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消えかけた火
列車を降りると、潮の匂いが微かに風に混じった。
出雲市駅から、かつて歩いた道をたどる。
バスに揺られ、海沿いに出る。
まだ朝の光は低く、雲が海面を覆っていた。
稲佐の浜に立つと、砂が白く霞んでいた。
まるで何かがそこから失われていくように見えた。
(帰ってきた)
波の音が、遠くからゆっくり押し寄せる。
砂に足跡を残しながら、燈は浜を歩いた。
浜の端に、祠のような古い石碑が立っていた。
その周りの砂が、奇妙に色を変えている。
灰色――いや、もっと白に近い。
(……忘却の灰)
思わず足を止める。
ここに来るたびに思い出すことと、忘れてしまうことがあった。
けれど今は、それさえも薄れている気がする。
火打ち石を握ると、冷たい感触だけが返ってきた。
(……火が弱まっている)
視線を上げると、雲がわずかに割れ、鈍い光が差した。
それは何かの兆しのように思えた。
(ここから始めよう)
そう心に決め、砂を払って再び歩き出した。




