第234話 魔力列車
一か月という時間は、短いようでいて長かった。
だが、フロンティアにとっては――
驚くほど多くのものが、その一か月で形になった。
朝の空気は澄んでいる。
森の端、切り開かれた平地に、見慣れぬ建造物が立っていた。
駅。
それは城でも、砦でもない。
だが、人の流れを集めるためだけに設計された建物だった。
石と土を基調にした頑丈な基礎。
屋根は高く、風が抜ける。
中央には長い“道”――鉄の線が二本、まっすぐ伸びている。
その先は、森を抜け、丘を越え、フェールへと続いていた。
人が集まっていた。
フロンティアの住民。
フェールから来た者。
カームやシッパルの者たちもいる。
ざわめきは、期待と不安が混ざった音だった。
「……あれが」
「本当に、あれに乗るのか?」
「馬も要らんって話だぞ」
視線の先には、黒く鈍い光を放つ列車があった。
無骨な外見。
だが無駄がない。
グルマとドワーフたちが仕上げた車体。
レールと噛み合う下部構造。
魔力を受け取るための刻印が、控えめに光っている。
ウエスは、駅の端に立っていた。
自分が描いた設計図が、現実になった光景を、ただ黙って見ている。
「……夢みたいだな」
誰に向けたとも知れない呟き。
そこへ、ヒトシが前に出た。
ざわめきが、少しずつ静まっていく。
「集まってくれてありがとう」
ヒトシの声は、拡声の魔法もなしに、よく通った。
「フロンティア国は、これまで都市同士の繋がりが薄かった」
人々が頷く。
それは誰もが知っている事実だった。
「歩けば五時間、六時間。
情報も、物も、人の心も――途中で削られてきた」
一呼吸置く。
「だが、今日からは違う」
ヒトシは、後ろの列車を手で示した。
「魔力列車だ」
一瞬の沈黙。
次の瞬間――
歓声が上がった。
「おおおおお!」
「本当に動くんだな!」
「名前、そのまんまだな!」
笑いも混じる。
「今日は、その誕生を喜ぼう」
ヒトシは、少しだけ笑った。
列車は、百人を乗せることができる。
座席は簡素だが、十分だ。
出発の合図。
レールに魔力が流れる。
淡い光が、駅から遠ざかっていく。
列車は、音もなく動き出した。
森を抜け、丘を越え、フェールへ。
これまで、歩いて五、六時間かかっていた道のりは――
わずか四十分で終わった。
戻ってきた列車から降りた人々の顔は、興奮に満ちていた。
「早すぎる……」
「景色が流れていく……」
「戻ってきたのに、まだ昼だぞ」
ラバルは、レールを見つめながら、静かに言った。
「……これは革命だ」
その声には、政治家としての実感が滲んでいた。
グルマが腕を組み、ヒトシを見る。
「王。
……まだ知ってるもんがあったら、教えてくれよ」
「全部は無理だ」
ヒトシは即答した。
「俺も、全部は知らない」
ヨークがニヤニヤしながら口を挟む。
「王が元々人間って話、
俺ぁ嘘だと思ってましたけどねぇ」
サラも頷く。
「私も。
というより……この知識、人間でも普通は持ってないと思うけど」
ヒトシは、少し考えてから言った。
「違う世界だったんだ」
一瞬、空気が止まった。
「……はぁ!?!?」
複数の声が重なる。
「言ってなかったか?」
「聞いてません!」
「初耳です!」
「今それ言う!?」
騒ぎになる中、ヒトシは肩をすくめた。
「まあ……今後、説明する」
列車は静かに駅に佇んでいる。
だがそれは、ただの乗り物ではなかった。
都市と都市を繋ぐ。
人と人を繋ぐ。
そして――
フロンティアという国を、
“孤立した森の国”から引き上げる存在だった。
誰もが、まだ気づいていない。
だがこの日、
フロンティアは「守る国」から
「動かす国」へと変わり始めていた。




