2話 峠で速えぇヤツ
俺はヤリスを車の助手席に乗せ、先を急ぐ。
「見たこと無い乗り物ですけど、どういう乗り物なのですか? 魔法車とか?」
「魔法車? なんだそれ。えっと、これはランサーエボリューションと言って、俺の愛車なんだ」
「どういう仕組みで動いているのでしょう」
「ガソリン車を知らないのか。ここはそういう車が存在しないのか。……まあ離せば長くなるから車とだけ覚えてくれればそれでいいかな」
「そうですか……」
ヤリスは少し残念そうな顔をした。よほど興味があったのだろう。
「俺は日本て言う国から来ててさ、ここのルールとかがよく分からないんだ。特にレースのルールが」
「そうだったのですね。ルールはその場その場で違いますが、一つ共通しているルールがあって、どんな乗り物、空飛ぶ絨毯であっても、コースは絶対に沿うように走行して、飛んでショートカットしてはいけないんです」
「なる程なぁ」
空飛ぶ絨毯て言葉が聞こえてきたけど、異世界なんだし、突っ込むのは野暮なんだろうなぁ。
と、ヤリスが言っていた山の麓までついたようだ。
俺とヤリスは車を降り、麓で待っていた集団の元へ向かった。
「逃げずによく来たな! ヤリス」
「ガルマス……」
ガルマスは高圧的にヤリスを見下し、ヤリスは親の敵のような目でガルマスをにらむ。
「早速始めようか。って、ヤリス、お前馬はどうした」
「馬は事故で亡くなりました」
ガルマスは過呼吸で死にそうになるくらい笑っていた。
「お前、どうやって勝負すんだよ! お前が走るのか?」
「いえ、三菱さんにお願いしようと思います」
ガルマスは俺を一瞥して言った。
「おいおい良いのかよ。この勝負はお前が負けたら、お前の国はこのガルマスの物になるんだぞ? そんな大事な戦いをあんなどこの馬の骨かも分からないような奴に預けるのか?」
「それしかもう方法がありませんから。それに、三菱さんは私を抜き去りましたから、大丈夫なはずです」
「ふん。なら始めようぜ」
「忘れないでくださいね。あなたが負けたら拉致した国民を解放することを」
「分かってるよ」
ガルマスは俺の方を見て言ってきた。
「さっさと隣に並べろよ。お前のライドル」
「ライドル?」
「お前どうやって走るんだよ!」
「ああ、車の事ね。オッケー」
「ヤリス。助手席に乗ってくれ。道案内をしてほしい」
「わ、分かりました」
俺とヤリスは車に乗り込み、スタートラインにランエボをつけた。隣にはヤリスが乗っていたものと同じ馬が並ぶ。
麓のスタートラインは、馬の鳴き声もかき消され、ランエボがふかす音と、ミスファイアリングシステムの破裂音だけが響く。
「10のカウントで始める。俺が腕を下ろしたらスタートだ」
ガルマスの部下がそう言ってきた。
「三菱だっけ? 負けねぇぞ」
「こっちこそ。ぶっちぎってやる」
「カウント始めるぞ! 10! 9! 8!」
カウントが始まった。俺はクラッチを踏み、再度ブレーキに手をかける。
「3! 2! 1! GO!」
スタートした。瞬発力は馬が速かったが、すぐに俺のランエボが前に出た。
「なんだあの加速力は!?」
グラマスが驚愕する。
すぐに第一コーナーに入る。ここからヒルクライムが始まる。夜の峠のヒルクライムは危険だ。だがびびってちゃ勝てるものも勝てない。
「最初はキツイ右です!」
ヤリスのサポートが入った。
「オッケー」
ブレーキを一瞬踏む。まだ二速にいれたばかりだから、そのままコーナを攻めていく。うまいことインにつけた。そして少しアウトに膨らみながらコーナーを抜ける。理想的なラインだ。
「うまくいきましたね。ですが、このコースは結構テクニカルです。気をつけてください」
「了解」
コーナーの先は中距離の直線だった。俺はアクセル全開で加速していく。
速度にして95キロを回ったところ。だが後ろの馬は10メートルほど後ろをついてきていた。
「あの馬結構速いな。馬ってあんなに速かったっけ」
「あれはファストホースです。普通の馬よりもずっと速いですよ。あ、次緩い左です」
左コーナーもクリア。ガルマスも辛うじてついてきている。
「この先、すごくキツイヘヤピンです!」
明らかにグラマスの速度が落ちた。
「馬鹿が! この先のコーナーを知らないのか。あんな速度で侵入したらつっこんで終わりだ!」
俺はフルブレーキで速度を落とす。一速までギアを落として、左に舵を切り、きっかけを作る。
「ここだ!」
クラッチを蹴り、サイドブレーキを引いて右にハンドルを切った。後輪が滑り出し、急に車体の向きが変わり出す。
「す、滑ってるぅ!?」
ヤリスの悲鳴も無視して、俺はインに寄せて素早く方向転換し、絶好のタイミングでクリップについた。
「な、なんだと!?」
そこからフル加速していき、二個目、三個目のコーナーも難なくクリアした。
そして、バックミラーには、もうガルマスの姿は無かった。
その日、俺はレコードタイムでこの峠を走破したらしい。まあとにかく、俺は勝ったのだ。
「なんだよあの速さ。尋常じゃねえ。その車も速いが、あんな視界と道の悪い夜のヒルクライムであれだけ速度を出すとは。狂ってるぜ、お前」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
ヤリスはガルマスに、どや顔で言った。
「さあ、拉致した国民を帰してもらいましょうか!」
「わ、分かった。約束は守るよ」
よく分からないけど、一件落着したみたいだ。
俺たちは、グラマスに拉致被害者の解放を約束させ、山を下りていった。




