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銀河のドラゴンスレイヤー  作者: 藍沢洗
【始動編】 第4章 ドラゴン型侵入作戦
33/126

32 ダミーシグルド舞う

 ◇ ◇ ◇


【ガイア恒星系第11惑星近郊 ドラゴン型体内】


 統一時間4月8日10時50分

 ドラゴン型の爆破まで、残すところあと30分となっていた。


 体内に取り残されたミソラとセレナは、ドラゴン型の口…出口へと続く気管の道の入り口の前にいた。

 彼女たちが乗るシグルドの横には、ダミーシグルドがいる。

 下半身を失った機体は推進器を使って、器用に宙に浮いていた。


「それじゃあ…頼んだわよ」


「え?」


「えっと、ダミーシグルドに言ったの」


「ああ、うん。お願いね~!」


 ミソラの言葉に、セレナは頷く。

 セレナは、ミソラがダミーシグルド――元の彼女の愛機に対して人一倍愛着を持っているのだと納得したようだ。

 またミソラはセレナと円滑なコミュニケーションを取るために、あくまでダミーシグルドの操縦は彼女が行っているのだと思わせることにしていた。

 だが、その実態は違う。


 アタシの方はいつでもいい。行って!


 ◇ ◇ ◇


 了解。

 ミソラの言葉を聞いて、クロウはダミーシグルドに意識を集中した。


 クロウの意識が、ダミーシグルドのコクピットシステムへと乗り移る。

 彼の目の前に、赤い肉壁が広がった。

 機体を動かし、気管の道へと突入させる。


 ダミーシグルドは道中に張り巡らされた肉のワイヤーを避けながら、目的地へと向かう。

 その動きはまるで機体の中に熟練のパイロットがいるかのような挙動だった。


 無論、ダミーシグルドにはコクピットはない。

 しかし、クロウは思考をダミーシグルドに集中させることで、パイロットがコクピットの中で実際にシグルドを操縦しているかのような機動を実現することができていた。


 予想通り…赤い肉壁が盛り上がり、鋭く尖った細胞がダミーシグルドに襲いかかる。

 クロウはその攻撃を、危なげなく避けた。

 続いて、視界の先にある肉壁が盛り上がる。クロウはウェポンボックスからレーザーブレードを取り出すと、肉壁へと突き刺した。超高熱の剣先で細胞を焼くことで、槍が放たれる前に攻撃を無力化する。


 攻撃が来ないことを確認したクロウは、再び機体の進路を目的地へと向ける。

 道中では、肉のワイヤーをブレードで斬りつけて、その強度を落とすことも忘れない。


「すごい…!」


 シグルドのコクピットで、セレナが歓声を上げた。

 ミソラは黙って頷いた。それは、彼女が操縦しているように見せる演技ではない。ミソラもクロウの操縦技量に驚いていたのだ。


 ――なによこの動き!? こんな動きをシグルドにさせられるの!?


「そうだよ。良いお手本が目の前にいたからな」


 ミソラの思考を読み取りながら、クロウはそうつぶやく。

 3本の肉の槍が機体に襲いかかるが、クロウは機体の胴体部をひねらせることで攻撃を避けた。


 その動きは、数十分前にミソラが見せた機体操作を、そっくりそのまま模倣したものだった。

 クロウはミソラと共に戦ううちに、彼女の操縦法を身をもって取得していたのだ。


 しかし、いくら技量が上がったとはいえ、彼も無敵というわけではない。


 道を進むにつれ、肉のワイヤーはその数を増し肉の槍による攻撃も激しくなっていた。

 衝撃が機体を襲う。

 機体が攻撃を避けきれずに、左腕が貫かれたのだ。


 クロウは即座に自機の左腕を斬り落とした。

 その一瞬の隙をついて5本の肉の槍が放たれていた。


 そのことを確認するや否や、レーザーブレードを肉の槍に向けて投げつける。

 槍の穂先がブレードの柄を貫いた瞬間、ブレード内のエネルギーが小規模な爆発を起こし、肉の槍を無効化する。その隙に、クロウは体勢を立て直し先へと進んだ。

 そして…ついに気管の道の中心部へとたどり着く。


 これで、条件はクリア。


 ダミーシグルドは動きを止めると。ウェポンボックスから2本目のレーザーブレードを取り出した。

 同時に機体のセンサーが肉壁の隆起を感知する。肉の槍が放たれようとしているのだ。


 だが、クロウはレーザーブレードを逆手に持ち直すと、攻撃がくるよりも早くダミーシグルドの胴体部を突き刺していた。


 ◇ ◇ ◇


 統一時間4月8日11時05分

 レーザーブレードが起爆装置に触れたことにより、ダミーシグルドに設置された爆弾が作動した。

 機体がふくれあがる、それは白熱した光の塊となってドラゴン型の体内を照らした。


 ダミーシグルドに搭載された爆弾は、ドラゴン型にだめ押しの一撃を与えるために用意された予備の兵器であった。だからこそ、それなりの量の爆弾が搭載されている。


 無論、単体で爆発したところで、ドラゴン型の肉壁内部に浸透するほどの威力は持っていない。

 しかし、その表面や道中に張り巡らされた肉のワイヤーや槍を燃やし尽くすには十分な威力を持っていた。

 爆発はドラゴン型の気管全体へと広がった。


 ◇ ◇ ◇


 同時刻。

 気管の道からの炎が吹き上がる。

 すぐさまミソラは、小型偵察機を射出し気管内を確認させる。

 道内に張り巡らされていた肉のワイヤーと槍は炭化し、その機能を失っていた。

 爆発のダメージにより、肉壁も新たな槍が放てる状況ではないようだ。


 ダミーシグルドの自爆による、肉壁の無力化は成功したようだった。


 あとは、時間までにドラゴン型から脱出するだけ…!


 肉壁からの妨害、攻撃の恐れはなくなったが、ゆっくりとこの場から去るわけにはいかない。

 ドラゴン型の体内に仕掛けられた爆弾の起爆まで15分しか残されていないのだ。


 妨害が無い現在、シグルドの速度であれば距離的には十分脱出可能な時間ではある。しかし、気管の道はダメージに苦しむドラゴン型によって道全体がぐねぐねと揺れていた。

 もし、移動途中に壁にぶつかるようなことがあれば、機体が損傷してしまう可能性がある。


 ミソラは、大きく深呼吸した。

 そして、ゆっくりと息を吐き出し終えた後…


「行くよ、シグルド!」


 覚悟を決めて、シグルドを気管の道へと飛び込ませるのであった。


 ◇ ◇ ◇


【ガイア恒星系第11惑星近郊】


 統一時間4月8日11時19分。

 ドラゴン型の熱線の射程外に、6騎の白い殲闘騎が浮かんでいた。

 先に脱出したシグルド部隊の面々である。


 彼らは、ドラゴン型からの脱出を終えると熱線の射程外まで待避し、仲間の帰還を待っていた。


 ミソラとセレナ。

 彼女たちが全速力で出口へと向かっている様子を、シグルドパイロットたちはコクピット内に表示された契機から確認することができてきた。

 ミソラとセレナの現在位置は、首と顔との境界線付近だ。


 はじめは順調に機体を進めていたミソラだったが、出口付近で復活した肉の槍の攻撃を受けているようだった。結果、まだシグルドはドラゴン型の体内から出てこれていない。


「おい! 艦長になんとか頼めねぇのかよ!」


「む、無理だよ…もうあと何分かしたらドラゴン型がホールから出てきちゃうんだよ?」


 焦るアレックスを、ジョセフがなだめる。

 ホールの直径はすでに300メートルに達していた。ドラゴン型の胴体もすでにホールから出てきており、ホールの縁に後ろ脚がかけられている。


「でも、このままだと…あいつらが脱出する前に、爆弾が…!」


 そう、アレックスが叫んだ時だった。

 時計の秒針が0を指した。



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