第12話 地獄のレベリング〜効率を追求しているだけですよ〜
――1週間後
「帰ってきたわね。あまり長く空けたわけじゃないけど懐かしいわ。そうか、連れてこられたんじゃなくて、私の意思で帰ってきたのね」
幽閉されていた屋敷の自室に入り、そうつぶやく。
リグに拾ってもらってから1週間、飛び地の村々を巡ってその惨状を見てきた。あまりにも酷く、ロイドとアヤ、メアは絶句していた。
私は両親と同じようにはなりたくない。だから自分が新しい代官であり、この状況をどうにかすると約束してきた。
少々厳しい言葉もかけられたが、状況から考えてそれくらいのことは言っても当然だろう。
決して、私は両親の尻拭いをするのではない。私の意思で、そうするのだ。
「私の到着と同時に代官が追い出されたのは好都合ね。伝書鳩に私の代理に求める条件を詰めた書簡も持たせたし」
早い段階で意見を交わし合える方がいい。それに私は代官としてズブの素人だ。詳しい人間がいるに越したことはない。
――コンコンコン
「入って」
「アリーシャ様、使いの人が来まして……御三方がいつまで待たせる気だ、と」
「へぇ、そう」
先程ついたばかりの人間にその言い草とは。そうか、そんなにレベリングがしたいか。
「アヤ、ロイドを呼んでついてきて。貴女にもダンジョンで手伝って欲しいことがあるの。大丈夫、怪我はさせないから」
3人組のトレーニングメニューから安全性を少し外そう。多少は態度がマシになるかもしれない。
――――
「う、うわぁぁぁぁ!! 魔力が、魔力が!」
「ひぃぃぃ! 来るな、来るなぁ!」
「はいはい、騒いでないで魔物を倒す。死にたくなければ剣を振って魔力を絞り出して下さい」
ダンジョンに入って3時間、最初の悪態はどこへやら、必死の形相で泣き叫ぶグレイドとジェイスを見ていると哀れにも思えてくる。
ここはダンジョンのレベル20程度の魔物が出てくるどん詰まりの部屋。そこに魔物呼びの札を100枚ほど張って作った魔物がほぼ無限湧きする狩場だ。
本当はソロでやらせたかったが生憎私の体は一つしかない。3人では効率が下がるがそれを安全性を犠牲にすることで補っている。
「後1時間ほどすれば食事休憩です。頑張って下さい」
「い、1時間だってぇ!? そろそろ帰還した方が……」
「ああ、時間の心配なら必要ありません。まだダンジョンの外では3分くらいしか経っていないので」
「は、はぁ!?」
このダンジョンは入り口で扉に魔力を流せば内部構造を変えることもでき、任意の階層に行くこともでき、出現する魔物やレベル、果ては時間の進み方も設定可能だ。
今はダンジョン外の60倍の時間をこの中で確保できている。
「うわぁぁぁ! 魔力が切れた!」
「元気ですね。はい、マナポーション」
――バシュッ!
マナポーションの成分を魔力弾に折り込み、ジェイスに向かって撃ち込む。私のいる位置は部屋の中にあるバルコニーのような場所で、丁度全員が見渡せる。
義眼で確認している上に魔力や体力が切れそうなら撃ち込むと言った。それなのになぜここまで騒ぐのか。
ましてや飲んでいたら非効率だから自動回復になっているのもありがたいと思ってほしいものだ。
「はぁ、先が思いやられるわ」
――バシュッ!
「……」
やはり王子様の様子はおかしい。体力が減っていたからポーションを撃ち込んだが特に反応するでもなく死に物狂いで魔物を倒している。おかしなものでも食べたのだろうか?
――1時間後
「アリーシャさん、お疲れ様です!」
「あら、ロイドも丁度休憩?」
一旦休憩時間になり、部屋から出た通路の部分に3人組を引っ張り出しているとロイドがやってきた。ダンジョンに入る前にロイドがソロでやってみたいと言ったので同じ構造の別部屋を用意したのだ。
「はい! 1体あたり10秒かからず倒せるようになったのでキリがよくて休憩にきました」
「いいじゃない。レベル30だと20の敵は物足りないかしら?」
「ええ、まぁ。レベルも上がった感じはしないですし。ところで御三方はどうしたんです?」
床に横たわり息も絶え絶えな3人組を見てロイドが不思議そうな顔をする。なるほど、レベル差というのはこういう認識と感覚の差を生み出すのか。
「どうもこうもないわ……これじゃ食事は無理ね」
ロイドに部屋で何があったか話しておく。すると別の意味で驚かれてしまった。
「アリーシャさんの援護があって、3人パーティの構成でこうですか!? 同じようなことしてましたけどこうはなりませんよ……」
「ええ。私も同感よ。レベルも上がってないし」
「先が思いやられますね……」
ロイドの3人組に向ける視線は憐れんでいるような目だった。そうもなるか。
「1時間休憩したら興奮剤を撃ち込んでまたレベリングさせるわ」
「じゃあ、その間魔力回路を使ったトラップの話をしませんか? 効率的なレベリングに使えると思うんです!」
「へぇ、面白いじゃない。是非聞かせてほしいわ」
ロイドとの意見交換はとてもためになる。非常にありがたい。何やらいっそ殺してくれと声がしたような気もするが気のせいだろう。
こんな程度のことで簡単に死にはしない。私がそうであったように。
――レベリング開始から10時間後
「アヤ、ごめんなさいね、せっかく夕食を作ってもらったのに」
「いえいえ、御三方のあれを見るにとても仕方ないですから」
合間の休憩から更にレベリングを数時間重ね、倒れた3人組を代車でダンジョン内の安全地帯の拠点に運びこみ、夕食にしている。
「なんとか部屋のベッドに乗せましたけど、あの様子では入浴も無理ですね」
「それなら大丈夫よ。ここに来る前に浄化魔法で綺麗にしておいたから」
部屋が別々とはいえ不衛生な状態で置いておきたくない。それに不在中に掃除をしてくれるアヤにも悪い。
「それにしても御三方は残念ですね。こんなに美味しい夕食が食べられないだなんて」
「ロイド様、お褒め頂きありがとうございます」
「本当に美味しいわよ。でもよくここまで品数が出せたわね」
「ええ、食材用のマジックバッグにかなり色々入っていたので」
「あら? そうだったかしら?」
改めて食材のマジックバッグを確認してみると確かに多種多様な食材が大量に入っている。学園長、短期間でここまで集めたのか。どれだけ今回のレベリングに本気なのか伺い知れる。
「でも良いですね! こうやって食事をして、お話して、ダンジョンも楽しいし、お泊り会、いや旅行みたいで!」
「ふふ、そうね、ロイド」
3人組が地獄にでも来たかのような様子なのにロイドはそれを旅行やお泊り会と言ってのけた。それがどこか可笑しくて少し笑みがこぼれた。
まだダンジョンの外では10分くらいだ。ロイドとアヤとの温かい時間をゆっくり味わおう。
――――
正直なところ、今回のダンジョン行きは余裕だと思っていた。大将軍の息子である俺に魔法のエリートジェイス、それに万能魔法剣士のウィルがいるなら大抵なんとかなるだろうと。
俺たちは幼い頃から鍛錬を重ねてきたし、魔物の討伐だって10歳の頃から一緒にやってきた。
「さっさとダンジョンでレベル上げて帰ろうぜ」
「ええ。こんな田舎にいても得るものはないでしょう。ねぇ、ウィル?」
「そうだな……」
あの邪竜のときから様子のおかしいウィルは少し気になるがそれでも俺たちならいけると信じ込んでいた。
だが、あのレベリングが始まって、俺たちのそんな見通しが粉々に砕けるのをこのときはまだ知らなかった。
――――
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