第1話 突然の来客
「うっし」
今日からひとり暮らしとなる。ウザったい親の束縛から離れて完全に自由だ。
「まぁ、年も歳だしな」
これでも俺はもう23歳の後半だ。大学を1年留年し、就職も少し遅めに内定をもらい、春ではなく夏に就職をした。就職先は実家から片道2時間とかなり遠かった。8月から9月はかなり無理をして実家から勤務した。片道2時間。ここに往路の2時間は早起きをすればいいので多少の無理は効いた。復路の2時間は地獄だった。時には残業で疲れ果てているのに2時間かけて帰るのはきつかった。また定時も他社より遅かったので下手したら週末は残業も関係して終電間近なこともあった。その関係でひとり暮らしをすることになった。
今は11月で米が旨いらしい。引っ越しのダンボールを開封しつつ聞いていたラジオアプリから『ごはんがうまい!』というCMが流れてきた。
「米なんてパックご飯でも炊飯器でも同じなのに……」
ひとり暮らしの始まりは家具の配置決めやカーテンの採寸など始める前にすべきことだった。
「次、別のアパートに住むときは、先に採寸しよう」
厳密には購入していたカーテンは、何も隠せず窓から部屋の内部がご近所さんに丸見えだった。近所のホームセンターで大きめのカーテンに買い替えたのは秋も深まった頃だ。
「繁忙期なのに残業少ないな」
休みのある日に俺は考えていた。繁忙期は毎日終電ギリギリまで仕事と思った。しかし、現実は勤務開始の夏よりもかなり減っている。これは効率よく仕事ができているのかもしれない。
ピンポンとインターホンが鳴り来客を伝えた。
「配達何も頼んでなかったよな……?」
そこにいたの見ず知らずのご老人だった。見た感じ戦時の頃の生まれくらいに見える。
「どうされましたか……?」
もしかしたら、アパートの前の住人の可能性もある。ニコッと笑顔を浮かべた。タイミングというのは不思議なもので俺と老人は同時に笑っていた。
俺の祖父母は物心がつく前には亡くなっていたし、少し思い出があっても3円だけお小遣いをくれたことが祖父にあるくらいだ。そう、俺の人生において老人というものを知らない。
「青年、米食べてるか?」
「お米……ですか?」
米……。
最近食べたのはこの前の日曜日にカーテンを選んだ後にファミレスでハンバーグセットでライスを食べたくらいだ。
「この間、ファミレスで軽く食べましたが、すごく……なんていうか、【炊けばいいんでしょ】と言わんばかりに乱雑な米な感じでした」
「そうか、家ではどうだ?」
「食べてませんね、食べて小腹空いた時にコンビニのおにぎりを食べたくらいですね」
老人はズボンのポケットからスマートフォンを取り出した。いつも触ってるかのように、慣れた手つきでロックを解除しポイ活がメインなのに買い物もできるアプリを開いた。検索欄に【無洗米 5kg】と入力して俺の家の住所と名前を入力して購入ボタンを押していた。
「青年、日本人は米だよ。うまい米を食え」
第2話 炊飯器を買おう




