軍師郭嘉
何時もの如くテキトー地図が有りますご注意下さい。
暇潰しにでも見てってくれたら幸いです。
「急報!長江、漢水から現れた船団が西陵城に!!
其の数、大小数百隻を超えています!至急援軍を!!」
魏続と宋憲、侯成が目を見開く。
潘璋、甘寧が頬を痙攣らせ武周が冷や汗を流した。
「いやーヤッパ、郭嘉パネェ!
いよっ軍師、超ーーぅ軍師!!」
で、良がキャッキャ喜んで郭嘉の背をスパパパパと軽快に叩いて喜びを表せば郭嘉はフフンと笑う。
「おぉ、釣られたか。中々良い状況っブファ!?」
そして軽いスナップを効かせた一撃がクリティカルヒットした。変な所に入ってゴッホゴッホ咳き込む郭嘉。
「・・・・・」
「・・・・・」
イケメンが怒ると怖い。睨まれると更に怖い。
「あの、マジすいませんした」
滝の様な汗を流す良を見て郭嘉は上司がコレだからこそ如才なく智を振るえると諦め、溜息一つヤレヤレと首を振る。
幾ら仲の良い相手が活躍して嬉しかったとは言え二十歳過ぎてコレでは未だにガキであると、良はテンション上がりすぎていたと反省しつつ話題を変えた。
「……郭嘉の予想通り劉表は兵を割いてきたな」
「葡萄酒十斗で許してやる」
「え“っ!?」
郭嘉は量を無視して表情を真面目なものに変えると地図を指差し言葉を続ける。
「え?ちょっと待って。交易品何ですけどアレ、おい!?」と言う上司の言葉を無視して。
「あぁ、此れで張太守も楽になるだろう。後は其の敵を撃滅すれば江夏は私達の物だ」
魏続は郭嘉の才知に驚嘆と同時に警戒も浮かんだが、此の良とのやり取りでバカらしくなり、純粋に其の先見性に感嘆して言う。
「軍師小僧‥‥いや、小僧とは言えんな郭参軍。御見逸れしたぞ。
約束通り侯成の率いる戦車兵を連れて行くといい。武剛車を配置した後は重装騎兵として使える」
「はっ、ありがとうございま‥‥」
郭嘉が言い切ることなく言葉を切ったのを見て、青筋浮かべ背面に顔を向ければ、彫刻の様に固まっている宋憲と侯成。
後の世にアブドミナル・アンド・サイと呼ばれそうな姿勢で上半身を露出して、切る前の食パンみたいな腹筋を誇示しながら、頭を抱え目を見開き驚愕していた。
余りに力の込められた絵面だが、彼等としては驚愕のポーズなのであろう。
たぶん。
魏続の眉間がキュっと寄せらる。
「‥‥‥‥‥郭参軍、好きに使ってくれ。此のバカ共は真っ直ぐ進むだけならどんな場所にも突っ込むから、出来うる限り此の鬱陶しい肉が萎むようにな」
青筋浮かべて指差した。
しかし宋憲が右眉を、侯成が左眉を上げて反応し、同時にカラカラと笑う。
「ハッハッハ!殿、我等が鋼の肉が萎むと?」
「ハッハッハ!殿、面白き冗談に御座います」
フロント・ダブル・バイセップス。
「私達が敵に怯む事は有りません」
「然り。皆様方不安に思いますな」
サイド・チェスト
「此の宋憲と!」
「此の侯成の!」
バック・ダブル・バイセップス
「「鋼の肉が衰える事無し!!」」
最後に揃って言うと腕を天に向かって鋭く伸ばして交差させ、逆の腕で上腕二頭筋を盛り上がせながら、白く輝く歯を見せつける。
余りにあんまりな二人に、郭嘉は辛うじて返事の言葉を絞り出した。
「…あ、えっと。
はい、よろしくお願いします」
絶句しなかっただけで十二分、軍師郭嘉の非凡さの証明だ。だって直属の上司が頭抱えてるもん。
此の将軍とは思えないやり取りは先ず郭嘉の作戦から説明するべきだろう。
単純な話、一郡持ってかれかけた劉表が、慌てて軍を割いた所をボコす策だ。
奇策をもって西陵城という江夏郡の要項を奪い、敢えて小兵を残して味方の援軍に向かうことで隙を見せる。
自分の本拠地の三分の一を失うかと思っていたところで、敵が取ったばかりの城を捨てるに等しい愚行に劉表はさぞ喜んだ事だろう。
しかし同時に悩んだ筈だ。
取られて直後の城、敵は少数。
劉表自身の民心の厚さを鑑みれば、大軍を早急に西陵城に連れて行き優位性を見せつけるだけで、内側に纏められた民が蜂起する可能性は高い。
だが、唯でさえ劣る兵力を割くとすれば可能なのは張羨と戦う本陣のみ。
満寵には地勢的優位な観点から必要最低限の兵士しか渡しておらず、予備の兵など有りはしない。
そして騎兵戦力に欠く劉表が大軍を高い機動力をもって移動させるには、船を使う必要があった。
なら今現在、長江を挟んで敵対する張羨という名将を前に戦う術である船を割いて良いのかどうか。
西陵城に軍を送らねば江夏郡を取られ、送れば名将張羨に勝てるかは微妙なところ。
もし援軍を派兵するとしても投石機や弩を積んだ陸にも攻撃出来る船をそう割ける訳も無い。
速攻を仕掛ければ過失を補えるが、しかし送れる予備兵力は本体のみ。
劉表がそうやって悩んでいる間に、呂布軍の騎兵機動力をもって先回りすれば、十二分迎撃の用意ができる。
以上が江夏を諦めるに等しい選択を劉表の人となりを把握して、選択できないと見て郭嘉が立てた戦略。
つーわけで簡易陣営制作能力の優れた候成の部隊を借り、慌てん坊の劉表軍をタコ殴りに行くという話である。
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1袁敏vs満寵
2張羨vs劉表
3良・魏続vs黄祖
A戦争予定地
△長江・▽漢水・◯西陵城
良は笑って言った。
「お前っ、エグいわー」
「軍師にとっては褒め言葉だ」
フフンと笑う郭嘉。能ある鷹が爪を曝け出して飛び回っていると言えるだろうか。
「さて、甘寧。先行して貰うにあたって此れを渡しておく」
まぁ、と言うわけで夜陰に紛れて西陵に向かうこととなった。ある意味…断然悪い意味で黄祖と言う名将の感は当たっていたのだ。
「陳就さん、鄧龍さん。行きますよ」
春薪城が目視でき草木が水上まで茂る南側の岸で、暗闇の中そう言ったのは若ハゲの薄ら笑いを浮かべた男だった。三十代程の見目ながらデコが広く禿げあがっている。
今が昼ならばさぞ輝かしかっただろう。
無論、オデコが。
彼、黄射といって黄祖の子だ。
良の頼みで豫章太守諸葛玄と朱皓の諍いを呂布、と言うか陳宮が調停し朱皓を父朱儁の幕僚に、諸葛玄を太守に据え置いた。
故に実権は無いが劉表の下で豫章太守の任を任されている。
「あ、あぁ、ああ」
「任せとけぇ!」
オドオドと返答したのは水軍都督陳就、勇猛に返事をしたのは鄧龍である。
陳就は臆病が故に戦場の機微に聡く、鄧龍は勇猛ながら算術に優れ財務を管理していた。
だが甘寧と陳就は真逆の気性から反りが合わず、鄧龍は勇猛さを持ちながら銭に貪欲と見做され甘寧と衝突。
頭は良いが硬かった甘寧が落目となった事で付き合い切れなくなった元食客達だ。
まぁ、彼等の事を一概に不義とも言えない。
将とは前線に立つべしと言う心掛けは良いが強要するものでも無く、人助けとは言え困窮した状況に関わらず金をばら撒いていては頭領として見れなくなるのは仕方がない。
度が過ぎれば何事も付き合うにも労力がいる。甘寧と言う男の真っ直ぐな気性は好まれるものだったが、少々実直に過ぎる気風が抜けていなかったのだ。
常に八の字眉毛でショボくれた顔の陳就は、昼に春薪城から登った敵が動くと言う知らせの狼煙を思い出して言う。
「か、甘寧が居るとは言えど、軍として見れば彼等は此の地に対しては詳しくないと思われる。
彼方が夜半に紛れて西陵に進むなら騎馬を使い、揚州を経由して帰るのなら船を使うだろう。
揚州に行くのなら何も出来ないが、西陵に行くのなら奇襲が出来る」
「西陵から荊州を攻める為に行くんだろうな。たぶん」
それに対して龍の様なデカっ鼻の鄧龍は口にした。デコを摩っていた黄射は横に首を振り言い聞かせるように自分の予測を言ってみせる。
「ふむ、それにしては兵が少ない。どちらかと言えば荊州牧から送られた援軍の足止めなどでしょう。そろそろ軍を動かしていてもおかしくは無いでしょうし、顎城は落とされていませんしね。
兎も角、敵に奇襲をかけるにせよ一端、我等も顎城に帰りましょう。父曰く、配置換え、陣替え、策実行時は脇が甘くなるから盛大にド突くべしですから
……む?白虎です。西陵に向かうようですね」
若ハゲ、八の字眉、デカ鼻の三人は闇夜の下で一先ず鄂に向かって二十余隻の小型船と三隻の中型船を出した。
因みに黄射が言った様に春薪城に物資を入れたのはコイツらである。
魏続達揚州軍も城の投石機の届かぬ位置に船舶で停泊し包囲していたが、連戦に次ぐ連戦と何日も包囲を続けた為、どうしても注意力散漫状態であり、夜間に進む小型船を発見するに及ばなかったのだ。
後は陸顧張朱四家連合水軍という大分面倒な軍編成であった事も問題と言えた。
黄巾の乱であったり反董卓連合などで、激しいダメージを負った兗州豫州程に地元名士達の実権が弱まっているわけでも無く、故にどうしても各家が各家に気を使って船団間が空いていた。
魏続の弛まぬ努力によって山越を呂布軍下に置く事で、揚州における発言力は強まったが、事を荒立てる訳にもいかずこう言った所でアラが出ていたのだ。
寧ろ孫策という明確な敵がいたと言えど、三年でよくもまぁ名士達に船団を出させたと褒めるべきだろう。
それはさておき黄射達だ。
白虎の部隊が西陵に向かっているのを確認し一つ策を立てた三人は、残存戦力を率いて地元故にこそ分かる地理と夜目に任せ、火を灯さずに川を進んで行く。
物見が松明を掲げた軍馬の列を見つけた位置を確認し、先回りして黄射と龍鄧が森に潜み陳就が少数の船団を率いて長江の闇に消えた。
陳就の率いる船は大銅鑼などの軍楽器が詰め込まれた物だ。
長江から軍楽器の音を鳴らし良達の意識を川側に向け、背後から奇襲を掛けようというのである。
邾県と春薪城の凡そ半分と言った所の岸で、暗闇の中に松明を煌煌と照らし千以上の騎兵団がゆっくりと進んでいた。
速度は遅い。騎兵とて常に走らせていると馬がバテてしまうからだ。
黄射は森の中に伏せて其の報告を聞く。
「黄の坊ちゃん、此処なら木も草も良い様に生えてる。身を隠すにゃ丁度いい。しっかりと刈り取ってやろうぜ」
「私の髪の毛の事かぁぁぁぁあああ!!」
「いやぁ、敵の事だぞ」
「失礼しました。龍鄧さん、やってしまいますよ」
「おうっ」
こんな暗闇で奇襲を食らえば如何に精強な軍でも大混乱は必至。
黄射は鄧龍と数百の兵と共に森で息を潜め、敵と陳就の軍楽隊の演奏開始を唯待った。
その時、暗闇と静寂が支配する中で地鳴りが響く。腹から伝う振動が伏せた兵達の気を逸らせ、顳顬から頬にかけて冷や汗が落ちる。
騎馬が視界に入った。暗闇に慣れた視界をこれほど恨めしく思った事は無い。
何故、夜襲において頼るべき夜目を憎らしく思うか。其れは敵が精兵たる威を示していたからだ。
屈強な兵として練り上げられた人、肥えるでも無く巨大で力強い馬、入念に手入れされた鎧。行軍中だと言うのに騎兵の顔さえもも布で隠されており、矢に対する備えも確りとしてある。
何より一糸乱れぬその進軍は個々の意識さえ感じさせぬほどに一つの群としての意識を持っている。
これからアレと戦うのだと将兵を不安にさせるは十二分だった。
突如、陳就の銅鑼がなる。黄射と鄧龍は慌てて立ち上がり、剣を抜いて大将旗めがけ駆け出した。
「突撃ぃっーーーーーーー!!」
黄射の号令に数百から成る軍が宵闇を吹き飛ばさんばかり大声を上げて駆け出した。
さしもの白虎の軍とて棒立ち。
好機と見た鄧龍は騎兵を引き摺り下ろす為の戟と、頭をカチ割る為の垂を握りしめて最初の獲物に飛びかかる。
「おグゥおアッ?!」
しかし突如として鈍痛が肩を焼き、次の瞬間には腿に激痛。深々と刺さった矢を無視し矢の飛来した方向を見て崩れ落ちた。
黄射もまた然り。己の目が正常ならば前列の騎兵が馬から降りて槍衾を構え、残った騎兵達は此方に二射目の矢を構えている。
一射目で崩れ落ちた兵達の呻きの中、なぜ察知出来たのかと言う疑問と共に、敵将への恐怖で身を震わせた。
前後の騎兵が自分達を囲う様に弧を描く。
背は山、地形的に優位故逃げる事は可能。
しかし弦と矢尻を持つ指一本を動かされれば、殺される自分達に其れは不可能だ。
状況の打開策を練っていると敵の中心から二人の将が出てきた。
大弓を構えた巨体で鋭い目つきの偉丈夫と、闇の中で輝くように肌の白い細身の美丈夫だ。
「郭嘉マジヤベェ」
「締まらないから止めろ小っ恥ずかしい」
良と郭嘉である。良は弓を構えたまま言う。
「さて、お前さんら、此処で死ぬか将を引き渡すか選びな」
「待て白虎殿、高々二百前後といえ再度敵となっては面倒だ。矢を惜しむ事も無いだろう」
「うーん。確かに急いでるしどうしようかね?」
そう言って良は最も値の張る武器を持った二人をチラリと見た。輝く剣を持った黄射に武器二つを持ったまま動けぬ鄧龍。
「っオラァアアアアアアアア!!!」
鄧龍は一か八か立ち上がり、良に向かって垂を投げつけた。だが我武者羅に投げた其れは良が苦も無く叩き落とし、潘璋が突進していって鄧龍を斬りふせる。
鄧龍の行動に呆気に取られていた黄射は慌てて得物を放り二人の前に出た。
「白虎将軍、部下の命は此の黄射の首で御勘弁願いたい!!皆さん武器を捨てなさいっ!!」
兵達は慌て武器を捨てる。良は其れを見て迷いが生じ無言になる。
郭嘉は言った。
「白虎殿、此奴は黄祖の子だ。何方でもいいが、屍なら其れで使いようもある」
「どっちが得だ?」
「交渉が楽になる分生きてた方が楽だな。兵の信頼もある様だし死兵になっては困る」
良は頷くと号令した。
「捕らえろ」
二人を捕縛し、兵達の武器防具を鹵獲。兵はそのまま解放し黄祖の篭る城に追い立てた。
この後、甘寧が郭嘉の伝言で捉えた陳就を合わせて、黄射、陳就、鄧龍を西淩の牢に入れ漢水と長江の合流地点へ進んだ。勿論、甘寧は三人を生かす事に不満を露わにはしたが、彼等が後々役に立つのが分からぬ訳でも無くブーたれている。
ブツブツ煩い甘寧のBGMを背に良は郭嘉に問いかけた。
「つか何で敵の伏兵が有るって分かったんだ?」
「あぁ、此の地に商売上の繋がりのあった水賊商人殿の話と、前回と今回の戦いの経過を鑑みれば、黄祖と言う男は将として出来る事を全てやりきる男だ。
最悪の場合に備えた予備戦力が無い訳が無い。
そして此の地勢。
移動途中に寄ったが此処ならば兵を潜めやすく、万一失敗しても木々が茂っていて騎兵の追撃から多少は守ってくれる。
私が敵の立場なら何としてでも此処に少数の伏兵を潜ませるだろう。
何より常に戦場を睨み見ていた黄祖の目。あの戦場の機微一つ逃さぬような目を見て、此方の動きを読んでいても不思議では無いと思えてな」
「ほへー」
「ま、備えあれば憂いなしと言うのが一番だ」
「ははっ、言えてらぁ」
「ふーむ、白虎殿。そうも褒めてくれるのならばもう少し経費で落とせる酒の量を増やしてくれ。
真面目に過ぎる嫁が出来てから女遊びが出来ず、酒くらいしか楽しみが無くてな」
「あぁ、陳宮さんの娘の響ちゃん?そらぁ郭嘉の事を心配してるからこそだろ。
それに飲み過ぎてるからダメだ。お前に死なれると困るからな。
だが、そうだな。詫び含めて次の交易で手に入る新品の葡萄酒を優先的に渡すってのでどうだ?」
「ふふん。話が分かるじゃないか白虎殿」
二人の後ろでブーブー煩かった甘寧が潘璋に「テメェうるせぇ!」と引っ叩かれていた。プライドの高い二人、喧嘩勃発まではそう時間はかからない。
小休止を挟むと戦も始まっていないのにボコボコの二人に良は拳骨落として言った。
「オメーら行軍中ぐらい静かにしろや!」
「ふぁい」
「ふふぃふぁせんふぇひは」
此の軍の常となりそうで有るなとは郭嘉の言葉で有る。




