プロローグ
とある街の人気のない路地裏。
その片隅に、小さな少年がいた。
少年は孤独だった。
貧乏故に孤独だった。
赤ん坊の時に捨てられ、
夫から逃げ子供を亡くした女に乳を与えられて奇跡的に生き延びた。
女は少年が物心つく前に死んだ。
だから少年は知らなかった。
腹を満たすには金がいることも、人のものを奪うと罰されることも、そしてこの国の仕組みも。
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体を何かで包みたくなるようなこの苦しさは“サムイ”というらしい。
足の先がピリピリするのも、そのせいだろうか。
この前、“パン”をくれた人がいた。
おなかが痛いのが治ってとてもいい気分になった。
「オイシイ?」って聞かれたから、きっとその気分は“オイシイ”なんだと思った。
次の日パンがいっぱい置いてあるところを見つけたので、たくさん食べた。
オイシイだった。
でも、そばにいた人に殴られた。
殴られたところがジンジンしてイヤな気分になった。
イヤだと言ったら、また殴られた。
たしか「“カネ“払え!」と言っていた。
カネってなんだろう。
袋から小さい板を出してパンをもらっている人を見た。
多分あれがカネなんだろう。
あれがあればパンをもらえる。
だから同じような袋を持つ人から取ったら、また殴られた。
訳がわからなくてなんでと聞くと
「なんで?“フツウ“に考えたらわかるだろうが!」
と言っていた。
わからないのは、ボクがフツウじゃないからだろうか。
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「じゃあ、僕が教えてあげるよ」
しがない旅人と名乗るその人は、街の誰よりも優しかった。
サムイ時に震えていたら、自分の服をかけてくれた。
初めてのことだった。
オイシイだった。
「僕はエリオット。ただの旅人さ。
君の名前は?」
ナマエっていうやつを持っていないと言ったら、
「君がいいなら僕がつけてあげようか?」
と言ってくれた。
オイシイだった。
エリオットは少し空を見上げて考えたあと静かにつぶやいた。
「……“ノア”はどうだい?」
ノア、ノア、何回も口に出してみる。
いい気分だった。
エリオットにオイシイと言った。
「それは“ウレシイ”だよ」
エリオットは笑ってそう言ったけど、少し寂しそうだった。
⸻
エリオットは名前のほかにもたくさんのことを教えてくれた。
水浴びの仕方、パンの買い方、そしてカネの貰い方。
「この国ではお金でこの“友情“を買って相手と信頼を育むことによって白→青→赤→金とランクを上げ、
色を持った"友情"を売ってお金を得るんだ。
逆に嘘をついたり裏切るとランクが下がってしまう。」
エリオットはそう言って“友情”という名のぼんやりと白く光る変な形の石をカチカチさせていた。
「で気になるのはここだよね!いくらで売れるのって。
青は30ディル、赤は50ディル、金は100ディルで売れるんだよ。」
えっと、1ディルでパン10個買えるから…。
…!毎日おなか一杯たべられちゃうよ!!!
「はははっそうだね!」
でも、ボク“友情”持ってないや…。
「そういうと思って....
...ジャン!ここに二つの友情があります。
これをノア、君にあげましょう。」
エレオットはそう言って手に持っていた2つの石をボクにくれた。
「1つはノアが仲良くなりたいと思う子とペアリングする用。
もう一つは僕と既にペアリングされているものだよ。
そのボタンを押したら僕がここを離れた後も話すことができる。」
ねぇ、これを売ったらエリオットと話せなくなるの...?
そう言うとエリオットはキョトンとして、
次の瞬間とても嬉しそうに笑い出した。
「っふはは!
そうだね、大事なことを言い忘れてたよ。
この国では”友情"を売ってお金を得てる人が多いけど、お金を得る方法はそれだけじゃない。
人は他人や国の為に何かするとその相手からありがとうという気持ちでお金を渡してもらえるんだ。
元々この国だってそうだったんだよ。
"友情"を国が買い取るようになってからこの国はそうじゃなくなった。
......ノア。
これだけは覚えておいて、"友情"をお金のために育んではいけない。
そして極力“友情“は売らない方がいい。
"友情"は、お金じゃなくて、大切な人と繋がるためにあるんだから。」
エリオットの言っていることは難しかった。
でも、大事なことなのだろうと思ったからいつかわかるようになるまでちゃんと覚えておこうと思った。
手のなかにある石は他の石と違って持ってると心があたたかくなった。
大事にする......絶対、大事にするよ!
エリオットはボクを見てにこって笑ってた、けどどこか遠くを見つめるような目をしていた。
その目の奥にあるものが何なのか、ボクにはまだわからない。
それでもうれしい気持ちが胸いっぱいに広がった。
――――2年後
とある街の人通りの多い通り。
パン屋の裏口から、少し大きめの制服を着た少年が出てきた。
「おばさん、行ってくるよ!」
「気を付けていくんだよ!ノア!」
ノアは少し背が伸び、住み込みでの仕事も慣れてきた。
今日は初めての登校。
胸が少しドキドキしている。
学校につくと門前に、同じくらいの年頃の少年が立っていた。
制服は少し大きく、緊張した表情。
ノアは首にかけた赤色の勾玉型の装置を握りしめた。
そして、大きく息を吸いその少年に駆け寄った。
「ねえ!友達にならない?」
ノアは心の中であの旅人の言葉を思い出す。
――“友情“は、お金じゃなくて、大切な人と繋がるためにある――
今なら少し彼の言っていたことがわかる気がする。
「これからよろしくね」
ノアは微笑み、白い装置を差し出した。
――――
スラムで出会った少年に“ノア“と名づけたのは少しばかり自分勝手な話だとは思う。
あの子に目が似ていたからだろうか、
髪色が同じだったからだろうか、
はたまた楽しそうに疑問を投げかけてくる姿が重なったからだろうか。
あの時、無性にあの少年をノアと呼びたくなった。
あの少年は無知で無垢だった。
既に“友情“を巡る制度の甘い蜜を啜っている人間は何を言っても聞かない。
だから、あの装置の正しい使い方を教えた。
あの装置は売ってはいけない。
これはとある男の贖罪の物語。
お読みいただきありがとうございます♪
続きは明日投稿させていただきますので宜しければまたお読みいただけたら幸いです✨




