コウキかも。
「昨日さぁ、界英の男が自転車でぶつかって来てさあ。信じられない!」
「えー?どこで?」
「駅前。明らかによそ見していたみたい。」
「でもさあ。界英でしょ?お近づきになるチャンスじゃないの?名前とか聞かなかったの?」
「聞いてないわよ。見るからに鈍くさそうだったもの。」
久しぶりに登校するようになって数日が経ったある朝のこと。教室でそんな声が聞こえて来た。界英ってコウキの学校じゃないの。しかも鈍くさそうって。コウキは人が好さそうな感じだから、そういう状況の時なら鈍くさそうに見えるかもしれないわね。
コウキだとしたら、駅前に寄る用事はないはずだから、もしかして私を探している?甘い期待に胸がチクンと痛む。
コウキに会ってみたい気はするけど、やり直すかどうか、まだ私の中で答えは出ていない。それにメールもLINEも一切スルーしたのは私。遠距離なんかして、浮気されてもイヤだから、留学するときに断ち切ったんだもの。
「ダメダメ!期待しちゃ!」
「どうしたの?」
留学仲間でもある里奈の声にハッとした。思っていたことがそのまま独り言になっちゃっていたのね。そういえば里奈とおしゃべりしていたんだったわ。
「あ。ごめん。なんでもない。」
「そういえば、美玲って界英に彼氏いなかった?」
先ほどの会話を拾うようにして里奈が言い出した。
「ああ。モト彼ね。」
「え~?そうなの?まだ付き合ってると思ってた。」
「そうよ。留学のときに別れて、それっきり。」
「どうりで彼氏の話をしないと思ったら。」
そういえば、別れたこととか、里奈に話してなかったっけ。いつも里奈ののろけ話を聞いて、私の話題に触れられることもなかったんだったわ。
「それでいいの?嫌いになったわけじゃないんでしょ?私、留学前からずっと続いてるよ?」
「まあね。続ける自信がなかったし。相手、受験生だしね。」
里奈は留学前からの彼とずっと続いている。留学中もマメに連絡を取り合っていた。私は、その自信がなくて別れたのよね。
「愛があれば大丈夫よ!昨日だって、ウフフ…。」
里奈は頬を赤らめる。いやはや尊敬するわ。私は付き合うとか彼氏とか向いてないんだろうな。遠距離めんどくさっ!とか浮気されたらイヤとか思って別れるほうを選んだわけだから。里奈みたいに可愛かったら、自分に自信があったら、遠距離という選択肢もあったかもね。




