第1章 第5話 起床戦線
朝。それは人間が最も油断する時間帯である。言い換えれば一番危険だということ。
俺が起きる前に、ベッドに忍び込まれたらアウト。カーテンを開けて着替え中に出くわしても厳しいだろう。いや、もっと前。深夜に仕組まれたらどうしようもない。だから。
「……よし」
俺はイヤホンをつけたまま就寝。朝5時に目覚ましをかけ、瑠奈の襲撃に備えることにした。が、
「……来ない」
6時になっても、7時になっても起きてこない。顔洗ったり、着替えたりと物音を立てても仕掛けてこなかった。
となると考えられるのは、起こしに来た俺を狙っての撮影。上のベッドのカーテンを開けたらスマホが俺を狙っている。というのが考えられる。
その手は食わないぞ。対処は簡単。奴がベッドからおりてくるまで待っているだけでいい。が、それでも。
「……もう9時だぞ」
いつまで経っても起きてこない。今日は授業はなく、先輩が学校案内する日だから起きなくてもいいのだが、さすがにそろそろ朝ごはんが食べたい。
いつもだったら冷蔵庫にストックがあるのだが……先輩に持っていかれた今、この部屋に食糧はない。だから食べにいかなきゃいけないのに。
「瑠奈! 起きろっ! 朝だぞ!」
こうなったら仕方ない。俺は下から瑠奈に声をかけた。
「ふわぁい……」
すると力ない返事が返ってきた。普通に寝てた……? いや油断はできない。
「アイマスクつけてるからな。なにしても無駄だぞ」
ここで裸に近い格好で来られたら困る。だから対策は完璧だ。
「…………」
「……瑠奈?」
梯子が軋む音がし、隣を通り過ぎた感じがしたが特に何もない。普通に朝に弱いだけか……?
「えー、と……」
「……おはようございますぅ……」
妙な感じがしてアイマスクを外すと、瑠奈はすぐ隣で目を擦っていた。てっきり裸ワイシャツとかで攻めてくるかと思っていたが、白シャツとショーパンといういたって普通の部屋着。肌の露出は多いが、正直肩透かしだ。いや期待していたわけじゃないけど。そして何より……。
「メガネ……なんだ」
「ふゎい……。ちょっと目が悪いので……」
縁がピンク色の丸メガネ……。なんかおしゃれぶって大きいことは気になるが、すごいギャップを感じて、なんか……こう……。
「早く顔洗ってこい。朝飯食いに行くぞ」
「はぁい……」
少し、照れる……。
「……あ、それと結構ベッド軋むし……音も漏れるから。するなら風呂場とかにしとけよ。俺そっち行かないから」
「……? なんのことですかぁ……?」
「いやエチケットの話でさ……」
「…………。……ふわぁっ!? ちがっ、ちがいますからねっ!?」
「あーうんわかった。とりあえず着替え、早くしろよ」
「あーもうほんとむかつく! ほんと最低っ! デリカシーなし男っ! 退学退学退学退学退学っ!」