30 光明
◇ ◇ ◇
【ガイア恒星系第11惑星近郊 ドラゴン型体内】
統一時間4月8日10時35分。
ミソラたちは、ひとまずセレナ騎の廃棄を決め、パイロットの移動を行った。
ミソラ騎のコクピットに、セレナが入ってくる。
「ごめんね、ミソラ」
「もう、何度も謝らないの。必ず生きて帰るって約束したでしょ?」
「…うん、そうだったね」
「狭いけど、母艦に戻るまでは我慢してね」
「うん」
そんな会話をしている2人の前に、コクピット内にホログラムが浮かび上がる。
カンナからの通信だった。
「ミソラ、艦長からの伝言を伝えるわ」
カンナは、簡潔に状況を説明した。
「そう…残り45分で脱出しないといけないのね」
「ええ、11時20分になったら、全ての爆弾が作動する」
「つまり、それまでに気管の道を突破して、出口まで出ないといけないってことかぁ…」
「そういうことになるわね…方法があれば、助けにいきたいのだけれど」
「ありがとう。でも確実な方法がないんだったら、絶対に来ないでね。犠牲を増やしたくはないから」
「わかったわ」
「そういうことだから、アレックスも来ないでね」
「な、なんで俺に話を振るんだよっ!」
「だってアンタのことだから、助けに来そうなもんでしょ?」
「そ、そんなこと…」
言いよどむアレックスを見て、ミソラは苦笑する。
こういう時にまっさきに駆けつけようとする単純さが、アレックスにはあった。
「大丈夫、アレックスのことはジョセフたちが抑えてるから」
「あっ、カンナてめっ! 変なこと言うんじゃねぇ!」
「ふふふっ…」
そんなやりとりを聞き、セレナも笑いはじめた。
「アレックス、アタシたちは大丈夫だから。外で待っていて」
「わかってるよ…帰ってこなかったら承知しねーからな」
「ええ、約束する。じゃ、また後で」
通信が切れた。
「さてと…どうしようかな」
約束するとは言ったものの、状況が悪いことは変わらない。
突破口を見つけられずにいるミソラである。
先ほどカンナから送られてきたデータを元に、思いついた脱出方法をシミュレーションしてみるが、結果はよろしくなかった。
データを見る限り道は狭くなっているが、脱出できないわけではない。だが、不確定要素が多すぎる。
肉のワイヤーは増えている可能性もあるし、新たに攻撃をされた場合、ミソラの反射速度を持ってしてもかわしきることができるか…。
しかも、機体は1騎。もしドラゴン型がミソラのシグルドを集中攻撃してきた場合、回避の難易度はさらに上がることになる。
「セレナも、何か思いついたら教えてね…」
「うん。それじゃあ…」
セレナもいくつかのアイディアをシミュレーターにかけてみるが、そちらも良い結果は返ってこなかった。
「やっぱり、ダメ元で行ってみるしかないのかな…」
結局、危険は承知で脱出を図る方法しか彼女は思いつかなかった。
二人してため息をつく。
アンタに頼るのは、変かも知れないけれど…なにか、ないかしら?
そしてミソラは、シグルドの中にいるかも分からない誰かに、この作戦を提案した誰かに…ついそう聞いてしまうのだった。
◇ ◇ ◇
ミソラの思考を読み取ったクロウは、頭を抱えた。
彼はミソラたちが考えた案のシミュレート結果を1つ残らず確認してもいたので――そもそもミソラからの命令を受けてシミュレーションを実行させたのがクロウだったので、その結果を知っていた。
そして、ミソラが考えた案――危険を承知で気管の道に踏み込む以上に、脱出確率の高い案を思いつかないのである。
でも、これでいいのか?
脱出率を再度確認するクロウである。
セレナ騎を置いていくと決断した結果、先ほど出した計算より脱出難易度は低くなっていた。
2騎で脱出する場合の確率は1パーセント未満だったが、現在の状況…ミソラ騎だけで行くとなった場合の脱出確率40パーセントである。
しかしこれはカンナから送られてきたデータを元に、攻撃を受けなかった場合の数値である。
ミソラが考えていたように、予想外の障害…不確定要素によって確率はどんどん下がっていく。
せめて、肉の槍をなんとかできればいいんだけど…
そのアイディアが浮かばない。
たとえば、ドラゴン型の体内を傷つければ、細胞はその箇所の修復のために攻撃の手を緩める可能性があるけど…
現在のシグルドには、その手段がないのである。
手持ちの武装はレーザーブレードのみ。多くの宇宙怪獣を倒すことができる武器ではあるが、巨大なドラゴン型に対しては通用しない。
セレナ騎から回収すればパイルバンカーも使えるが…それも却下する。杭を手動で爆発させられるようにすればレーザーブレード以上のダメージは与えられるかもしれないが、攻撃には時間がかかるし、その間機体が無防備になる。
細胞を動かすには、それなりのダメージが必要なはずだ。
なにか、いい案はないか…
考えがまとまらない。
そもそも、現在のクロウは集中力を欠いていた。
その理由はコクピット内の状況にある。
現在、コクピットにはミソラとセレナがいる。パイロットスーツ姿の少女が2人、クロウの中にいるのだ。
コクピットは1人用で作られているため、セレナの搭乗によってかなり窮屈になっていた。
結果、セレナの豊満なバストがコクピットの内壁に当てられており、その柔らかな感触がクロウを苛んでいた。この女性特有の感触を、この時クロウは生まれて初めて感じていたのである。
無理。これで集中するとか、本当に無理。
もしクロウに肉体があったとしたら、この感触を味わった瞬間に鼻血を出して倒れていただろう。しかしシグルドの一部となったクロウには、気を失うなんてことはできない。
結果、幸せなようでいて、不幸な感触が彼を襲い続けていた。
ミソラの搭乗に対しては、だいぶ慣れてきたクロウであったが、この状況は完全に彼のキャパシティを超えていた。極限状態にあっても、そんなことに悩まされてしまうのは人間らしさを保ったまま、機体に取り憑いてしまった性なのだろうか…
そもそも2人なんて反則だろう!
そう、心の中で叫んだ時だった。
彼はあるアイディアを思いついた。
2人…2人…
データを呼び出す。
彼の脳内にドラゴン型の奥へと進んだダミーシグルドのステータスが表示された。
…これが、戻ってこれるまでの時間は?
最高速で戻らせれば10分で合流することができる。セレナの一件があってからミソラはダミーシグルドの操作をしていなかったのだ。
クロウは頭を降ると、コクピット内の感触を頭から追い出す。
そして、あるシミュレーションをシグルドにさせるのだった。
◇ ◇ ◇
統一時間4月8日10時50分。
アイディアが出ずに、いよいよシグルド単騎で気管に入ろうと考えるミソラとセレナの目の前に、1つのホログラムが浮かび上がった。
「セレナ…これって?」
ミソラはこのホログラムを出したと思われる相手の顔を見る。しかし、セレナは何が起きたのか理解していない様子だった。
「え? ミソラが出したんじゃないの~?」
そこに映し出されたのは、ダミーシグルドのステータス画面。そして、その下にはこの機体の現在位置が映し出されていた。
「…えっ!?」
それを見て、ミソラは驚愕する。
ダミーシグルドが、全速力でミソラたちの元へと向かってきているのである。
「どうしたのミソラ? ダミーシグルドを呼び戻したりして」
「…違う、アタシじゃない。この機体を動かしてるのは…アタシ、何も命令していない!」
ミソラはセレナを救出してから、ダミーシグルドを操作していない。それどころか、この機体の存在さえも忘れていた。
「じゃあ、一体誰が?」
「わからない…わからないけど…たぶん…」
「たぶん?」
ミソラの頭の中に、1人の男の顔が浮かんだ。
それは、彼女を助けて戦死したはずの少年の顔…
そんなことを言っても、セレナは信じてくれないかもしれない。
「なんかね、このシグルドに乗り換えてから、時々変なことが起きるんだ」
だが、ミソラは打ち明けることにした。
「それって、バグみたいなこと?」
「ううん、そういうのじゃなくて…たとえば、アタシが出した作戦案、あったでしょ?」
「うん…」
「あれはね、この機体のコクピットの中に浮かんでいた情報を元に立てたの」
「…この作戦を考えたのはシグルドってこと? 冗談でしょ?」
「ホント。しかもアタシ、この機体の中で作戦案なんて考えてないんだよね」
セレナは、信じられないといった表情でミソラを見た。
「それでね…セレナ。今から言うことはとってもおかしいと思うかもしれないんだけど…聞いて。アタシはね、こんな変なことをしそうなヤツに、1人だけ心当たりがあるの。それはね…」
ミソラは大きく息を吸う。
そして…
「クロウ」
あり得ないはずの人物の名前を口にした。
「なにが起きてるのかは理解できないんだけど…きっと、アイツがアタシを…アタシたちを、助けようとしてるんだ」
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