迷信の信心
ご指摘いただいた字の件。
確かに気にする人いそうだと思い注意書きに載せときました。
知識無いので勘弁してください。
暇潰しにでも読んでってくれたら幸いです。
屋敷の一室。図体のでかい男とその様相を真似る白い獣が掛け声を掛け合っていた。
「どうすっかなぁ〜。」
「ガァゥ」
「ヤベェよなぁ〜。」
「ギャゥ」
「でもなぁ〜。」
「グゥゥ」
太陽が既に蒼天のど真ん中に鎮座する真昼間、宴の途中から抜け出してまで行っていた援軍の交渉が宴を催した翌日にはついたらしく、その話を聞いた。これが昨日の事である。
それ以来、良は己の中に湧き上がった言い知れぬ不安に囚われ借り受けた屋敷で悩みながら白と共にゴロゴロしていた。ゴロゴロしていたと言うように、毎日欠かさない修練に身が入らないレベルである。
・・・共にゴロゴロと言うのは語弊があった。白はコロコロである。
まず陳宮から聞いた話であるが、呂布側で言えば兗州の者が故郷奪還の思いが強く、呂布もどうやらダチの家族が攻められていて危険なようで出兵したい思いは強いようだ。
劉備側で言えば出来ればこのまま力を貯めておきたいらしい。更に劉備の現在の立ち位置はどちらかと言えば袁紹側なので下手に曹操と戦うと不利益を被る事になるらしい。
陳宮の立てた作戦等でなんとか説得しようとしたのだが先ず山陽国を速攻で取った後、袁術を確実に後ろ盾としたい陳宮の見立てに劉備は異議を唱え、寧ろ万全の状態で臨むために袁術が軍を動かすことが確約されたら手伝うと劉備が言ったそうだ。
なんか此処数日、交渉が終わってから州牧は元気が無く良を見かけると何処と無く恨めしそうにしていてチョット不安になったが。
んで南方にいる袁術に援軍を頼みに行っているのが張邈という呂布のダチらしい。
この張邈と言う名を聞いたところで虫の知らせがあったのだが何故だか解らない。
その話を聞いた当日は気にはなったものの夜になったのと疲れがたまっていた為に普通に寝て、翌朝も落ち着かなかったのだが朝の訓練で成廉の訓練用の棒を脳天に喰らい、気が抜けていると成廉の部下と共にボッコボコになる程シバき回されている途中思い出したのだ。
張邈って何時だったか殺されなかったっけ?とぶっちゃけ良も張邈とか忘れかけていた。聞いたこと有るような無いような?くらいの印象だったのだが、成廉の一撃を貰い電撃的に思い出したのだ。
ヤベェ呂布が徐州にいた時にそんな部下とか居なくね?つか死んでたくね?って事は陳宮さんの作戦実行できなくね?と。
んで何故自分の悩みを二日かけて理解したのに良が困っているのは
「張邈って人が危ないつったところで信じて貰えんよなー。」
という訳である。
それこそ自分の知識がどれだけ通じるかは判らないが演義の流れと強そうな奴の話だけだが、大まかな流れは一緒だったはずな為に可能性は高いと考えている。
『確か兗州はずっと曹操の領地だったはず。て事は袁術は動かなかったのか?
陳さん曰く、なんか兗州の御偉いさんで?義親父を旗頭にして曹操と対立か・・・。
張邈とか言う人は義親父の徐州強奪前後で死んでたよな確か。』
そして何故、良が此処まで悩んでいるかというと歴史(?)を変えたいのである。と言っても少なくとも呂布は一度敗れた後、再度兗州に攻め入ったりはしてないはずと言うあやふやな記憶によるものだが何もせず歴史どうりに事が進めば呂布は死んでしまうと短絡的に考えてしまった為であった。
その根底には勿論保身の為と言うのもあるが、こう長い事付き合っていれば否、世話になっていれば死ぬ可能性があると分かっていて何もしないというのは良の感情が許さなかった。
されど何度考えても俺未来に起こりそうな事知ってる。などとほざけば奇人変人扱いである。
絶対信じて貰えない。
「どうすっかな〜。」
という訳で良はボッコボコの体でゴロゴロしながら悩んでいた。
因みに白は何故か良の眼前でコロコロしている。
「良羽様。」
陳宮の食客の子で良の身の回りの世話をしている召使さんで13才程の坊ちゃんである。と言っても大概の事は自分でやっちゃう為ほぼ居るだけだが。
「ん?何?」
「良羽様にお客人でございます。
別駕様と御連れの商人の方で網金と名乗っておりますが。」
「あぁ、陳長文さんと網金さんか!!
直ぐに入れたげて、あぁ後お茶お願いできる?」
嬉しそうに言う良。
「はい、承りました。」
そう言って頭を軽く下げ部屋から出て行く召使さん。
さて、所変わって良のリビングに相当する部屋である。良が入れとくように言っていた為に茶を眼前に網金と陳羣は姿勢正しく待っている。
と言っても待つと言う程の時間かけずに良はやって来たが。
「お久々、陳さん、網金さん。
来てくれて嬉しいぜ!!」
「良羽殿お久々にございます。
いや、驚きましたよ。まさか呂布将軍の養子になるとは。
白殿もお久しぶりです。」
「私達も会えて嬉しいですよ。良殿。白殿。」
「グゥー」
歓迎の言葉を掛けながら良が軽く礼を行い、それに返礼しながら返答する陳羣と網金。良に噛みつきながら分かってるとでも言いたそうに喉を鳴らす白。
気に掛けていた若者が元気そうで微笑ましく思う陳羣。
皆、割と気の合うせいか、良い意味で馴れなれしい。
世間話として良が呂布軍の面々との訓練や小沛で船上での体幹訓練の話をすれば陳羣はドン引きし、網金が行商で行った城や町、更に馬の事を話せば良の目が輝く。
白は良の足の上で寝ている。
「そう言えば陳軍師から戦に備えて軍馬の調達を任されたのですが良殿も見てみますか?」
馬の話に殊更良が食いついた為、興味があるのならと誘う網金。
「戦?あぁ起こるかなぁ・・・。」
だが、良の反応は網金や陳羣の思うようなものでは無かった。戦を好ましく思う事は無いと思っていたがそおゆうものとは違う憂いを帯びている。
網金も陳羣も戦の準備がなぜ必要かと言うのは知っている。故に気になった。
「御懸念でも?」
「あぁ、うん。ちょっとな。
張邈って人がヤバイかもしんねぇ。」
良の懸念を聞いた途端、網金の顔に尋常ならざる変化が起こる。
陳羣も又、興味深そうに視線を向ける。
「・・・占術でも致しましたか?」
「え?あ、うん??」
真面目くさった面で言った言葉が占いである。メッチャ戸惑う良。
「いや良羽殿には食客も居らず、私以外の商人との関係も無かったハズ。なれば他に考えられることと言えばその程度かと。」
『あ、この人占いとか気にしすぎるタイプか。・・・そういや初めて会った時に俺の事を仙人とか何とか言ってたな。』
実際、中世以前と言うのはよく分からない物を神だの何だのと信じてしまうものである。
この後漢という時代の例を挙げれば予言書が皇帝や政治家に本気で取り上げられたり、後漢書に仙人や怪奇現象の話が載ってたり、日食が悪政の象徴とされ日食を理由に偉い人がクビになったりと現代人が想像し難い程に迷信に傾倒している時代だ。
そして、そう言うものを本気で信じている人間が多い中の一人だった。
其の様相たるや現代人の良が恩人に対してドん引くほどである。
「天文を見られましたか?
其れとも易経ですか?」
『天文はまだしも、易経って何だ・・・。』
*易経・・・三国志演技で諸葛亮とかが細い竹束ワシャワシャしてるヤツ。アレ占いらしい。
「えっと・・・天文。」
「もしや凶星が!!?」
「うっウン。・・・なんぽーに誰か追っかける様に凶星が三つ流れてた。
南に向かってる誰かが死ぬかもしんねぇ。」
とっさに三国志演技の中での占いを言う良。諸葛亮が自分の死期を悟るエピソードで赤い流星が三つだったか何だったかを其処まで思い出せなかった良の究極的苦し紛れである。
さっき迄黙ってた陳羣が片眉を上げる。
図らずも良的にはいい方向に向かっているのだが、それよりも網金のテンションに引いててそれどころでは無い。
「いい、イカン!!チチチ、陳軍師にご報告せねば!!」
この世の終わりみたいな顔して慌てふためく網金。
後日、州牧お抱えのマジものの占い師がヤバイ発言をし、そこでは呂布達も其処まで不安視しなかったものの訓練中に珍し事に呂布の私物が鼠に齧られたりしたらしく張邈の元に部下を送る事が決定された。
「・・・信心深すぎるだろ。」
と呆然と此の時代の占いとかの信心深さに良は軽く引いていたが実情は違った。
空に星が輝く夜の事。
ある徐州城内の屋敷で一人の男が湯気の立つ茶を片手に充実感に浸った顔をしている。
「フフフ。
此の陳羣、良殿に感銘を受けました。」
満足そうに星々を見ながら茶をすする陳羣。
顔緩みっぱなしだ。
「天文とは。
現状を知り、張邈殿だけでは説得するに足りぬ可能性を考えて迷信を用いて劉備様に気を使わせ、袁術に対し呂将軍達からも追加の使者を出す。」
・・・何言ってるか分からないだろう。
簡単に順を追って話そう。
まず陳羣は徐州を騒乱に巻き込むのを出来れば避けたい。
次いで一度呂布を見た時に恐らくは州牧の劉備と相容れないだろうと考えていた。又、呂布と州牧の義弟達はそもそも水と油だ。聞き及んだ先日の騒乱もそれが理由で苛立ちが暴発したのだと考えている。
こんな状況が続けば必ず何かが起こる。
呂布自体の強さは理解出来るが、付かず離れずぐらいが丁度いい。そう考えていた上、持て余す兵も含め更に袁術も動かせば多少なりとも時が稼げる。
という事で出兵させてもいいのでは?と考えた。
そして、良の天文話である。
天文とは人の生死どうこうと言うより農作物の種を蒔く時期を占う事によく占われていた。
陳羣も色々と調べており、袁術を動かすのに張邈だけでは心許ない。それに呂布に勝利し少しでも曹操の気の緩んでいるであろう今、急を要するのは分かるが道中敗残兵のみを連れて賊の多い中で寿春に向かうのは自殺行為だと思っていた。
陳羣は良が陳宮あたりに話を聞いて危険に気づいたが、其れを若年の良が指摘して仕舞えば陳宮や義父である呂布達の顔を潰す事になる。故に遠回しに陳羣に助力を乞う為にワザと天文と言ったと思ったのだ。
陳羣は思う。
なんと孝徳の精神を持っている若者なのかと。更には劉備側の陳羣に相談した。此処が更に気の使える若者だと感心させる。陳羣に話す事で劉備のお抱えの占師に占わせる事により呂布の願いを劉備が聞き入れても良いと考えている様に見せられる。此れにてどれほどの期間になるかは分からないが出来うる限り劉備と呂布の仲違いを引き延ばす事ができるだろう。
勿論、良は其処まで深い事考えてはい無い。上手くいきすぎじゃね?とさえ考えている。上手くいってる理由は以上の考えにより陳羣が状況を説明し占師に懇々と頼み込んだ為だったり、呂布の私物のある場所にコッソリ鼠を仕込んだり等それはもう占い師にはネチネチ小言を言われるし、ネズミ仕込むのを頼んだ食客には怒られるわの涙ぐましい努力の賜物だった。
満足そうに杯を傾け呟く。
「フゥ、・・・才ある若者のために働いた後のこの心地良さよ。」
彼の慕われる所以、面倒見の良さ。
義務感にも似たそれは達成感を倍増させる。
けど、もう一度言っておこう。
良は其処まで考えて無い。




