第1章 第7話 生徒会
「ごめん、助かった鎌木」
「ほんとにね。よかったよあたしが寝坊して」
喧嘩というか言いがかりというか、とにかく厄介事を収めてもらった俺は、瑠奈と一緒に生徒会室に訪れていた。
「とりあえず両方お咎めなし、でいいよね? やろうと思えば停学にはできるけど」
「いや、俺も煽ったしな。面倒事はごめんだ」
ここで向こうだけ処分を受ければ、謹慎明け何されるかわからない。少し納得はいかないがこれがベストだろう。それにそういう約束を、先輩としてるし。
「……せんぱいにもお友だちがいらっしゃったんですね」
静かにちょこんと座っていた瑠奈が静かな笑みを浮かべながらつぶやく。
「別に友だちじゃないよ。こいつ自分のカースト下がるからってクラスでは俺のこと無視してるから」
「相変わらずやな言い方。なんかあたしがクズみたいじゃん」
「クズじゃないとは思うけど事実だろ」
「お互い話しかけても困るでしょ」
「まぁな」
「というわけで、友だちって言うより仲間? って感じ!」
鎌木凛。髪を鮮やかな金に染めたいかにもイケイケですよ感を出しているクラスメイトだ。
だがそれは見た目だけで、実は高校デビューちゃん。だからかは知らないが、立ち位置的な物にすごい気を遣うし、何より他人をよく見ている。
おかげで俺の考えていたことを完璧に見抜いてくれた。瑠奈を巻き込まない形での問題解決。瑠奈にも罪悪感的なものはないだろうし、本当に助かった。
「あ、今さらですけど自己紹介させてください! 久司せんぱいのルームメイトになりました、金銅瑠奈です。仲良くしてください!」
「うん! こっちこそよろしくね!」
「そっちの相方は?」
「あ、忘れてた。一応部外者だからねー。八雲と違ってそこら辺ちゃんと考えてるんだよあたしは。入っておいでー」
鎌木の呼びかけに応じ、生徒会室に入ってきたのは黒髪の女子。背丈や顔立ちなんかはまだ中学を卒業したばかり感が出ているが、雰囲気がなんか大人っぽい。確実にこの馬鹿2人よりかは。
「はじめまして。羽撃珠緒と言います。鎌木先輩からお話は伺っています、久司先輩。私も生徒会に入りたいと思っているので、その際はよろしくお願いします」
「あぁ……。ごめんだけど俺、生徒会辞めたんだよ、昨日。鎌木も言っとけよ」
「ちょっと花音さんと喧嘩したくらいで辞めるなんて言わないでよ。それにどうせ説得されて戻るでしょ?」
「喧嘩してないし戻らない。約束したんだよ、先輩と」
「というか今さらなんですけど……せんぱいって生徒会だったんですね。なんというかその……意外です」
他人の前では猫をかぶらなくてはならない瑠奈が最大限言葉を選んでそう言う。本音では「せんぱいが生徒会ですかぁ? 意識高い陰キャとか1番きもいんですけどー」とか言いそうだ。
「去年の相方が今の生徒会長なんだよ。だから強制的に入れられた」
「えぇっ!? あのアイドルみたいな方とっ!?」
さすがは先輩。もう1年に覚えられてるんだ。
「とりあえず俺もう帰るから。下手に残ってて先輩とバッティングしたくない」
「だから仲直りしなってー。つい最近まですごい仲良かったじゃん!」
「仲良くないし喧嘩もしてない。それにせいせいしてるんだよ。元々生徒会なんて入りたくなかった。ようやく先輩と別の部屋になれたんだ。これを機に辞める。絶対戻らない」
「はぁ……。八雲そういうとこあるよねー……。あ、花音さん!」
「っ!」
慌てて物陰に隠れたが……誰も入ってこない。騙しやがったな……!
「まぁほんとに会いたくないみたいだからいいけどさー……。そんな態度とってると、いくら花音さんでも嫌われちゃうかもよ?」
「……うるせぇよ。瑠奈、校内案内するからついてこい」
「え、あ、はいっ」
他人がいる以上瑠奈が反抗することはない。軽く頭を下げて、俺の後をついてくる。
「じゃあな。さっきは助かった」
鎌木の返事も待たず、俺は生徒会室の扉を閉める。もうここに帰ってくることはない。その覚悟を決めてだ。
「……せんぱい、ほんとにこれでいいんですか?」
周りに人がいないにも関わらず、瑠奈が控えめな様子で見上げてくる。
「いいんだよ。今の俺は先輩より、お前の方が大事だからな」
「うわきも……あ、ごめんなさい! つい本音が出ちゃいました!」
「当たってるからいいよ」
「はぁ……そうですか」
瑠奈の言う通りだ。どうしてこんなに、もう会えない先輩のことを気にしてるんだ。本当に、気持ちが悪い。