或る悪魔の独白
するり、と幕が落ちる。
「さて、これでみなさんはこの北国の多くの真実を知ったことでしょう。そして私の敵――いいえ、私たちの敵の正体が何者であるかも。では今後はどうするのだ、と問われれば、実は、いま私にできることはほとんどありません。無力といってもいい……シキを取り戻すために、力でもってねじ伏せることはたやすい。ですが、それで解決できる話ではないのは、みなさんもおわかりかと……。黒竜王は国民を統べるべき存在、けれど、シキは多くの国民を焼き殺してしまった……。そしてその恐怖の竜王を軍が拘束している。正義は、国軍にあるのです。
しかしながら、たとえ私が無力であっても、シキの友や、シキを信じてくれる者がそうとは限らない。「リジル」もそのひとりです。
みなさんはすでにお気づきでしょう、あのとき、つまりシキが一学年のとき、リジルと出会ったのは偶然などではないことを。彼女の存在はシキにとって必要不可欠。彼女こそ、黒竜王に仕えるただひとりの騎士、“竜騎士”なのだから。シキが軍に囚われたいま、リジルこそ救出の鍵となるのです。
……幾重にも置いた布石が、後々効いてくれることを願うばかりです。――おや、そんなに私はしおらしく見えるでしょうか? いつもは自信過剰……ああ、それを言われてしまえば、返す言葉もありませんね。ですが私は盤上の決闘ゲームに負け、多くを失いました。なにより、リュシフュージェを失ったのは、とても、とても大きかった。私の腹心の部下であり、シキの心の支えでもあったのだから……。シキは右手の中指にその支えを失って、ふたたび孤独を抱えているでしょう。
彼の準備が整うそのときまで、シキは苦痛に耐えねばならない。そのときが明日か、一月後かは私にもわかりません。はたしてシキは耐えられるだろうか、壊れてしまわないだろうか……。あの子の脆さはよくわかっている。だから私は、彼とあの子を信じるしかない……おや、彼とはだれのことか? いえいえ、みなさんもよくよくご存知かと。そうですね、ひと言で申し上げますと、キリク・パーシヴァルの友、といっておきましょう。
さて、おしゃべりが過ぎました。
百年に一度、二つの月が重なる現象――双蝕が訪れるその日こそ、すべての決着をつけるとき。それはくしくも、シキら魔法学校三学年の卒業式が行われる日……。
それでは、みなさんとはここでお別れです。こうしてお会いすることはもう叶いませんが、また舞台の上でお会いしましょう。黒竜王の祝福があらんことを――」
するり、と幕が上がる。




