くなる。が、まだ辛うじて周りは見える。


よし、やる気も十分。

まだ日のあるうちに寝ぐらを探そう。


忘れそうになりますが、この間、ずっと全裸

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