17 変化した星
◇ ◇ ◇
【太陽系 第3惑星地球】
統一時間4月20日 19時00分。
シグルドの機体内に存在したデータを漁っていたクロウは、機体内に存在した地球に関する記録文書を読み終えると、ため息をつき、データを横へとのけた。
「こんなもの、読んでもな…」
10日ほど前、クロウはオリュンポス恒星系での戦いに参加していた。殲闘騎シグルドの機体に意識だけを取り込まれた彼は、パイロットであるミソラと共に、宇宙怪獣と戦い、そして因縁の相手であるバッタ型との戦闘を行っていた。
だが、敵の攻撃を受けたところで、彼の感覚は一時的にブラックアウトし、視界が復活すると、こんな場所にいたのである。
地球。
そう、地球である。
空や大地は、当時の人類が生存していた頃の記録映像と比べると、全体的に赤黒く変色していた。
それもそのはずで、クロウが今読んでいた資料の通り、地球は200年ほど前に宇宙怪獣の手に落ちた後、やつらによって、環境を変化させられていたのである。
地球の大気組成は、人類の生存に適さないレベルに変貌していた。
だが、クロウは今、その人類が住めなくなった地球にいた。
3時間ほど前、目覚めた当初の彼は、自分が地球にいるという情報を得て、まず自分の目を疑った。その上で、シグルドに破損がないか、確認をした。
機体チェックの結果、視覚にも機体にも異常が起きていないという結果が返ってきた。そもそもクロウは機体と一体化しているため、視覚の検査などは必要なかった。
「しかし…どうなってんだよ。これは」
だが、機体に異常が無いというのは嘘である。
まず、機体の認識番号が変わっている。チェックの結果、この機体はミソラと自分が乗っていたシグルドの初期ロットではなく、シグルドβであるという回答がでてきた。
不自然である。
そして、異常がないと言えない理由の2つ目。それはクロウから見える機体の状態は、まったくと言っていいほど、正常とはほど遠い状態にあるということだった。
それは、クロウが見ることができるコクピットの内部からして、そうであった。コクピットには薄紅色の薄肉のようなものが張り付いていた。肉片には管のようなものが通っており、定期的に脈打っている。
こんなものは、見たことがない。
いや、正確にはここにあるはずがない。
クロウは、このような肉片、赤黒いものを知っていた。
それは宇宙怪獣の肉体。
なによりも、クロウたちが直近戦った、バッタ型、その形態が変化した時の体表にそっくりであった。
「いや…そんなはずはない」
思考が、ある結論を下そうとした所で、クロウは自分の考えを否定した。
「あってたまるかよ…そんなの」
それは、クロウにとっては耐えがたいものであった。
「俺が、宇宙怪獣の一部になってるなんて、あるわけ、ない」
あえて、声に出すことで、否定を強める。
クロウの精神は、そこまでしないと耐えられないほどに、追い詰められていた。
だが、認めても、認めなくとも、彼を取り巻く状況は変わらない。
今、クロウは地球にいる。
宇宙怪獣に支配されたこの惑星に、自分以外の人はいない。
「いや…人がいても、いなくても一緒か…」
今のクロウとコミュニケーションを取れる存在は、この宇宙に1人しかいないのだ。
「ミソラ…ミソラは無事なのか?」
クロウは呟いた。
意識を失う前まで、常に共にいた少女の名前を。
だが、彼のつぶやきは、空気中に発せられることもなく、機体の中を漂う思考粒子を震わせることしかできなかった。
そのことが、さらにクロウの憔悴に拍車を駆ける。
「誰でもいい…話がしたい…」
機体の一部となったクロウは、誰にも自己の存在を伝えることができない。
「誰か、誰かいないのか!」
精一杯叫んだとしても、彼の言葉は、誰にも伝わらない。
「…目ガ覚メタ」
はずだった。
「クロウ・シノサカ、目ガ覚メタ」
それはクロウが死んでから、初めて聞いた。ミソラ以外の者が、自分のことを呼ぶ声であった。
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