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神速の掌返し

崔州平についてと言うか崔家については崔烈の事ぐらいしか分からず混乱したので、此の小説では兄の方が崔鈞元平で弟が崔均州平です。


こんな感じですが暇潰しにでも読んでってくれたら幸いです。



山だ。執務室という小さな世界に連なる山脈だ。

県令に県尉と県丞。此の句陽でなかなかに偉い三人は竹簡山脈と勝手に県令が呼び出した執務室で黙々と判子と筆を動かしていた。

疲労の色が強い県令が気分転換に良いとこでの県丞に幾度目かもわからない問いを発する。


「袁覇さん。マジで誰か紹介してくんない?」


「県令、口では無く手を動かしてください。手を。

第一、出来るのならば贄の一つや二つ用意しますとも。


敏。増加した分の屯田兵の戸籍の振り分け確認は?」


「・・・大体終わってる」


「うむ。ではそれが済んだら屯田兵からの予想される税収をまとめておきなさい」


「へぇゔぉぁーーーーーーー」


「袁敏ーーーーーーーー!!」


「俺はもうダメだ。…兄貴、良、後は任せグフゥ」


「グフゥじゃねぇよ。任せてんじゃねぇよ。張っ倒すぞ袁敏」

「グフゥではない。任せるではない。貴様がやるのだ弟よ」


「もうやだ扶楽の屋敷に帰るっ。帰って剣振り回すーーーっ!」


「・・・袁覇さん。袁敏がヤベェからちょっと飯にしようぜ。胡餅あっから鴨肉挟んで食おう」


「・・・・・そうですね。

ひと段落させてからと言いたいですが、腹が減っては戦は出来ません」


「袁覇さんキリッとした面でヨダレ垂らすなし。


袁敏、飯だぞ。落ち着け」


一息つくと言うレベルを超えたところにある食事。勤勉な袁覇が正に日照りに雨を得るが如しとかじじいのような顔になって語り食らうのだからそうなのだろう。

ちなみに今回の飯は魚の羹と胡餅(ナン的な物)に鴨肉の塩焼きを挟んだ物である。


「にしても、陳宮さんが率先して聞き入れてくれて王さんとか秦さんとかが上手い事纏めてくれたけど税収が安定しないのは怖いなぁ。

計上も大変だし割合じゃ無くて、いっそ固定しちまいたい」


「?」


「いや、アレ。よくは知らねぇけど乱世じゃない時に割合じゃなくて税を一律幾ら払えって固定化してたみたいな話を聞いた事があった気がするなって」


「・・・乱世では夢物語ですな。

安定した収入というところには魅力を感じますが戦や天災で不作になれば農民が飢えますし、そもそも収穫量が少な過ぎて政が滞りましょう。」


「そんなもんか?」


「はい。そんなものです」


悲しいかな中途半端というレベルを超えポンコツな良の知識。

ここ最近、忙しいとはいえ常に最上の緊張を強いられる戦から遠ざかり精神的な余裕が出来たのか良は昔をよく思い出すようになった。

何か有効活用できればいーなぁというノリで政策を論じる際の話の繋ぎとして袁兄弟に自分の身の回りの記憶を色々と話すのだがいかんせん知識が半端で価値のないおしゃべりになってしまっていた。


例えば偶々、良が褒められたものを上げれば歴史の授業で習った気のする五人組の制度。豊臣秀吉がうんたらかんたら江戸時代がどーたらこーたらとりあえず連帯責任と言う変な記憶の仕方をしていた。

しかもそれを「家とかで五つ一組で責任を負わせるみたいなそんな感じの制度が有ったような無かったような」と言うなんともアホな発言が元だったりする。


そんな訳で良の政策に関する話は飯の途中の暇つぶしと言った形で話される事が多かった。

まぁ、それでも聞いてくれる袁覇の優しさである。


「あーーーもうクッソ紛らわしい報告書を片っ端から木端微塵にしてぇ。算木数とか算籌とか棒多すぎて見間違えるし」


算籌(さんちゅう)

和算とか中国数学とかに使うやつで、算盤のさらに前に使われてた計算器具なアレ。

縦線で五まで、それ以降は五を横線一本で表してその下に又縦線を書いて九までの数を表す算木(さんぎ)を使った。

例として六千百二十三をT Ⅰ Ⅱ Ⅲみたいな感じで書く。


「よくある事です。墨を使い竹簡に書くのですから仕方ありませんよ」


「そう言っても其れで税をちょろまかそうとするカスがいんだろ?」


「あぁ、良羽が初めて処した罪が其れだったな。そう言えばたかだか下役人が棒罰九十発も受けてよく生きてたな」


「あぁ、棒罰って結構ヤバいもんな

結構びっくりした…」


良が棒罰の執行を初めて見たときは驚いたものだ。

罪人は両手足を台に縛り付けられ棍で打たれる。背中に木バットで殺意を込めた振り下ろし九十発と言えば結構近い状況で、十発も喰らえば普通に死人の出る刑罰である。


「正直に言うと、ちょっとちびた。

いかんせん平和なド田舎出だからな」


「今じゃ千近い兵を率いる事になる立場なのにな」


「そう言うなよ。袁敏」


「兄上〜〜!お友達から〜〜」


話を叩き切ったのは甲高い声だった。

ドタドタと布巻物を持ち走ってきた幼子は良の世話している孤児の一人だ。

布を手紙がわりに使うのなら荊州の手紙友達からだろう。


「お、亮からか?

ありがとよ起。皆んなに飯出来てるって伝えてやってくれ」


「うん!」


てててーと駆けて行く起と呼ばれた元孤児を優しく眺めながら袁覇が口を開く。


「亮と言うと以前お話しいただいた徐州の諸葛家の方でしたか?」


「あぁ、小沛で知り合ってな。んで稀に手紙出すんだけど士官先探してる知り合い紹介してくれねぇかって手紙出した返書」


キラリと袁兄弟の眼が鋭く輝く。新たないけに・・・同僚が来るかもしれないと考えたのだ。

良は睨まれ圧迫される様な感覚に陥りながらも巻物を広げる。


「何と?」


急かす袁覇。


「えーと・・・ちょい待って。


吐息白じむ今日この頃。

遠方の友、良の願いにより同門の崔均、州平が名乗りあげる。彼の者の亡き父は大尉なり。されど均は政才有り、陳言憚らず。


雪解け前にはそちらに着く。


だって」


「「え"?」」


「どした?二人して」


「・・・銅臭の父と不敬の兄を持つ男か」


「なにそれ?」


「そいつの父と兄の話でな。

銅貨で大尉の位を買った父は息子に銅臭がすると言われ、それを言った子はその名声を元に英雄豪傑と渡りをつけた。そこまでならいいんだが太守になった時に驕って王公を真似て絹の頭巾を被った。


血縁がそんな奴ばかりだからあんまり信用できねぇって話が洛陽で持ち上がってな。気がついたら南に旅立ってたつーいわくつきの人間だ。


まぁ、荊州あたりに行ってるとは思ったが」


「ほーん。まぁどうでもいいや」


「県令。こう言っては何ですが御自身の名声に傷がつきますよ?」


「…?別にそいつはワリー事なんもしてねぇんだろ」


「それはそうですが…」


「あのーアレだよ。隗より始めよだよ。

楽毅や蘇秦も来てくれれば御の字だな。

それにこの決定はあくまでも俺の決定だ」


「「…むーーーぅ」」


「少なくとも仕事量は減るだろうな。袁敏は開墾の竹簡仕事を減らして練兵と武術の練達に精を出せるし、文官だってんだから袁覇の仕事も手伝わせられるな」


「「賢明なご判断。正に古の賢王が如く!」」


「調子いいってもんじゃねぇなオイ!!」





寒風が身に染み呑よりとした雲が頭上を覆う。

心持ちは頭上の雲の如く身銭は刺さる風の如し。

戦乱で荒れたのだろう家屋や市場。しかしそれと相反する街の活気がどうも気分を騒つかせる。


「私に寄り添ってくれるのは懐深き天だけか。曇天が覆う空は私の心の如しだ」


雲が割れて晴れ出しやがった。


「…あーーーーーーーー何でこんなところまで来てしまったのか。

己が愚行と愚考が片腹痛い。


父上は李傕に殺されて、クソ兄貴は病でくたばった。親族は一人とてついては来ない。


誰にも重用されず親族にまでコケにされた蘇秦を笑わずにいれようか?


…くそったれ」


天候にもめげず賑わう市場で一人、悄然した様に愚痴り歩く齢四十ほどの男。薄茶色の服に、髪を結って紐付き頭巾で覆ったありふれた格好の彼は、背中に背負った大荷物の重みで腰を曲げている。


まだそこまでの年では無いはずだが頭髪には白髪が目立ち、父と兄の諍いの頃からどうにもしょぼくれた様な顔が戻らない。長い旅路で疲れたせいか隈と乱れた髭にくすんだ肌。雰囲気で人波を裂く彼は諸葛亮の友にして理解者である崔均、字を州平と言う者だ。


彼は見てくれは四十前後の疲れたオッサンだが実際の年齢は二十六である。


父が武力で宦官を廃そうと、汚名をかぶる覚悟で大尉(宮廷内を守るんジャーを任命できる)の位を買い、宮廷内武官の一新と武力による宦官の排斥を計るも、宦官に直ぐに挿げ替えられてしまった。

残ったのは唾棄すべき行為を行った事と息子に銅臭がすると罵られた事実だけだ。


それからは悲惨である。自称清流派とか言う権力欲強い頭お花畑のクソ儒者共に事あるごとに誹謗中傷された父は日に日に衰え、親族に危害が及んではいけないと若い自分と数人を荊州に逃がした。


董卓が専横を極めると兄が袁紹とともに兵を挙げたため牢に入れられ、董卓が死んで牢から出されても銅臭という言葉が付きまとい要職を歴任した父親の最後は長安の城門校尉(門番)として李傕に殺されたのだった。


親に罵詈雑言を吐くことで己を守った兄も太守にはなったが大した事も出来ずに妙な噂をたてられ病死した。


「お陰様で士官先もない」


そして崔均の状況が此のつぶやきである。

悪事千里を走る。などという言葉が後千年くらい後の宋の時代に出てくるが此の時代もまた然りである。

と言うのも太守や州牧なんかは中央から派遣されるのだし、名士も中央の戦乱を避けて移住するのだから崔家の事を知っている者も多く、自身は何もしていない…と言うか何も出来ていないというのに信用できない人物として見られ士官や仲介を断わられ荊州では職がない状況になってしまっていた。


もうやってられなかった。皆崔烈の子と気づけば門前払い。講釈たれて嫌味に皮肉とネチネチ言われ追い出され、特に口だけの儒者はクソと同等には嫌いになった。


理不尽。


そんな思いに鬱屈としていた折、友の元へ人材紹介の仲介を頼む手紙が来た。

全文を読んだわけでは無いが才有れば要すると言うその一文に最後の望みをかけて此処兗州の句陽までやって来たのだ。


『此れで士官出来なければ、もう農耕雨読して過ごそう。…それもいい気がする』


そんな事を考えていると人集りが目に入る。そこそこ大きな通りの半分程を人が埋めその中央では随分と数人の小さな子供達が声を上げている。


どうやら達札を読み上げているようである。


「「「「「「県令様の御達しです。


お昼の後の鐘の時に中央通りを通るので道を開けておいてください。

又、日が沈む前に通るので道を開けておいてください。


お馬が沢山通るので危ないです!」」」」」


幼子が元気なのはいい事ではあるが疑問を口に出してしまう。


「なぜあんな子供が文字を読める?」


「俺が教えたからだ」


「へっ?」


後ろからかけられた声に驚き振り返ると雄偉な若人が頭に白虎を乗せ不敵な笑みを受けべていた。


「おっさんが亮の言ってた崔州平さん?」


「え?あっ、あぁ。私が崔州平だが…?

君は?と言うかなぜ私が崔州平だと解った?」


「俺は呂井、字を良羽。此の句陽の県令だ。

んで頭のコイツは白だ。

共々、歓迎するぜ」


「ガウ!!」


此れが良と崔均の出会いであった。


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