プロローグ
■鼓動編 プロローグ
超長距離ワープの開発により、人類の地図は広がり続けていた。
人類はその飽くなき開拓者精神によって居住可能な恒星系を見つけ、そこに人を送り種の勢力を拡大している。そんな彼らの歴史の中で、特別な意味をもつ場所がいくつか存在していた。
中心星団。
それは人類の居住を可能とする恒星系が数多く存在する場所である。この中心星団の発見により人類はその勢力をより一層拡大させることができていた。
銀河連合の首都星ゼウスが存在するオリュンポス星団がその代表例と言えるだろう。そしてオリュンポス星団と同規模の中心星団は現在4つ存在していた。
その1つに銀河連合の第2の拠点である、アスガルズ恒星系を擁するユグドラシル星団であった。
◇ ◇ ◇
【アスガルズ恒星系第一惑星オーディン】
とある神話の主神かつ戦争と死の神の名を冠したこの惑星は、人類にとって首都星ゼウスに続く、重要な拠点であった。
その理由は銀河連合技術研究開発本部という施設の存在によるところが大きい。全宇宙から優秀な頭脳がこの施設に集められ、人類繁栄のための新技術がこの惑星で次々と開発されていたのである。
統一時間4月9日1時00分。
施設内のとある研究所に彼女はいた。
「へぇ、ガイア恒星系にドラゴン型が…それで私にそれを報告してあなたは何がしたいわけ?」
白衣を身にまとった少女は、報告書の冒頭部分を流し読みするとその資料を持って研究室を訪ねた部下にそう問うた。報告を持ってきた男性は、目の前の少女より二回りも年長だったが、少女の態度に萎縮する。
「ドラゴン型には興味はあるけど…この惑星には宇宙怪獣に関する資料なら読み切れないほどあるわ」
「いえ、シグルドがドラゴン型と交戦した初めての記録でしたので、博士のお耳に入れておこうと…」
「あっそ」
興味がないという様子で、彼女は答えた。
「結論はわかりきってる。勝ったんでしょ?」
「はい…」
「当たり前ね、私のシリウスとシグルドが集まればドラゴン型だって撃退できる。そういうコンセプトであれを作ったんだから」
そう言い終えると、少女はこの話は終わりというように報告書を閉じる。
彼女には並行して勧めなければならない研究がいくつもあるのだ、こんな世間話にこれ以上の時間は使いたくなかった。
「あ…いえ」
「なに? 私の言ってること、間違ってる?」
だが、相手はそうでないらしい。
まだ何か言いたそうな年長の部下に対して、少女は不機嫌そうな表情で顔を上げた。
「はい…その、作戦に参加したシグルドは8騎だけなんです。彼らは1隻の迎撃艦と21騎の殲闘騎だけで、ドラゴン型を撃退したのです」
「なんですって!?」
不機嫌そうな表情が一転、驚きに変わる。
少女は再び報告書を広げると、今度はその内容の隅々にまで目を通した。
報告書には迎撃艦シリウスが作戦を開始してから、どのような経緯で戦闘に勝利したのかが書かれていた。
そんな戦闘経過を読み進めるうちに、ある一文が彼女の好奇心を刺激する。
報告書を読み終えた少女は自分の研究の優先度を変更することにした。
「ねえ、あなた」
「は、はい、なんでしょう?」
「しばらくここを留守にするわ。今すぐ高速艇を用意して」
「え、えっと…どちらへいかれるのですか?」
「ゼウスよ。この報告書の内容が本物なら、きっと彼らはゼウスに呼ばれるはずだから。そこで確かめたいことがあるの」
「ぜ、ゼウスまでですか!? そ、それはずいぶんと長旅で…」
「最近組み上がった新型があるでしょ。あれならワープ間隔も短く済むわ、用意して。」
「し、しかしあれは…まだまともな試験もできていないですぞ」
「何言ってるのよ、私が作ったものよ。不具合なんて出るはずない!」
少女――ルーシー・ノイマン博士は、そんな会話をしている間にも、部屋の隅に置いてあったスーツケースを手に取っていた。
彼女が遠出する時に必要な物は、全てこのスーツケースに入っていた。
「それで、高速艇の準備はできた?」
こうなると彼女の心に灯った好奇心の炎は、彼女がその研究対象への興味を失うまで何者にも消すことができない。年長の研究員は、諦めたように首を振るとすぐさま高速艇の手配を始めた。
ルーシーを乗せた開発途中の試作高速艇が惑星オーディンを飛び立ったのは、それから1時間半後のことだった。
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