旅のはじめに
科学者とは実に自分勝手な生き物だ。
周りを振り回し、結果が出るかもわからない研究に己の一生を捧ぐことを最大の幸福だと疑わない。
「理解されないこと」こそが誇りのように思える。
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25歳にして“心律同期装置”を完成させた私は、
所謂「天才」に分類されるのだろう。
あの装置は、人を信用できない自分の為につくったものだった。
感情の波長を読み取り、心拍や思考の揺らぎを共鳴させる。
それによって、言葉を介さずとも相手の安否と信用度がわかる。
私はその装置を、後妻と娘に渡した。
離れていても互いの心の状態を感じ取れる小さな装置。
ペアリングされた二つの装置は、心の通い方によって色が変わる。
白、青、赤、金——。
親愛が深まるほど色は進化し、もし相手が裏切れば色は落ち、
そして、どちらかが息絶えると、装置は無色となる。
私はその装置を携え、不治とされた娘の病を癒す方法を探す旅に出た。
旅の途中で、私はこの装置を売ったり、あるいは心を通わせた者たちとペアリングしていた。
やがてその噂が皇帝の耳に届き、装置の製造法と特許の買取を申し出てきた。
私は名誉にも富にも興味がなかったので、旅の支援と研究の自由を条件にそれを承諾した。
一年も経たぬうちに、その装置は国中に広まった。
そしてある日、学者たちがある事実に気づく。
——色が上がるほど、装置から得られるエネルギーが増している。
製造時に費やすエネルギーは僅かにも関わらず、だ。
皇帝はその力を「友情エネルギー」と名づけ、
装置を“友情”と呼び、
国を挙げて“友情”の買取を始めた。
私が旅に出てから三年。
ある日目を覚ますと私の装置は、後妻の分が白く、娘の分が……無色になっていた。
慌てて帰ると、後妻は使用人たちと関係を持ち、
娘の治療費を遊興に使い果たしていた。
娘は、満足な治療も受けられぬまま、静かに息を引き取っていた。
後妻と使用人たちを追い出し
娘の侍女達と小さな葬式を開いた後
絶望に沈む中、私はふと気づいた。
——娘の病の進行があまりにも早すぎる。
旅に出る前、医者に6年はもつと言われていたのだ。
そこで研究を重ねるうち、私は恐るべき真実に辿り着く。
“友情”の余剰エネルギーは、持ち主の生命力を吸い上げて作られていたのだ。
健康な人間では気づかない程度の量だったが、
弱った娘には致命傷になった。
あの装置は、装置にこめられた気持ちに同調して、人の命を削っていた。
娘を殺したのは、他でもない、私の発明だった。
もちろんすぐに皇帝に進言した。
だが彼らはすでに真実を知っていた。
——“友情”が人の命を吸うからこそ、国のエネルギーは満ちていたのだ。
国はその事実を国民に隠し続けた。
私は科学者であり、罪人でもある。
自分の為に作った装置で、
大切な娘 ノアを殺した。
私――エリオットは再び旅に出る。
今度は「命を奪わず、心だけを繋ぐ装置」を作り、
国に知られぬよう密かに人々へと渡し、
“友情“を売ってはいけないと伝えていく旅だ。
それがノアへのせめてもの償いになると信じて。




