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軍評定の気の抜ける結果

山陽攻防戦と済陰攻め。その流れというのは陳宮が予想するより簡単で気の抜ける様なものだった。


最初の想定では敵の兵糧などの物資の少なさや地勢などの観点から早期決戦を狙ってくると考え機動力の優位性を前面に押し出し山陽郡昌邑城を囲い込み、そこに呂布がいる噂を流し陳宮や郝萌が備え曹操を昌邑城に引きつけ呂布、高順、張遼の3人で周辺の城を奪い尽くさせ最後に進退窮まった曹操を討つ策を予定していたが遂に曹操は現れなかった。


故に昌邑城陥落後、済陰の各地で曹操との熾烈な争いが行われると呂布軍の首脳陣は予想していたが戦とは良くも悪くもうつろうモノのようで、此の済陰攻防戦はいい意味で呂布や陳宮、高順の思い通りに事が進まなすぎた。


済陰陥落後の呂布軍兵達の酒の肴は専ら以下の通りに進む。


「ヤベェよなぁ呂将軍。

修復中の小城とは言え奉天画戟で門ブチ破ったんだぜ!!」


「本当け!?城門を人一人で破んのけ!?

スゲーべなぁ」


「いやいや夜に数十人でやったらしいけどスゲェーよなぁ。

あぁ後さ、知ってっか?頭白虎様。」


「あぁ、其れは聞いたべさ。何でも今回の済陰攻で城の半分くらいを無血開城させたそーだんな。一月も経ってねーのに郡一つ落としちまうしやっぱあんだけやさしーと天運が向くんだなぁ」


そうなのである。兵達の盛りまくりの話の内の数少ない正しい情報の通り済陰郡に行った呂布達は十日と経たぬうちに済陰の定陶城を包囲し周囲を寸断、定陶城は降伏。残りの済陰のほぼ全ての城も呂布が進軍すれば直ぐに開城、降伏した。


その流れのまま東郡で糧道を絶たれた夏侯淵、楽進を散々に打ち破り遂には張超の救出が叶ったのである。


だがあまりに上手くいきすぎている状況、済陰攻防戦の際に于禁と彼が率いる青州兵を撃退しその勢いのまま離孤を落とした後、僕陽城にいるかと思われた曹操に備えた高順は民の懐柔と練兵、更に城の簡易修復を終わらせただけで呂布と合流する事となった。


結果曹操の元に残った兗州の地は東郡、任城国のみである。本拠地豫州の許からはあまりに遠い。そう時も掛からず呂布のものになる様な状況であった。


「…おかしい、曹操が何の手も打たん。そんな事があるのか?」


こんなに好都合に過ぎると呂布でさえ戦後処理に追われながら此の心配のしようである。


さてさて動きが不明のものはどうしようも無い。視点を戦後に向けよう。


先ず外交面では劉備とはひと段落ついた為、多少揉めたが劉備と蔵覇との間を持つだけで済み、それが済むと人材不足の劉備の元に孔融とその配下の隻腕の猛将武安国と黄巾の乱で活躍した龔景が入った。

袁術には張邈が取り敢えず礼を言いに行き袁紹とは公孫瓚をダシに相変わらずの不戦協定継続を内密の内に結ぶ事が決した。

又、同時に呂布の恩人の并州の張楊に使者を出した。


今回の呂布の勝利にて手に入った領地は兗州の陳留郡、済陰郡、山陽郡の三郡。

中央に位置する済陰を呂布、魏続と政治能力がそれなりにある王階と秦宜禄でしきり兗州東郡最前線の離孤城に高順が入り、張遼が己氏城に入り予州の曹操に備えた。

陳留は張邈と張超の兄弟に任され、昌邑には陳宮と郝萌が入り任城攻略準備をとある性格の悪い文官が進行中である。


ついででは有るがその中で良が済陰郡句陽を無茶振りに近い形で任される羽目になった。まぁ、呂布や陳宮とか曰く県令(一万戸以上の県を治める)では無く県長(一万戸以下の県を治める)な上に民も従順で政のいい訓練になるそうだ。


結果、食客や家臣などいるわけもなく戸籍の整理や感慨整備を含めた街の復興と言った戦後処理以外に足りな過ぎる部下、特に自分自身の兵士を得ようと触れを出し人材登用に精を出さざる負えなくなっている。


因みに御触れの内容を補助などの理由からつけられた美人の嫁さん持ちの秦宜禄に問われた際に言った言葉は

「えーどうしよう…。取り敢えず出自そう言うの全般どうでもいいから頭いい奴とか腕っ節ヤベェのとかなんか出来ることがある奴全員欲しいって書いといて」

と言う適当きわまりないモノであった。


勿論、此れは秦宜禄が齢、教、出自も問わず。文武のみならず特異な才有る者も用いる。又才有る者を報告、又は連れて来た者は褒賞を出すと言った風に意訳し御触れを出した。


それ以降は朝以降に登用希望者と会い昼前に事務を行い、午後にそれ以外の仕事を行うと言うのが良の日常である。


運のいい事に触れを出しどんな者でも取り敢えず使うと解ってからというもの引っ切り無しに士官を望む者や推挙の者がやって来る。そんな中でまたもや士官を願う人物が良の元にやって来た。


次の仕事の予定まではもう少しの時間があると秦宜禄に言われたので整理中の竹簡を閉じ、何故か言い淀む召使いに気にしないでいいぜと連れて来させれば屈強な体の割に未だ年若くふてぶてしい顔の何故か酒壺と剣を携えた齢20に届かぬ青年であった。


彼は東郡の発汗出身の潘璋だと名乗りを終えると腰を下ろし開口一番こう言った。


「酒代と旅賃がねーから県尉(県の武官で今で言うと警察署の一番偉い人)として仕えてやるよ。感謝しな」


横で呂布への竹簡に報告事を書いていた秦宜禄はポカンとした顔で筆を落とす。慌てたように良に焦った顔を向け言い放つ。


「若、これは余りに…場合によっては登用は止めるべきかと思えます」


「何だ?あんたぁ。此の俺を誰だと思ってんだ?発汗の猪突だぞ、頭がたけぇぞコラ」


「なっ!!」


流石に潘璋に口を開きそうになった秦宜禄を手で制し良が口を開く。猪突ってそれバカにされてね?と思いながら。


「アレだろ?潘璋だろ?さっき聞いた。

この人は俺の教育と罪人管理のために仕方なく此処にいるけど郡丞(郡の次官で文書、倉庫、獄を司る)として働いてる人だから気をつけたほうがいいぞ」


「ほーん。まぁ、どうでもいい。

なぁ県長様よ。俺はあんたと話してんだ。どうだ?俺はこの前の曹操との戦いの時も什長(十人長)として活躍したんだぜ!」


「ホレ」


そう言って良は腰の刃渡り30センチ程の剣を投げ渡す。


「あん?」


潘璋は一瞬、疑問符を浮べ『あぁ、手合わせか』と気づき酒壺から手を離しパシリという乾いた音を響かせ顔の前あたりで剣を掴み取る。そして視界が大凡絶た潘璋のに機敏に立ち上がり素早く近づく良。


「此処でやり合うのか?…ハ?グベェ!?」


ほざく潘璋に本気と書いてマジで顔めがけて横蹴りを入れる。


余りにも唐突な攻撃に気がつくことはできても対応はできず奇怪なうめき声をあげ倒れこむ潘璋。


「何すんだテメッぇ!!」


憤怒そのまま咆哮を上げ体を起こし鞘から剣を抜き切りかかる。

横に振られた其れを良は上半身を下げることで避け、その勢いのままヘッドバットを食らわせる。痛みと勢いに耐えかねバランスを崩した所で足を払えば盛大な音を立てて再度すっ転ぶ潘璋。


気が付けば剣は手に無く後手に関節を決められ取り押さえられていた。


「はい、逮捕。無銭飲食、町人暴行の罰で髠刑した上、三年間開墾従事と無銭飲食分のお代と酒屋修理代を払うまで働いてもらいます」


「ハァ!!?」


「いや町の酒屋や衛兵から陳情が届いててよ。まさか自分からノコノコ来るとは思わなかったけど」


「ふざぁぁけんなぁ!!出世払いだっつったぞ俺はぁ!!!」


「うん。その無銭飲食の上、それだと困るって言った店の人ブン殴って更に止めに来た衛兵に怪我させて逃走したね。開墾業追加一年。


秦県丞お願いします」


「ハァ…危ないことはしないで欲しいですな。気が休まりません。」


そう言って竹簡にサラサラっと書き込み判を押せば罪人の簡易書類の出来上がりで有る。


滅茶苦茶に暴れ喚き罵詈雑言を発する潘璋をスルーして関節を捻っていれば、直ぐに良の人材登用の一環で部下になった者達の中で特筆して屈強で真面目な衛兵代わりの二名が登場し、良にゴミ袋を棄てるような感じで放り投げられた潘璋を手早く取り押さえ縛り上げ淡々と引きずって行く。

その冷静さは二人に挟まれ喚き散らす潘璋との対比が凄い。


ズルズル引きずられて行く潘璋を目で追うのを途中で部屋に入ってくる白に移し、台座に戻り座った自分の足の上に突っ込みコテリと白が腰を下ろすと共に竹簡に又サラサラと筆をふるう秦宜禄に口を開く。


「次は…何だっけ?」


「裁判です。戦続きのせいで全く出来ていませんので盗賊や軽重犯問わず数が多く牢が満杯です」


「もう重犯罪者とか全員強制開墾か労役で良くないすか?」


「・・・いけませんな。賊はそれで良いでしょうが未だ冤罪無罪も確認できてい無い町民もいますよ」


「スミマセンでした。マジ勤労感謝っす」


とこんな感じで秦宜禄に助けられながら良の政は進められた。

今早急に行わなければならないのは各城の罪人の裁定で良の眼前の山盛りの竹簡が二人を泣かせる。

法律を先に決めるべきだと言うのはそうなのだが皮肉にも良の登用した者達の能力の高さと教育係の張遼と良の息抜き、更に逃げ遅れた敵兵と言う要素が相まって、良の居る城周辺の賊達がバカスカ捕縛され先ほどの秦宜禄の話の通り牢屋がパンパンで取り敢えず牢の中を少しでも減らそうと投げやりに考えられた為の発言であった。

無論、仕事が減る甘美な響きを伴ったが嫁さんに嫌われたく無いので何のこともないように秦宜禄は断ったが。


二刻後。


「えーと。こいつらが最後か…。

こいつらは賊って言うより逃げ遅れた青州兵って所か?

略奪品多数、殺傷被害も確認が取れてるし全員、死ぬまで開墾やら治水やらす感じでいいかな?と言うか先ずは自分たちの入る牢作りやらせねーとな。

ん…この卞喜って頭目青州黄巾か?張遼先生に鉄球打ち返されて一発でぶっ倒れた時は笑ったけど。

…まぁ今はいいか」


「全員、賊にせよ青州兵にせよ斬首では無いので?」


「うん、人が少な過ぎるから有効活用しようと思って」


「わかりました。ですがせめて鼻削ぎ程度の肉刑の復活させておかねばならないのでは?咎人があまりに多いので見せしめに丁度良い」


「うーん。流石に肉刑はやり過ぎじゃない?鼻削ぎ以上に酷い刑罰だと労働力にならんし死んじまうと思う。まぁ見せしめどうこうは必要なのかもしれないけど」


「されど今は乱世。罪人を甘やかせては民が罪人になりかねません。せめて墨でもいれませんと」


「…ちょっと難しいかな刑罰は云々は。

義親父とかが細かい所の法を決める迄の取り敢えずの物だし首繋いで農業とかさせとけばいいでしょ」


「ウーム、まぁ確かに田畑が荒れるよりはマシか…。何にせよ早急に牢を増設するべきですか。それでは若、後ほど」


「あい、お疲れ様です」


そう言い右手で秦宜禄に手を振り、左手で白を撫でる良。やっと昼食と一服である。

白の背を撫で顎をくすぐればゴロゴロと喉を鳴らす。

白を撫でていると取り敢えずとは言え戦が終わったのだと実感できる。


良の手に頭を擦り付け甘噛みをする白。


「コレもうただの猫じゃん」


全力で噛まれたのは言うまでも無い。

その日の午後の練兵は何時もに比べればマイルドだったと言う。


*秦宜禄(しん ぎろく)

并州雲中群の人。

呂布配下で呂布滅亡時に袁術に救援要請に行った。その際、袁術に強制的に劉寵〔袁術に滅ぼされた〕の娘と婚姻させられた。さらに下邳にいた美人の嫁さん杜氏を曹操に側室として持ってかれている。

呂布滅亡後曹操に仕えていたが劉備が反旗を翻した際に張飛から妻を奪い取った奴に仕えるのはアホのすることだと言われ反乱に加わることを承諾。しかしすぐに後悔して帰りたいというとキレた張飛に殺された。

子は魏の権臣になった。


彼の嫁さんのことを書くと関羽の五関突破の話がアレな事になるせいか三国志演義には出てこない。

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