1話 転生
俺、三菱美春は死んだ、多分。心臓が急に痛くなって、そこからの記憶が無いから、多分そうなのだろう。
なら、ここは天国ってことなのだろうか。一面の青空が広がり、雲の上に俺は座っているし。
そして、俺の前には老人が一人座っていた。その老人はなんだか申し訳なさそうな顔をしていた。
「お主は何故死んだのか覚えているか?」
老人が話しかけてきた。
「多分、心臓発作とかだと思いますけど……」
俺がそう答えると、老人は一つため息をついて、こういった。
「それで間違いない。だが、お主はまだ死なない予定だったのだ」
ちょっと何言ってるか分からなかった。死なない予定だった? まず予定とかあるのか? そしてこの老人は俺が死ぬ予定の日時を知っていたのか?
「予定というのはどういう……」
「本来、お主はもう20年先に心臓発作が起きる予定だったのだ。だが、わしの手違いで20年早く死なせてしまったのだ」
「そんな馬鹿な。死ぬ予定とか、そんなもの知ってるなんておかしいだろ。そんなの、まるで神みたいじゃ無いか!」
「わしはその神だ」
ますます胡散臭くなった。自分の事を神と名乗る奴にロクな奴はいない。
「お主は大切な時期だったのだろう? それを直前に心臓発作で死んでしまうのは、いたたまれなくてのぉ」
確かに、俺は次の日に大きなラリーレースの大会を控えていたが、何故知っているのだろうか。
「確かにレース前だったのはそうですけど、俺はまだあなたのこと信用していないぞ」
「そうか。まあ、信用せんでも良い。だが、お主が死んだことには変わらないがの」
「そこでだ。お主には、別の世界で三菱美春として転生刺せてやろうと思ってな」
転生? なんか漫画で昔見たような気がするが、まさか俺が転生するのか?
「転生って。異世界に行くやつですか?」
「そうだ。お主の世界では漫画などで人気だったろう? あれと同じだと思ってくれればいい」
「あれと同じって……俺、戦うとか無理ですけど」
確か異世界モノの漫画って、主人公がチートスキルを手に入れて無双するみたいな展開だったはず。けど俺、そもそも戦いたく無いんだけどな。
「お主が転生する世界は特殊でな。速さが強さの指標となっている世界なのだ。つまり、一番早い者が一番強いということだな」
早速訳が分からない。なんだよ最速=最強って。
「それはどういうことですか?」
「よくあの世界では、決められた区間をより短い時間で走りきった者が勝者としているな」
つまりはトップスピードの勝負じゃない、タイムの短さでし勝敗を決めるやり方のようだ。
「レースして、早い奴がこの世界で強いって事ですか」
「そうじゃな」
なる程、なんとなくは分かった。だがこの世界では俺は恐らく一番弱いだろう。
「俺、かけっことか苦手なんですけど」
「心配するな。お主が走るわけでは無い。せめてもの償いとして、一つお主にプレゼントを贈ろう」
そう言うと、自称神は空に手をかざした。すると空中に見覚えのある物が浮かんできた。
「あ! 俺のエボ6! なんでここに」
「そうだ。お主が生前乗っていたランサーエボリューションⅥだ。これを転生するときに一緒に持って行ってもいい」
「つまり、いわゆるチートがランエボって事ですか」
だが、これは良いかもしれない。俺のランエボがあれば、速さが全ての世界でも何とか生きて行けそうだ。
「そうじゃ。では早速転生させよう。お主の第二の人生に幸あれ!」
「ちょ! いきなり過ぎじゃ」
俺が言い切る前に、異世界へ飛ばされた。
目が覚めると、俺は山道にいた。隣にランエボもいる。ランエボの状態は俺が生きてたときのままだ。……いや、少し違う部分がある。まず給油口が無い。そして中の前にカーナビがあったパネルに、別の物が埋め込まれている。
「なんだこれ」
俺は中に入ってパネルをいじってみた。
「システム起動。自動カスタマイズシステム、起動しました」
「自動カスタマイズシステム?」
俺はメーターに貼り付けられた紙を見つけた。
「なんだこれ。……美春へ。このランサーエボリューションには改造を施している。まず、燃料は一切要らない。仕組みは伏せておくが、燃料で心配することはないぞ。次に自動カスタマイズシステムだ。これは車の調整から大幅なカスタムの変更までを自動で行ってくれる。これであとは頑張ってくれ。神より。……まじかよ」
ともかく、燃料やセッティングには困らないという事らしい。
「ともかく、まずは移動してみるしか無いな」
俺はランエボに乗り込み、山道を進んでいくことにした。
夕刻の薄暗くなってきた山道に、一人の少女が馬を走らせる。
「早く行かなくちゃ! 国の命運をかけた勝負だもの、絶対に間に合わないとお父様が!」
少女は急いでいるようだった。額に角を生やしたとにかく速い馬に更に鞭を打ち、加速刺せる。
すると段々爆発音が近づいてきていることに気づいた。
「なに!? 何の音?」
後ろから近づいてくるのは、光を放ち、爆発音を連続で出しながら走ってくる四輪の乗り物だった。
少女は、更に鞭を打つ。
「これから大事な戦いがあるのに、こんなところで譲る訳にはいかないでしょ!」
少女は、できるだけインをついて曲がる。だが、後ろの乗り物はアウトから少女を躱して前に出た。
「嘘! でもあの人ここを知らない見たいね。この緩い右の先は、すぐに急な左コーナーが待ってる。あの速度じゃ曲がれるはずが無い!」
だが、前の乗り物は車体を大きく振って、難なく左コーナーをクリアしていく。
少女は動揺し、謝って馬に指示を出してしまう。
「あ!!」
馬は石につまずき、少女が落馬してしまった。
「あれ? 後ろにいた速い馬は?」
俺は異変に気づき、急遽ターンして来た道を戻る。すると、少女が落馬して蹲っていた。
俺はすぐに車から降りて駆け寄った。
「おい! 大丈夫か!?」
「は、はい。大丈夫です……って、馬は!? う、うそ……お父様…………」
少女は無事のようだが、何故か絶望していた。
「ど、どうしたんだ? 大事な馬だったのか?」
「はい。私、これから国をかけた戦いをするために森の先へ向かっていたんです。ですが、馬がこの有様で。私、これからどうすれば……」
「な、なあ。戦いって速さを競う奴か?」
「? 当たり前でしょう?」
「そ、そうか。なんだか悪いし、俺が代わりに行こうか?」
正直怖いが、少女の悲しそうな顔を見ると、なんともいたたまれない。
「良いのですか!? 確かに先ほどの走り、大丈夫かもしれません」
「決まりだな! 俺は三菱美春」
「私はヤリスです」
「ヤリスか。速そうな名前だ。よろしくな!」
こうして俺とヤリスは戦いに挑む事になった。




