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第214話 簡単ではない

カームの街は、生きていた。

それは復興の活気ではない。

混乱と不安が、形を変えて残っているという意味での「生」だった。

広場に集められた市民たちは、静かだ。

だがその静けさは、歓迎ではない。

ヒトシは一歩前に出た。

背後には、ラバル。

左右に、サラ、メリー、アン。

――ゴブリンキング。

その存在を和らげるための同行だが、

それでも視線は刺さるように集まってくる。

「……私がヒトシだ」

低く、はっきりと告げる。

ざわり、と空気が揺れた。

「フロンティアの王だ」

「ゴブリンキング……」

「本当に、魔物が……」

ヒトシは続ける。

「この土地――カームは、フロンティアが守る」

「王国は、君たちを奴隷として扱っていた」

「我々は、そんな扱いはしない」

一瞬、沈黙。

そして――

「待てよ」

前列の男が、声を上げた。

「俺が“所有していた奴隷”も、解放されてるんだが?」

その一言が、堰を切った。

「そうだ!」

「勝手に財産を奪われた!」

「誰が補償するんだ!」

「奴隷を解放すれば正義か!?」

不満は、不安と結びつき、怒りになる。

ヒトシは、息を吸った。

(……そうだ)

彼らにとって、

奴隷制度は「悪」ではなく「日常」だった。

ラバルが、一歩前に出る。

「聞け!」

その声は、よく通った。

「ここはフロンティアだ!」

「過去の正しさを守る場所ではない!」

「新たな自由を目指す土地だ!」

「失うものがあるのは分かる!」

「だが、それ以上に――奪われていたものがあった!」

完全な理解は、得られない。

それでも。

ぽつり、ぽつりと拍手が起こる。

賛同も、反発も、混在したまま。

それが現実だった。

シッパルは、さらに荒れていた。

ヒトシが名乗る前から、声が飛ぶ。

「まただ!」

「次は俺たちの番か!」

「ここもベスコのようになるのか!?」

「ナラカイムもフロンティアも同じだろう!」

「フロンティアさえなければ、平和だったんだ!」

怒号。

恐怖と責任転嫁が、剥き出しになる。

ヒトシは、何も言えなかった。

その背後で、魔剣が囁く。

――こいつら、全員殺すか?

ヒトシの指が、わずかに動く。

だが――

サラが、一歩前に出た。

「……同じだと思うなら」

静かな声。

だが、広場に通る。

「ナラカイムに助けを求めればいい」

どよめき。

「フロンティアは、縛らない」

「明日を生きたい者が、フロンティアを選べばいい」

「恐怖で従うか」

「不安を抱えてでも、選ぶか」

サラは、はっきりと言った。

「選択は、あなたたちのものよ」

沈黙。

市民たちは、互いの顔を見る。

怒りを向ける者。

頷く者。

目を伏せる者。

――二分。

完全に、割れた。

ヒトシは、その光景を胸に刻み込む。

(……簡単じゃない)

解放は、始まりに過ぎない。

「救った」つもりでいた。

だが実際には、

価値観の地盤そのものを揺るがしている。

ラバルが、低く言った。

「王……」

「分かってる」

ヒトシは、答えた。

「それでも、戻らない」

彼は、市民たちを見渡す。

「フロンティアは、選ぶ場所だ」

「従わせる場所じゃない」

その言葉は、希望にも、恐怖にもなり得る。

広場を後にする背中に、

賛同と罵声が、同時に飛んだ。

ヒトシは歩きながら、確信する。

――国を作るというのは、

――戦争より、ずっと難しい。

そして、

それでも進むと決めた以上、

逃げ場はないのだと。

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